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一部二章 悪役令嬢との出会い

第12話 野盗の夜襲

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『ご主人ちゃま敵でちゅ!』

 クリンの叫び声と共に怒声が鳴り響き剣と剣がぶつかる音が響く。ビィティがクリンにこんな側まで敵の侵入がわからなかったのかと聞くととクリンは風をまとった敵が急に現れたのだと答えた。
 つまりはビィティ達の中に精霊使いがいると言うことがバレた又はただ単に襲撃の時には索敵されないように特殊なカモフラージュをするのが普通なのか。
 できれば後者であって欲しいとビィティは思う。
 なぜなら前者では精霊使いがいるのに襲ってきたと言うことは敵側にも精霊使いそれもビィティとは違うホンモノ・・・・ の精霊使いがいると言うことになるからだ。

 クラリスは恐怖でビィティに抱きつき小刻みに震えている。

「大丈夫、クラリスは俺が絶対に守るから」

「わたし、あなたに守られる資格があるような女じゃ――」
 ビィティはクラリスの口を自分の口で塞ぐ。安心させるために。信じてもらうために。何より自分自身を奮い立たせるために。
 クラリスの温もりがビィティの身体に伝わり心が満たされるのを感じた。

『あるじぃ馬車で待機してる騎士が殺されたぞ』

「クラリス、他のみんなを連れてくる。ここで待ってるんだよ」
 だがクラリスはビィティの裾を握ったまま離さない。

「行かせません……。死んでしまいます」

「死なないよ。クラリスは俺が守るって約束したろ?」
 そう言うとビィティは優しく頭を撫でる。クラリスはビィティの瞳を見る、目を離さずに。そしてつかんでいる裾を離すと後ろに下がり頭を下げる。

「みんなを助けてくださいまし」

「約束するよ。それと、できるだけ身を低くして敵に見えないようにして隠れるんだ」

「はい」

「クリン、風を纏わせてくれ」
『あいでちゅ!』

 ビィティは風を纏うことで身体を軽くする。二階のテラスに降りるとドアを蹴るがドアは開かない、外からかんぬきをかけられているようだった。

「ベルリぶち壊せ」
『おう!』

 水弾がドアをぶち壊すと二人の男が吹き飛ばされる。そいつらをお構いなしに踏みつけ廊下に出る。
 角部屋のドアはすでに開け放たれ男二人がドアの前に立っていた。
 ビィティは角部屋に押し入ろうとしている男達に水弾をお見舞いするようにベルリに命令する。

 水弾が炸裂して野盗達が吹き飛ばされ気絶する。
 急いで角部屋に入るとデオゼラがメルリィに覆い被さっていた。

「こいつは裏切り者だ!」
「違うわ! 裏切り者はこいつよ!」

 二択、まるで死ぬ前の俺じゃないかとビィティは嫌な過去を思いだし顔を歪める。

「ベルリ吹き飛ばせ」
『おう!』

 ベルリが放った水弾は迷わずデオゼラに当たりその身を吹き飛ばした。

「な、なぜ!?」
 そう言うと壁に吹き飛ばされたデオゼラは意識を失った。

「残念ですよデオゼラさん。あなたが宿屋を探しに行くときベルリ精霊に後を着けさせてたんだよ、あなたを守るためにね」
 そう言うとビィティは貰った金貨を倒れて意識を失っているデオゼラの胸元に金貨を置く。

 宿屋に向かったデオゼラは野盗と合流していた。そこで自分だけ助かる代わりにクラリスを差し出す約束をしたのだ。彼は我が身可愛さに主人を裏切ったのだ。

「ありがとう助かったわ」
 メルリィは乱れた衣服を直し剣を持つとクラリスの所在を聞く。
 ビィティは屋根にいることを教えるとメルリィはすぐに屋根に行こうとするので、ビィティは腕を掴み行くのを止めた。

