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「アメリア嬢だよね?」

王妃様との妃教育の後帰宅しようとしたアメリアは名前を呼ばれた。
振り返るとアルフードの兄、王太子レアンが立っていた。

「王太子様。」
アメリアは慌てて頭を下げた。

「そんなにかしこまらなくてもいいよ。公の場でもないんだし。義妹になるんだし、レアンでいいよ。」

「…レアン様。これからもよろしくお願い致します。」

頭を下げ挨拶をする。

「アメリア嬢、頭をあげて。そん風に挨拶されるとこちらが身構えるよ。」

ハハッと笑う王太子にアメリアは懐かしさがこみ上げてきた。

皆から出来損ないと呼ばれていたが、レアン様はそんな風に呼ばなかった。
王妃様と同じく優しく弟の婚約者として対応してくれた。

「母上の教育は大変だろう。ルーアもよく愚痴をこぼしていた。」

「いえ、そんな事は…あのルーア様が愚痴をこぼされるなんて王太子妃教育は大変なのですね。」

アメリアはレアンの婚約者であるルーアの存在を前から知っていた。
美しくて聡明で人を惹きつける魅力がある彼女にアメリアも憧れていた。

何でもできるルーア様でも愚痴を言うなんて…相当大変なのね。

アメリアは今回の人生ではまだ会ったことがないルーアに同情した。

「ルーアはそうやって息抜きもしている。アメリア嬢もせっかく弟の婚約者になったのだ。甘えてみればいい。」

「アルフード様に甘えるのですか?」

「そう、アルフードならきちんと話を聞いてくれるはずだ。」

そうですね…あれほどお茶会に招待されたりしたのに、甘えることをしなかった。

何の話をしていたのか思い出せないほどたわいもない話しかしていない。

レアン様は私の事を心配してくれたのだろうか。
レアン様は変わらず優しい。

アルフード様は…少し変わってしまった。
その微妙な違いに違和感を感じているのか、少し距離があるように感じていた。
だから、変わらないレアン様をみていると気持ちがホッとしていた。


「そこで何をしているのですか?」
アルフード様の声が聞こえる。

機嫌が悪い?笑ってはいるけど、目が笑っていないアルフード様。
いつも優雅に歩いているアルフード様にしては早足で近づいてきた。

「兄上、アメリア嬢と一緒なのですね。どうかされましたか?」

「いや、見かけたから声をかけただけだ。気にするな。では、アメリア嬢、また。」
レアンは微笑むとその場を離れた。

「兄上と何を話したのですか?」

何を?そんな大した話はしていないし。

「レアン様は妃教育は大変ではないかと心配してくださいました。」

「レアンって呼んでいるのですね…」
そういっているアルフードの微笑みがいつもよりぎこちない?
ひょっと名前を呼んだらいけなかったの?

昔はずっとレアン様と呼んでいて当たり前になっていたけど、今回の人生では初めての出会いだった。

いくら許可があっても初対面から失礼だったかしら。

帰りの馬車の中で自分の失言があったかもと反省していた。

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