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皇后の悪夢
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皇后は夢を見ていた。
幸せだった頃、そして最悪の終わりを迎えてしまった過去の夢。
何度も何度も悪夢にうなされる。
誰もは救ってはくれない。
泣きながら目覚める日々。
この地獄はいつまで続くのだろう‥。
イオマミール帝国皇后アリエランダは元々ジールベルン王国第一王女。
15年前まではダーティール王国の王弟ラミオンの婚約者だった。
ダーティールは大きくはないが、豊かな国であり同盟国のジールベルンは第一王女の婚約で多額の援助を受けていた。
完全な政略的な婚約だったが、二人は仲の良い婚約者同士で周囲も微笑ましく見ていた。
いつまでもその情景は変わらないと信じていた‥
15年前の夢は繰り返される。
ジールベルンの学園でアリエランダは留学に来ていたラミオンに声をかける。
最近、皆が噂をしているのを聞きつけて心配になったのだ。
「ラミー、最近アレクサンダー様と仲が良いと聞いたわ。大丈夫なの?」
ラミオンはジールベルン王国の学園に来ていた。
留学を言い訳に婚約者との時間を作るために。
アリエランダも滅多に会うことができなかったラミオンと毎日会えるようになって浮かれていた。
その頃帝国からも短期留学という形で皇帝候補アレクサンダーもジールベルンに来ていた。
帝国の方が優れている為、皇族がジールベルンに留学に来ることなどない。
その為に色々と憶測されており、先ほどのアリエランダの心配につながっている。
「ああ、皇帝候補と聞いていたが、穏やかな奴だよ、アレクは。アリーも今度合わせよう。きっと仲良くなれる。」
ラミオンはニッコリ笑う。
アリエランダは驚いた。
ダーティールの王族とはいえ王弟でしかない彼がイオマミール帝国の皇帝候補を奴といい、愛称で呼んでいる。
アレクサンダー自身がそれを許しているのだ。
そうでなければ礼節を重んじるラミオンがそんな言い方をするはずはなかった。
アレクサンダーは冷徹で歯向かうものには容赦がないとの噂とは違うのかもしれない。
この時点でアリエランダはアレクサンダーに少し心を開いた。
自分が最も信頼しているラミオンがよく思っているなら悪い人ではないと。
これが全て間違いだったのだ。
夢の中でいつも自分を止める。
「やめて!アレクサンダーには近づかないで!」
叫んでも昔の自分には声が届かない。
そう、アレクサンダーに近づかなければ、ラミーは死ぬ事はなかった筈だ。
イオマミール帝国を後ろ盾にしたジールベルンが難癖をつけダーティールを滅ぼす事はなかった筈だ。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
私の行いのせい‥
笑顔が素敵で聡明な婚約者のラミー。
弟の婚約者として、いつも優しくアリエランダに接してくれたダーティール王と王妃。
まだ幼くて「アリー様」と拙い言葉でなついてくれていた王太子。
彼らの幸せを全て奪ってしまった。
寝ながら涙を流している。
皇后は眠る時、眠剤を使用している。
そうしなければ眠ることもできないのだ。
そして悪夢を見始めると朝まで苦しみ続ける。
呪いかのように。
皇后に仕える侍女達は悲しく見守るしかない。
皇后の心を救おうと色々と試したが、どうにもできなかった。
唯一の子どもであるアイルーナ様にも心を開かない。
アイルーナが皇帝になれば自分の役目が終わる‥アリエランダはそれだけを願っていた。
全てが終わるその時を待っていた。
王女としての教育をされてきたアリエランダは国を捨てる事がどうしてもできなかった。
逃げる事も死ぬ事も許されていない。
皇后として皇帝に尽くすべきだともわかっているが、どうしても体が受け付けない。
「ダーティールはもうない。ラミーは死んだ。恨むなら私を恨め。」
ダーティールが滅び、無理やりイオマミール帝国に嫁がられた日、アレクサンダーの冷たい視線と言葉を向けられ悲しみが怒りに変わった。
ラミーを殺した張本人が愛称で呼ぶなんて‥
二度と笑いかけない。
二度と騙されない。
私から全てを奪った男アレクサンダー。
死ぬまで許さない。
アイルーナが国外に出た事をきっかけに皇后の精神状態は悪くなっていった。
皇帝の耳にも報告が入る事となり、周囲の者は危機感を持った。
皇帝と皇后は仲が悪かった為、病気療養を理由にどこか遠くに追いやられる可能性がある。
皇帝が愛するアイルーナが国内にいず、アリエランダを守ってくれる存在がないのだから。
そんな危機感は不要なものだった事に皆は気づく。
その頃から皇后が寝静まった後、皇帝は皇后の部屋を訪れるようになったのだ。
「アリー、貴方は何も悪くない。悪いのは全て私だ。私を恨め。これ以上自分を責めるな。」
皇后の手を握り、涙を拭う。
横に寄り添う。
ただそれだけの為に毎晩、皇帝は皇后の部屋を訪室していた。
朝方、皇后が起きる前に皇帝は部屋を出る。
それを繰り返してどのくらいがたっただろうか。
皇帝はいつ寝ているのか。
政務で忙しい中、毎日訪室するというのは難しい事だと皆知っている。
その事を皇后は知らない。
皇帝が話すことを許さなかった。
皇帝の命には誰も逆らえず、訪室は止められなかったが、毎日どんなに時間がなくても必ずくる皇帝。
