上 下
13 / 49

13

しおりを挟む
レピアはノアを部屋の外に出しアールに駆け寄った。
「アール、どうしたの?どうしてそんなに怯えているの?」
レピアは震えるアールの手を握りソファに座らせた。

「…レピア。魔の扉が現れました…」

「えっ?どうして…」
こんなに急に…
前の被害からまだそんなに経っていないのに。

歴史上、こんな事今までなかった。
間隔が短すぎる。

アールは聖騎士…

「あなたも魔物の討伐に出るの?」
それで慌てて私のところに来たのだろうか?
一刻を争う事態なことはわかっている。

だが、アールがもし討伐で何かあれば…
レピアは血の気が引いた。

「いや、私は残ることになります。レピアの護衛として…」

レピアはホッとした。
その瞬間罪悪感がレピアの心の中に広がった。

他の聖騎士達にも家族がいる。
皆心配しながらも討伐に送り出している。

それなのに自分がアールを失わないとわかり安堵するなんて…聖女失格だ…

アールの握っていた手の力が緩んだ。
今度はその手をアールが両手でガッツリと掴んだ。

「レピア、お願いです。魔の扉を壊してください。」
アールは頭を下げた。

「まだ開ききっていないでしょう?」
開いていたら自分にも報告がきているはずだ。
聖女として魔の扉を壊すように。

「だが、開ききってからでは遅すぎる!前みたいに街が全滅してしまう…」
アールがこんなに取り乱すのは今までに見たことがない。

「今回も魔の扉は街中なの?」
どうして…いつもは森の中とかが多いのに…

レピアは数ヶ月前魔の扉の出現でなくなった街を思い出していた。

「お願いだ!」
焦っているアールの口調にいつもの丁寧さがない。
こっちのアールが素なのだろうか。

「アール、私もそうしたいわ。でも聖女の力では魔の扉のエネルギーには勝てない。開ききる前に手を出せばどうなるかわからない…力がぶつかり合ってこちらが押し負ければ被害がどのくらいになるのか…」

「ああ、下手をすれば聖女の命も失われるっていう…何度も教わったから知っています。だが、レピアは過去最高の聖女と言われている。できるはずです。」
握る手が強くなる。

「アール…でも…」
聖女が神殿の決まりを破る訳にはいかない。
もし壊せなかったらその後の被害がどうなるのかレピアには想像もできなかった。
その街だけではなく、この国をも危機に陥れる…

「また街を全滅させ、人々を殺すのですか?」

「殺す…」
確かにレピアが早く扉を壊せれたら魔物の流入を防げたはずだ。

私が力不足だから見殺しにした。
私が殺したも同然…

最愛のアールから言われた言葉は罪悪感を持ち続けていたレピアに衝撃を与えた。

「今回の街は俺の故郷なんだ。どうか救ってくれ。お願いだ…」
アールはレピアに頭を下げた。
手の震えがずっと震えている。

「アールの故郷…」
これを断ったら一生アールに恨まれるのだろうか?

私だって皆を救いたい。
死なせたくない。

だけど…

レピアはどうして良いかわからなかった。

「助けてはくれない…のですか…」
アールが裏切られたような顔をした。

レピアが人から初めて向けられた表情。
それもアールから…

アールがレピアの手を離して部屋を出て行こうとした。

「どうするつもりなの?」
レピアは慌ててアールの袖をつかんだ。

「俺も討伐に参加して一人でも多くの人を助けます。あの街の皆には恩がありますから。」

血の気がひいて青い顔をしているアールはレピアを見なかった。

私を置いて行かないで。
レピアはアールにそう言いたかった。

討伐で死ぬかもしれない。

無事に帰ってきても故郷の皆を見殺しにした聖女として一生恨むかもしれない。

このまま行かせたらアールを失う…

レピアは覚悟を決めた。

「初めての事だから成功するとは断言できないわ。それでも良い?」

「ええ、レピアなら必ず成功するはずです。ありがとうございます。」
アールからいつもの優しい微笑みが向けられた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャららA12・山もり
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈 
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~

石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。 食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。 そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。 しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。 何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。 扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

王太子に婚約破棄され奈落に落とされた伯爵令嬢は、実は聖女で聖獣に溺愛され奈落を開拓することになりました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

「聖女は2人もいらない」と追放された聖女、王国最強のイケメン騎士と偽装結婚して溺愛される

沙寺絃
恋愛
女子高生のエリカは異世界に召喚された。聖女と呼ばれるエリカだが、王子の本命は一緒に召喚されたもう一人の女の子だった。「 聖女は二人もいらない」と城を追放され、魔族に命を狙われたエリカを助けたのは、銀髪のイケメン騎士フレイ。 圧倒的な強さで魔王の手下を倒したフレイは言う。 「あなたこそが聖女です」 「あなたは俺の領地で保護します」 「身柄を預かるにあたり、俺の婚約者ということにしましょう」 こうしてエリカの偽装結婚異世界ライフが始まった。 やがてエリカはイケメン騎士に溺愛されながら、秘められていた聖女の力を開花させていく。 ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

処理中です...