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一部三章 アンジュ・ゾンダル
第19話 アンジュ・ゾンダル
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この世界にカマクラはない。ビィティはベスタに確認して知っていた。以前作ったときにベスタに不思議がられていたからだ。
「あったか~い!」
そう言うと金髪碧眼の少女はカマクラの中へとズカズカと入り込み、焚き火の前に座り込む。
服装はドレスなどではなく動きやすいようにズボンと革靴を履いている。姫と言われても疑うような格好だ。
だがその服装はどことなくスチームパンクが入っていて、世界観を壊していた。
じっと服を見ているビィティに気がつき少女は服を見せびらかす。
「これ良いでしょ私が絵を描いて作らせたのよ」
「はい、とても素敵なお召し物です」
そのビィティの回答が気に入らなかったのか少女は頬を膨らませる。護衛の騎士がいる前で不遜な態度をとったら切られるのはクラリスとの旅で学習済みだとビィティは礼儀正しく挨拶をしたのだが、どうやら彼女は普通に接して欲しいようなのだ。
「姫様このような場所に入られては」
女騎士は困り顔で姫を止めるが彼女は全く聞く耳を持っていない。
「だけど兵も限界でしょ? 休ませないとだめよ」
少女の言葉で外が思ったより極寒状態なのに気がつく。兵士の服が凍っているのだ。
「ですが、ここでは雪や風をしのげません」
「みんなでカマクラを作れば良いのよ」
確定だとビィティは確信する。聞き間違いではなく完全にカマクラを知っているのだ。つまりこの少女は転生者だ。
「カマクラ? なんですそれ。姫様は時々分からないことを言いますね」
ビィティは姫から目を離さず注意深く観察していた。転移者だからと言って味方とは限らない。敵対者の可能性もある。
敵対者だとしてもビィティはこの顔に見覚えがあった。クラリスが登場するのは学園編からだがヒロインは幼少期からゲームが始まるのだ。
少女は間違いなくヒロインのアンジュ・ゾンダルだ。
通常乙女ゲーのヒロインは貧困街出身だったり平民出身だったりで身分の違いを売りにする。
だがこのゲームのヒロインは公爵家なのだそれもクラリスと同格の家柄。
幼少期で知力や体力のステータスを上げ、学園編で今まで蓄えた才能で人を魅了し派閥を作るのである。
その過程で攻略対象とも仲良くなり落とせることができるのである。
王妃になるのだから、これが普通と言うスタンスのゲームなのだ。
派閥の無い王妃などお飾りだと言うことなのだろう。
特に知略系の仲間を引き入れると相手が失敗するような計画を実行してくれる。
ただしリスクもあり、バレると好感度が駄々下がるのである。
クラリスは知略系の友人が多いせいで最終的に自分の首を絞めるのだ。
「どうしたのボーッとして」
アンジュはビィティの顔を下から除くと鼻毛が出てるわよと指摘する。
もちろん下から見たら誰でも鼻毛は出てるのであるから軽い冗談なのだが。
不細工のビィティは身だしなみが気になり横を向く。
「冗談よ、冗談、出てないわよ」
他人をからかって屈託なく笑うアンジュにビィティは少し不信感を抱く。
「ねーね、その豚汁モドキちょうだいよ」
「これは庶民が食べるものですから高貴な方に食べさせるようなものではありません」
ビィティは丁寧に断るが彼女は諦めない。フレンチレストランのような食事を毎日食べていたせいでこういう料理に飢えていたのだ。
「姫様なりません」
護衛の女騎士が止めるが彼女は相手にもせずビィティのお椀とオタマを奪おうとする。
「それで高貴な方が何か用ですか?」
「だ・か・ら、今日ここでビバークさせてよ」
「姫様もう少し先にいけば宿屋がありますのでそちらまで我慢ください」
「もう少し、もう少しって全然着かないじゃない」
ベスタに教わった地理ではこの先に宿屋などはない。宿屋はあることはあるが、まだ30km以上先だ。