いつしか皇帝に皇后を救ってほしいと周囲の者達は思うようになっていった。
皇后を想う皇帝の気持ちは本物だと誰が見てもわかるのだから‥
幸せだった頃、そして最悪の終わりを迎えてしまった過去の夢。
何度も何度も悪夢にうなされる。
誰もは救ってはくれない。
泣きながら目覚める日々。
この地獄はいつまで続くのだろう‥。
イオマミール帝国皇后アリエランダは元々ジールベルン王国第一王女。
15年前まではダーティール王国の王弟ラミオンの婚約者だった。
ダーティールは大きくはないが、豊かな国であり同盟国のジールベルンは第一王女の婚約で多額の援助を受けていた。
完全な政略的な婚約だったが、二人は仲の良い婚約者同士で周囲も微笑ましく見ていた。
いつまでもその情景は変わらないと信じていた‥
15年前の夢は繰り返される。
ジールベルンの学園でアリエランダは留学に来ていたラミオンに声をかける。
最近、皆が噂をしているのを聞きつけて心配になったのだ。
「ラミー、最近アレクサンダー様と仲が良いと聞いたわ。大丈夫なの?」
ラミオンはジールベルン王国の学園に来ていた。
留学を言い訳に婚約者との時間を作るために。
アリエランダも滅多に会うことができなかったラミオンと毎日会えるようになって浮かれていた。
その頃帝国からも短期留学という形で皇帝候補アレクサンダーもジールベルンに来ていた。
帝国の方が優れている為、皇族がジールベルンに留学に来ることなどない。
その為に色々と憶測されており、先ほどのアリエランダの心配につながっている。
「ああ、皇帝候補と聞いていたが、穏やかな奴だよ、アレクは。アリーも今度合わせよう。きっと仲良くなれる。」
ラミオンはニッコリ笑う。
アリエランダは驚いた。
ダーティールの王族とはいえ王弟でしかない彼がイオマミール帝国の皇帝候補を奴といい、愛称で呼んでいる。
アレクサンダー自身がそれを許しているのだ。
そうでなければ礼節を重んじるラミオンがそんな言い方をするはずはなかった。
アレクサンダーは冷徹で歯向かうものには容赦がないとの噂とは違うのかもしれない。
この時点でアリエランダはアレクサンダーに少し心を開いた。
自分が最も信頼しているラミオンがよく思っているなら悪い人ではないと。
これが全て間違いだったのだ。
夢の中でいつも自分を止める。
「やめて!アレクサンダーには近づかないで!」
叫んでも昔の自分には声が届かない。
そう、アレクサンダーに近づかなければ、ラミーは死ぬ事はなかった筈だ。
イオマミール帝国を後ろ盾にしたジールベルンが難癖をつけダーティールを滅ぼす事はなかった筈だ。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
私の行いのせい‥
笑顔が素敵で聡明な婚約者のラミー。
弟の婚約者として、いつも優しくアリエランダに接してくれたダーティール王と王妃。
まだ幼くて「アリー様」と拙い言葉でなついてくれていた王太子。
彼らの幸せを全て奪ってしまった。
寝ながら涙を流している。
皇后は眠る時、眠剤を使用している。
そうしなければ眠ることもできないのだ。
そして悪夢を見始めると朝まで苦しみ続ける。
呪いかのように。
皇后に仕える侍女達は悲しく見守るしかない。
皇后の心を救おうと色々と試したが、どうにもできなかった。
唯一の子どもであるアイルーナ様にも心を開かない。
アイルーナが皇帝になれば自分の役目が終わる‥アリエランダはそれだけを願っていた。
全てが終わるその時を待っていた。
王女としての教育をされてきたアリエランダは国を捨てる事がどうしてもできなかった。
逃げる事も死ぬ事も許されていない。
皇后として皇帝に尽くすべきだともわかっているが、どうしても体が受け付けない。
「ダーティールはもうない。ラミーは死んだ。恨むなら私を恨め。」
ダーティールが滅び、無理やりイオマミール帝国に嫁がられた日、アレクサンダーの冷たい視線と言葉を向けられ悲しみが怒りに変わった。
ラミーを殺した張本人が愛称で呼ぶなんて‥
二度と笑いかけない。
二度と騙されない。
私から全てを奪った男アレクサンダー。
死ぬまで許さない。
アイルーナが国外に出た事をきっかけに皇后の精神状態は悪くなっていった。
皇帝の耳にも報告が入る事となり、周囲の者は危機感を持った。
皇帝と皇后は仲が悪かった為、病気療養を理由にどこか遠くに追いやられる可能性がある。
皇帝が愛するアイルーナが国内にいず、アリエランダを守ってくれる存在がないのだから。
そんな危機感は不要なものだった事に皆は気づく。
その頃から皇后が寝静まった後、皇帝は皇后の部屋を訪れるようになったのだ。
「アリー、貴方は何も悪くない。悪いのは全て私だ。私を恨め。これ以上自分を責めるな。」
皇后の手を握り、涙を拭う。
横に寄り添う。
ただそれだけの為に毎晩、皇帝は皇后の部屋を訪室していた。
朝方、皇后が起きる前に皇帝は部屋を出る。
それを繰り返してどのくらいがたっただろうか。
皇帝はいつ寝ているのか。
政務で忙しい中、毎日訪室するというのは難しい事だと皆知っている。
その事を皇后は知らない。
皇帝が話すことを許さなかった。
皇帝の命には誰も逆らえず、訪室は止められなかったが、毎日どんなに時間がなくても必ずくる皇帝。
いつしか皇帝に皇后を救ってほしいと周囲の者達は思うようになっていった。
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