「ヴィックスを見つけてからだ」

「あんな奴どうでもいいわ、姫様の方が重要なのよ!」
 メルリィはヴィックスのことなどどうでも良いと言わんばかりにさっさと屋根の上に上がろうとする。
 それだけクラリスが大事だと言うことなのだが彼女は完全に冷静さを失っていた。
 単独で動けば敵に見つかった時一緒に逃げられなくなりバラバラになる可能性がある。それに弾除けという観点からも壁役は多いに越したことはないと説明するとメルリィは理解示し落ち着きを取り戻したをした。

「で、あいつどこにいるんだ」

「どうせ部屋で震えてるんでしょ」
 メルリィはさっさとしろと言わんばかりにドカドカと歩き反対側の部屋のドアを蹴破り部屋の中に入った。
 室内を探すとメルリィの言う通り隅っこでブルブルと震えるヴィックスの姿があった。

「おい、逃げるぞ!」

「無理だ、僕たちはここで死ぬんだ!」
 ビィティは泣き言を言うヴィックスの胸ぐらを掴み立たせる。

「お前の主人のクラリスの命がかかってるんだ、泣き言は死んでから言え!」
 ビィティは引きずるようにヴィックスを部屋から出すと角部屋へ戻りテラスからクリンの風で屋根へと上がった。

「二人とも無事だったのですね」

「姫様こそ無事で何よりです」
 メルリィはクラリスの前でひざまずき涙を流すクラリスに生きて会えたことを喜んだ。
 片やヴィックスはクラリスのことも忘れ膝を抱えて怯えむせび泣く。クラリスに慰められてようやく自分を取り戻しヴィックスは涙を拭く。
「……グスッ」

 クリンの報告では宿の中はすでに野盗が10人宿の周囲には20人の男達が武器を携えている、そして馬車や町の入り口にもクラリス達を逃がさないために野盗達が張り付いているのだと言う。
 まさに前門の虎、後門の狼。絶体絶命のピンチだなと一生言うこともないと思っていた言葉を思い浮かべてニヤリと笑う。

「アルバ、こんな時に笑うなんて余裕ね」
 メルリィがトゲのある声でそう言う、どうにもちょっと前から彼女は自分に敵意を持っているなとビィティは感じていた。
 その理由を彼は知らないし分からないであろうメルリィはクラリスのために生きてると言っても過言ではないのだから。

そんな彼女をよそにビィティはベルリに問いかける。
「この街に霧を発生させられるか?」

『ちょっとむずかしいな、あるじぃの周囲20m位が限界だ』

「それで十分だ」

「どうするのですか?」
 クラリスが心配そうにビィティの袖を掴む。メルリィはその行為にビックリしてクラリスを見るが、その目は恋する乙女の物だった。
 その事にメルリィの心は苛立ったが、その事を咎めるとメルリィとの仲にヒビが入りそうな気がしてなにも言えなかった。

「俺が三人を馬車まで運ぶ。馬車の操車を出きる奴はいるか?」

「ぼ、僕が出来る」
 なんとか勇気を振り絞りヴィックスは立ち上がる。その顔は涙と鼻水でグチャグチャになりとてもイケメンとは思えなかったがビィティは勇気を出してる今の方がイケメンだぞと心の中で応援した。

「よし! ヴィックス、クラリスの命はお前にかかってる死に物狂いで走らせろ。お前が頼りだからな!」

「ま、まかせてくれ!」
 頼りにされてることでヴィックスは元気を取り戻し顔にもやる気がみなぎっていた。ヴィックスは今まで誰にも頼られたことがない、三男だから、オマケだからと蔑まれていた。
 そんな彼を強いビィティが頼ってくれる。クラリスの命を守れるのは俺だけだと言ってくれる。
 その言葉でヴィックスの小さな勇気のロウソクに火が灯ったのだ。

