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帝国に残されたアイルーナは
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アイルーナが帝国に戻ったのは成人の儀の少し前の時だった。
そして皇帝交代を宣言した。
ここまでならアイルーナの宣言など認められなかっただろう。
だが、アイルーナの後ろには前皇帝マーベランスが付いていた。
皆何が起こったのかわからなかった。
賢帝であるマーベランスの引退を惜しむ声は多かった。
だが、マーベランスはアレクサンダーに皇帝を引き継ぐと完全に隠居し一切表には出てこなくなってしまった。
そのマーベランスが急に現れ、アイルーナを支持したのだ。
アレクサンダーも皇帝交代に異議を申し立てる事もせず、すんなり受け入れた。
「あぁ、もう私一人置いていくなんて!お父様から引き継ぎも終わってないし、おじい様はいないし、仕事にならないじゃない!」
アイルーナは怒っていた。
一人帝国に残された事を。
皇帝の継承の儀はすぐできるものではないため、今はまだ皇帝候補。
皇帝候補のアイルーナに皇帝が不在であっても今アイルーナができる政務がまだ少ない。
政務をしている時は考えずに済んだが、すぐに終わってしまい、こうやって時間があくと思い出してしまう。
向こうでの話し合いはうまくいっているのかしら。
おじい様、わざとに私をここに残したのはわかっていた。
おじい様がやけに張り切っていたのか不安があるけれど‥
私を動けないようにしてあのメンバーでジールベルンに行った。
何か私に内緒でしようとしている事は間違いない。
変な事はしないでと祈るしかない。
おじい様は賢帝と呼ばれるだけあって策士だ。
自分の都合が良いように巧みに皆を誘導する。
契約書もあるし、問題ないと信じたいが‥
ここを離れる前にニヤッと笑った顔を忘れられない。
シーンと静まり返った部屋。
フィンデルのいない部屋はこんなに静かで広いものだったかしら。
早く慣れないといけない。
生まれた時からフィンデルが隣にいるのが当たり前だった。
何より私の大切な人。
もう側にいる事はできないのだから。
耳に手を当てる。
フィンデルと買ったピアス。
これとあの契約書があれば私は生きていける。
大丈夫。
私は強いもの。
この為にずっと頑張ってきた。
これからは一人でも頑張っていけるはずだ。
こうやって思い出もあるのだから。
この部屋にだってフィンデルの思い出がたくさんある。
小さい時は一緒に寝てくれていた。
いつも頭を撫でてくれていた。
いつも「アイルーナ様」と微笑んでくれた。
フィンデルがダーティールの王太子でなければ良かったと何度思った事か。
「また弱気になってる!しっかりしてアイルーナ。あなたなら大丈夫。」
声に出して自分を奮いおこす。
「何が大丈夫なのですか?」
突然聞こえるはずのない声が聞こえる。
幻聴?
そう思って振り返るとここにいるはずのない人物がいた。
「フィン‥」
どうしてここにいるの‥
その存在を見てしまうと堪えていたものが溢れ出した。
あぁ、会いたかった。
寂しかった。
愛している。
今まで我慢しようとしていたものが一瞬で崩れ去ってしまう。
求めてしまう‥
だからフィンには何も言わずジールベルンを出たのに。
そして皇帝交代を宣言した。
ここまでならアイルーナの宣言など認められなかっただろう。
だが、アイルーナの後ろには前皇帝マーベランスが付いていた。
皆何が起こったのかわからなかった。
賢帝であるマーベランスの引退を惜しむ声は多かった。
だが、マーベランスはアレクサンダーに皇帝を引き継ぐと完全に隠居し一切表には出てこなくなってしまった。
そのマーベランスが急に現れ、アイルーナを支持したのだ。
アレクサンダーも皇帝交代に異議を申し立てる事もせず、すんなり受け入れた。
「あぁ、もう私一人置いていくなんて!お父様から引き継ぎも終わってないし、おじい様はいないし、仕事にならないじゃない!」
アイルーナは怒っていた。
一人帝国に残された事を。
皇帝の継承の儀はすぐできるものではないため、今はまだ皇帝候補。
皇帝候補のアイルーナに皇帝が不在であっても今アイルーナができる政務がまだ少ない。
政務をしている時は考えずに済んだが、すぐに終わってしまい、こうやって時間があくと思い出してしまう。
向こうでの話し合いはうまくいっているのかしら。
おじい様、わざとに私をここに残したのはわかっていた。
おじい様がやけに張り切っていたのか不安があるけれど‥
私を動けないようにしてあのメンバーでジールベルンに行った。
何か私に内緒でしようとしている事は間違いない。
変な事はしないでと祈るしかない。
おじい様は賢帝と呼ばれるだけあって策士だ。
自分の都合が良いように巧みに皆を誘導する。
契約書もあるし、問題ないと信じたいが‥
ここを離れる前にニヤッと笑った顔を忘れられない。
シーンと静まり返った部屋。
フィンデルのいない部屋はこんなに静かで広いものだったかしら。
早く慣れないといけない。
生まれた時からフィンデルが隣にいるのが当たり前だった。
何より私の大切な人。
もう側にいる事はできないのだから。
耳に手を当てる。
フィンデルと買ったピアス。
これとあの契約書があれば私は生きていける。
大丈夫。
私は強いもの。
この為にずっと頑張ってきた。
これからは一人でも頑張っていけるはずだ。
こうやって思い出もあるのだから。
この部屋にだってフィンデルの思い出がたくさんある。
小さい時は一緒に寝てくれていた。
いつも頭を撫でてくれていた。
いつも「アイルーナ様」と微笑んでくれた。
フィンデルがダーティールの王太子でなければ良かったと何度思った事か。
「また弱気になってる!しっかりしてアイルーナ。あなたなら大丈夫。」
声に出して自分を奮いおこす。
「何が大丈夫なのですか?」
突然聞こえるはずのない声が聞こえる。
幻聴?
そう思って振り返るとここにいるはずのない人物がいた。
「フィン‥」
どうしてここにいるの‥
その存在を見てしまうと堪えていたものが溢れ出した。
あぁ、会いたかった。
寂しかった。
愛している。
今まで我慢しようとしていたものが一瞬で崩れ去ってしまう。
求めてしまう‥
だからフィンには何も言わずジールベルンを出たのに。
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