この姫にいつ着くのと聞かれたら、もう少しとかしか言えなくなるな、この剣幕じゃとアンジュを見てビィティは女騎士に同情する。
「そうは言われましても……」
「いやよ無理、こんな暖かい場所に腰を落ち着けたら馬車に戻れないわ」
「姫様……平民と一緒の空間にいるなど格が落ちます」
「大丈夫よ、仲間だもんね?」
彼女はビィティを見てにこやかに微笑む。その笑顔には隠しても無駄だよと言うような強制力があった。
「なんのことです?」
「とぼけなくても良いわよ。日本人でしょ? 仲良くしてよね?」
完全にバレているので隠しても仕方ないのだが、だからと言ってタメ口を聞けば後ろの女騎士に殺されてしまうのを分かっているビィティは知らないふりをする。
「姫様、平民と仲良くは出来ませぬ、身分が違いますゆえ」
焚き火の前に座るアンジュをいさめようとするが、配下ゆえかカマクラの入り口から入ってこない。
「うるさいわね。私が誰と仲良くしようと勝手でしょ」
アンジュは姫とは思えない粗暴な口調で配下の騎士に文句を言う。自分も敬語は使えない方だがこれは酷いとビィティは苦笑する。
「そう言うわけには……」
悪役令嬢のクラリスよりもワガママじゃないかとビィティは思った。
だが、ふと思った女騎士の言う身分の違い。
自分が王都に言ってもクラリスの側にいられるのかと言う疑問。
精霊使いとはいえフェイクと言うのはすぐばれる。なら格下扱いされるはずだ。
つまり公爵家にふさわしくないと言う烙印を押される。
当然クラリスの側にいられなくなる。
だったらヒロインの陣営に入った方がクラリスを助けられるんじゃないか?
王子とヒロインが結婚すればクラリスは助かる。
他の攻略対象に脇目を振らないように自分が王子やアンジュを調節すればとそう思うのと同時に、ビィティは彼女が望まぬ結婚をさせても良いものかと悩む。
「またボーッとしてる。聞いてる?」
アンジュは下から除き込みビィティの顔を覗く、ビィティは鼻を隠して横を向く。
「すみません。なんでしたっけ?」
「私の死因よ。痴漢事件の巻き添えで電車に引かれて死んじゃったのよ」
「え?」
「だから、線路に落ちて電車に轢かれて死んだの」
その話を聞いたビィティの心の明人が目覚めアンジュを睨み付けていた。
「あったか~い!」
そう言うと金髪碧眼の少女はカマクラの中へとズカズカと入り込み、焚き火の前に座り込む。
服装はドレスなどではなく動きやすいようにズボンと革靴を履いている。姫と言われても疑うような格好だ。
だがその服装はどことなくスチームパンクが入っていて、世界観を壊していた。
じっと服を見ているビィティに気がつき少女は服を見せびらかす。
「これ良いでしょ私が絵を描いて作らせたのよ」
「はい、とても素敵なお召し物です」
そのビィティの回答が気に入らなかったのか少女は頬を膨らませる。護衛の騎士がいる前で不遜な態度をとったら切られるのはクラリスとの旅で学習済みだとビィティは礼儀正しく挨拶をしたのだが、どうやら彼女は普通に接して欲しいようなのだ。
「姫様このような場所に入られては」
女騎士は困り顔で姫を止めるが彼女は全く聞く耳を持っていない。
「だけど兵も限界でしょ? 休ませないとだめよ」
少女の言葉で外が思ったより極寒状態なのに気がつく。兵士の服が凍っているのだ。
「ですが、ここでは雪や風をしのげません」
「みんなでカマクラを作れば良いのよ」
確定だとビィティは確信する。聞き間違いではなく完全にカマクラを知っているのだ。つまりこの少女は転生者だ。
「カマクラ? なんですそれ。姫様は時々分からないことを言いますね」
ビィティは姫から目を離さず注意深く観察していた。転移者だからと言って味方とは限らない。敵対者の可能性もある。
敵対者だとしてもビィティはこの顔に見覚えがあった。クラリスが登場するのは学園編からだがヒロインは幼少期からゲームが始まるのだ。
少女は間違いなくヒロインのアンジュ・ゾンダルだ。
通常乙女ゲーのヒロインは貧困街出身だったり平民出身だったりで身分の違いを売りにする。
だがこのゲームのヒロインは公爵家なのだそれもクラリスと同格の家柄。