「ベルリ霧を発生させろ」
『おう!』

 ビィティ達の周囲に濃霧が発生する。ビィティは屋根の瓦を数枚拝借してクリンの風で一階に降り、ベルリに道案内をさせ馬車へと向かった。

 だが当然のごとく馬車にも盗賊がいる。微かに浮かぶ影で二人の野盗がいることがわかた。

 ベルリは霧の作成で攻撃できない。
 クリンでは攻撃力が高すぎて殺してしまう。
 何か手はないかと考えた末にビィティは瓦でぶん殴ることを決めた。子供とは言え13歳でステータスオール+5修正されている。大人と変わらないんじゃないかと言う予想からである。

 レベルを持っているのはこの世界では動物以外はヒロインだけだ。だからこそ、この無謀とも思える作戦に打ってでるのである。

「今から馬車の前にいる野盗を倒す」
 ビィティがそう言うとメルリィも自分も行くと立候補をする。二対二の方が早く決着つくし倒しやすいからと言う理由である。
 確かにメルリィの言うことが正しいとビィティは納得したが、できれば殺さないでくれと言って瓦を手渡す。

「お優しいことで」と険のある言葉でビィティを睨む。メルリィは彼から瓦を引ったくるように奪うと奥の野盗へと向かった。
 バキッと言う音が響きメルリィが野盗を倒したのを合図にビィティも野盗の頭に瓦を叩きつけるが一撃で仕留め損なった。
 野盗がこちらに向くとビィティはしゃがみこみ思いっきりジャンプして顎にヘッドバットを喰らわした。この技もクリンとのコンビネーションで敵と戦っている時に、何もないのにしゃがんだら下から風を送って飛ばすようにと言い渡してあったのだ。
 ジャンプする力と風の力が合わさりまさに人間ロケットである。その力は3倍のスピードで盗賊のアゴを打ち砕く。

「脳細胞だいぶ死んだな」
 ビィティは頭をさすり大きく息を吐く。さすった頭には大きいたんこぶが出来あがり痛みで彼は顔を歪める。

 今の攻撃で自分の力量をビィティは把握した。子供の村人+5は大人と同程度の力が無いのだと。
 そして反省しビィティは自分の強さを下方修正した。

「俺が強いんじゃなくて精霊が強いんだな」
 それを聞いた二体の精霊は『そんな事ないぜ』『ご主人ちゃまは強いでちゅ』と言うがどう考えても気を使っているのだ。

 だが、子供がこの巨体の盗賊を倒せたのだからステータスを上げるのは間違いじゃ無いとビィティは確信した。

 ビィティが盗賊を倒すのを確認するとヴィックスが馬を引き馬車につなげる。ビィティも見よう見まねで手伝おうとするがワタワタするだけで結局ヴィックスが馬をつなげた。
 ビィティにドヤ顔をしたヴィックスは馬車の御者台に乗り込み、みんなに乗り込むように促す。
 クラリスとメルリィが乗り込むのを確認するとビィティは馬車から魔道具のランプを取り、馬車に乗らずに門へと向かう。2m先も見えない濃霧では誰かが案内しなければ門へとたどり着けないからだ。
 ビィティに導かれ馬車は門へと走り出す。

『あるじぃ門に敵が4人いるぜ』

「珍しいなベルリが先に敵を発見するなんて」

『へへへ、湿気が強いからな水の中みたいなもんだよ』
 クリンより先に敵を発見できたのが嬉しかったのかベルリは得意気にヒレを動かす。

「よし、霧を解除して、水弾を打て!」

『おう!』

 一気に霧が晴れると馬車が走っているのが野盗達にバレ、馬車を塞ぐように彼らは立ちふさがった。
 ビィティは持っていたランプを野党たちに投げつけると地面に落ちた魔道具のランプは壊れ目がくらむほどの光りを発する。
 その瞬間、野盗たちはベルリの水弾で弾かれ門の外へと弾かれ道の反対側まで吹き飛ばされ、まるでビリヤードをするかのごとく木にぶつかりお互いの頭をぶつけ合って倒れた。
  ビィティは盗賊たちが落とした武器を拾い馬車に飛び乗ると、ヴィックスは馬に鞭を入れ馬車は全力で王都の方へと走り出した。
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