【完結】聖騎士を死なせた聖女は平民として生きる?

みやちゃん

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ノルディはレピアより二つ上の第二王子である。
レピアとは幼馴染でこうやって定期的にお茶会をし親睦を深めていた。
神殿と皇室の交流という建前によって。

だがノルディにとって聖女レピアとのお茶会は待ちに待ったものだった。

会いたくて会いたくてたまらない他には代え難い大切な時間。
忙しいノルディだが、お茶会は待ちきれなくていつもレピアよりだいぶ早く来ていた。

そこで見たものは…
レピアが同い年くらいの聖騎士の制服を着た男と楽しそうに笑いながらこちらに向かっている姿だった。

なんだ…あんな楽しそうなレピア様を見たことがない。

ノルディは嫌な予感がしたが、精一杯の引きつった笑顔でレピアを迎えた。
レピアの大好きなお茶とお菓子を用意して。

「ってことがありました!」
お茶会でレピアはアールと出会った惚気話をノルディにしていた。

護衛であるアールは少し離れたところからその様子を見ていた。

ノルディは剣士としても優秀であり、護衛を離れたところに置くのはいつものことだった。
お茶会の日はレピアと二人で会話を楽しみたかったから。

だが、レピアはアールが離れると早口でアールとの出会いについて話しまくった。

その話を聞いたノルディは完全に固まっていた。

「レピア様…それは…」

「ノルディに借りた本の通りなの!これが一目惚れというものなのね。」
レピアは興奮していてノルディの表情を全く見ていなかった。

「一目惚れ…」
ノルディは呆然と呟いた。

ノルディはレピアに何冊か恋愛小説をプレゼントしていた。

それは誰かに一目惚れをさせるためではない。

ずっと神殿で育ってきたレピアには恋愛感情という感覚が疎かった。
そのためノルディがいくら頑張ってアプローチしてもいい雰囲気になることがなかった。

だからこそ、恋愛小説を参考にして自分の気持ちにも気付いて欲しいと考えた。
自分を見て欲しかった。

レピアとの関係に進展を望んでいたのだ。

それなのに…

「本当に素敵なの。はぁ、ドキドキして顔がちゃんと見れない。」
レピアは顔を赤らめながらウットリと思い出すように話した。

こんな風に誰かを想い幸せそうな笑顔のレピアをノルディは見たことがなかった。

「こんな風に笑うのだな…」
自分がこの笑顔を引き出したかった。

ノルディはレピアの存在を物心つく頃には知っていた。
この国を救ってくれる聖女。
誰よりも大切な存在。

皇帝の代わりはいても聖女の代わりはいない。

皇族であるノルディですらレピアに求婚どころか面会すら頻回にはできなかった。

小さな頃、自分の父である皇帝よりも立場が上である聖女見たさにノルディは神殿に潜り込んだ。

人々の前に凛とした姿で立ち微笑む自分より小さな聖女レピアを見てしまった。

レピアの魅力に一気に引き込まれた。

自分の存在を知ってほしい。
近づきたい。
話がしたい。
あの笑顔を自分に向けて欲しい。

ノルディの望みは大きくなっていった。
優秀な皇子としてレピアの相手として認められなければレピアに近づくことも許されない。
それに何年もかかった。

そうしてやっとレピアに近づくことが許され、こうやって会う機会を得て名前を呼ぶ許可までもらった。
やっとここまでの関係になったのに…

「レピア様、そろそろお時間です。」
アールが近づいてきた。

ノルディは自分の耳を疑った。
今この男はレピア様の名を呼んだのか?
今日出会ったばかりではなかったか?

「ええ、アール。じゃあ、ノルディまたね。」
レピアはノルディに手を振りアールにとびきりの笑顔を向けた。
レピアの反応を見れば名を呼ぶ事も許したのだとわかる。

今日会ったばかりの聖騎士に全ての面で負けた…そう認めるしかなかった。
ノルディはしばらくその場から動く事もできなかった。
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