幼少期で知力や体力のステータスを上げ、学園編で今まで蓄えた才能で人を魅了し派閥を作るのである。
その過程で攻略対象とも仲良くなり落とせることができるのである。
王妃になるのだから、これが普通と言うスタンスのゲームなのだ。
派閥の無い王妃などお飾りだと言うことなのだろう。
特に知略系の仲間を引き入れると相手が失敗するような計画を実行してくれる。
ただしリスクもあり、バレると好感度が駄々下がるのである。
クラリスは知略系の友人が多いせいで最終的に自分の首を絞めるのだ。
「どうしたのボーッとして」
アンジュはビィティの顔を下から除くと鼻毛が出てるわよと指摘する。
もちろん下から見たら誰でも鼻毛は出てるのであるから軽い冗談なのだが。
不細工のビィティは身だしなみが気になり横を向く。
「冗談よ、冗談、出てないわよ」
他人をからかって屈託なく笑うアンジュにビィティは少し不信感を抱く。
「ねーね、その豚汁モドキちょうだいよ」
「これは庶民が食べるものですから高貴な方に食べさせるようなものではありません」
ビィティは丁寧に断るが彼女は諦めない。フレンチレストランのような食事を毎日食べていたせいでこういう料理に飢えていたのだ。
「姫様なりません」
護衛の女騎士が止めるが彼女は相手にもせずビィティのお椀とオタマを奪おうとする。
「それで高貴な方が何か用ですか?」
「だ・か・ら、今日ここでビバークさせてよ」
「姫様もう少し先にいけば宿屋がありますのでそちらまで我慢ください」
「もう少し、もう少しって全然着かないじゃない」
ベスタに教わった地理ではこの先に宿屋などはない。宿屋はあることはあるが、まだ30km以上先だ。
この姫にいつ着くのと聞かれたら、もう少しとかしか言えなくなるな、この剣幕じゃとアンジュを見てビィティは女騎士に同情する。
「そうは言われましても……」
「いやよ無理、こんな暖かい場所に腰を落ち着けたら馬車に戻れないわ」
「姫様……平民と一緒の空間にいるなど格が落ちます」
「大丈夫よ、仲間だもんね?」
彼女はビィティを見てにこやかに微笑む。その笑顔には隠しても無駄だよと言うような強制力があった。
「なんのことです?」
「とぼけなくても良いわよ。日本人でしょ? 仲良くしてよね?」
完全にバレているので隠しても仕方ないのだが、だからと言ってタメ口を聞けば後ろの女騎士に殺されてしまうのを分かっているビィティは知らないふりをする。
「姫様、平民と仲良くは出来ませぬ、身分が違いますゆえ」
焚き火の前に座るアンジュをいさめようとするが、配下ゆえかカマクラの入り口から入ってこない。
「うるさいわね。私が誰と仲良くしようと勝手でしょ」
アンジュは姫とは思えない粗暴な口調で配下の騎士に文句を言う。自分も敬語は使えない方だがこれは酷いとビィティは苦笑する。
「そう言うわけには……」
悪役令嬢のクラリスよりもワガママじゃないかとビィティは思った。
だが、ふと思った女騎士の言う身分の違い。
自分が王都に言ってもクラリスの側にいられるのかと言う疑問。
精霊使いとはいえフェイクと言うのはすぐばれる。なら格下扱いされるはずだ。
つまり公爵家にふさわしくないと言う烙印を押される。
当然クラリスの側にいられなくなる。
だったらヒロインの陣営に入った方がクラリスを助けられるんじゃないか?
王子とヒロインが結婚すればクラリスは助かる。
他の攻略対象に脇目を振らないように自分が王子やアンジュを調節すればとそう思うのと同時に、ビィティは彼女が望まぬ結婚をさせても良いものかと悩む。
「またボーッとしてる。聞いてる?」
アンジュは下から除き込みビィティの顔を覗く、ビィティは鼻を隠して横を向く。
「すみません。なんでしたっけ?」
「私の死因よ。痴漢事件の巻き添えで電車に引かれて死んじゃったのよ」
「え?」
「だから、線路に落ちて電車に轢かれて死んだの」
その話を聞いたビィティの心の明人が目覚めアンジュを睨み付けていた。
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