上 下
62 / 80
第三章

第52話 悠々自適

しおりを挟む

 家に戻って数日後、カイザーゴンドラの改良やヘリポートの整備状況の確認などをしながらのんびりしていると、ヨーラムさんが訪ねて来た。

 Aランク魔物の白い虎の買い取りを打診したからだろう。
 さっそくリビングに案内した。
「ヨーラムさんいらっしゃい。ゆっくりしていってください。」
「ユージさんお邪魔します。」
「今日は虎の魔物の確認ですか?」
「それもありますが、気になる情報がありましたので、ユージさん達にお知らせしにきました。」
「気になる情報?」
「はい。近くでドラゴンの目撃情報があったんです。」
「・・・ドラゴンですか?」 カイザーのことだな・・・ 誰かに見られていたらしい。
「はい。複数の貿易船が、黒いドラゴンが海に近い魔の森の上空をレバニールの方角に向かって飛んでいるのを目撃したそうです。」
「そうですか・・・」
 ・・・海沿いを飛んだからな。貿易船から見えていたのか・・・
「万一こちらに来た場合は、ここも危険かと思い、知らせに来たのですが・・・ すでに何かご存じでしたか。」
 気取られてしまったようだ。まあいいか。
「詳しくは申し上げられませんが、町や我々に危険はありませんので、ご安心ください。」
 ドラゴンを配下にしたことが広まると面倒そうだから黙っておこう。
「・・・そうですか。分かりました。危険が無いのであれば問題ありません。」 ヨーラムさんは神妙な顔で頷いた。
 察しの良いヨーラムさんは聞かないでくれるようだ。

 ガチャ
「そうなのよ。ヨーコちゃんも一緒にどう?」
「いいんですか? ぜひお願いします!」
 ヨゾラさんとヨーコちゃんがリビングに入ってきた。
「あ!お父さん来てたんだ!聞いてよ!今度私もドラゴンに乗せてくれるって!」

 俺とヨーラムさんは固まった。

「飛べるんだよ!凄いよね!」
 ・・・そういえば特にヨゾラさんやユリアさんに口止めとかしていなかったな。
「・・・そうか。気をつけるんだよ。」 ヨーラムさんは苦笑いで言った。
 とりあえず笑ってごまかそう。
「ハッハッハッ!バレてしまいましたか!」 ちょっと不自然だがまあいい。
 もともとヨーラムさんならバレても良いと思っていたし。
「何よ。秘密にするつもりだったの? ヨーコちゃん達が一緒に住んでるんだから無理に決まってるじゃない。」 ヨゾラさんは何でもないことの様に言った。しかしまったくもってその通りだ。
「いえ、まだどう伝えるか相談していなかったので、保留にしていただけです。教えるつもりでしたよ。」 一応配下に相談しようと思っていただけだ。
「あ!すみません!てっきりもう知っていると思って私!」 ヨーコちゃんが慌てている。
「いやいいよ。逆に早めに言えて良かったよ。」
「しかしドラゴンまで従えてしまうとは、薄々気づいてはいましたが、ユージさん達はおとぎ話の英雄のような存在なんですね。」 ヨーラムさんが気を利かせて空気を変えてくれた。
 まあ実際神の部下に魔王を倒せと言われているし、あながち間違いではないな。さすがにそれは言わないでおくか。
「いえいえ。たまたま運が良かっただけですよ。」
「はっはっはっ。運があっても能力が無ければドラゴンを従えることはできないでしょう。」 笑い飛ばしてくれるのは助かるな。こちらの気持ちを分かっているのだろう。さすがヨーラムさんだ。
「いえいえ。まあまだ安全面などを確認中ですが、数名であれば飛んで移動できるようになったので、何かあったら協力するので言ってください。」
「それは心強いですね。まあドラゴンで飛ぶ必要があるようなことは思いつきませんが。」
「あら。何もなくても乗せてあげれば良いじゃない。眺めも良いし楽しいんだから。」
「いえ普通の人は結構怖いと思いますよ。」
「そうかしら? ジェットコースターだって楽しいと感じる人の方が多いんだから大丈夫じゃない?」
「そうですかね?」
「そうよ。」
 ジェットコースターは安全だと分かっているから楽しめるような気がするが。まあ安全確認が済んだら乗せてあげよう。
「じゃあ。安全な座席が用意できたらヨーラムさんも試しに乗ってみますか?」
「お父さんも一緒に乗ろうよ!」 ヨーコちゃんはノリノリだな。
「・・・ちょっと怖いですが、よろしくお願いします。」 ヨーラムさんも恐る恐るだが乗る気になったようだ。
「ちゃんと落ちないようにしますし、万一落ちても配下がいれば着地できますから大丈夫ですよ。あ、一応他の人にはできるだけ言わないようにお願いします。言う必要があるなら相談してください。」
「はい。それはもちろんです。」
 その後、ユリアさんやヨーマ君も合流しドラゴンの話で盛り上がった。ユリアさんの感想を聞いて怖がっていたが、結局3人とも乗ることにしたようだ。
 ヨーラムさんは、後日ドラゴンに乗る約束をして、白い虎の魔物を買い取って帰っていった。白い虎の魔物はアイスホワイトタイガーという魔物で、美しくて珍しいので、毛皮やはく製はかなり高額で取引されるそうだ。首都の権力者とつながりを作るために使うらしい。太陽の炎など他国からのアンデッド討伐隊の派遣を国で断ってもらうようにするそうだ。
 ますます俺の安全性が増すな。

 カイザーゴンドラが完成すれば行動可能範囲が劇的に広がるが、どこか行きたい所がないかヨゾラさんとユリアさんに聞いてみよう。
「ヨゾラさん、ユリアさん、二人はどこか行きたい所はありますか?」
「何よ急に。」
「いえカイザーゴンドラがあれば、どこでも行けそうじゃないですか。」
「そうねぇ。正直どこに何があるのか、よく知らないから思いつかないわね。とりあえず色々な町に行ってみるのはどうかしら。」
「確かにこの世界の観光地とか知りませんからね。娯楽目的の旅行も一般的ではないみたいですし、試運転もかねて近場から順に町を巡ってみましょうか。」
「でもドラゴンで人のいる場所を移動して大丈夫でしょうか?」 ユリアさんは心配そうだ。
「見られたら大騒ぎになるでしょうけど、夜に移動すれば大丈夫じゃないでしょうか。元々アンデッドに乗って移動する時は夜が基本ですし。ここに来る時も夜にアンデッド馬に乗ってノワリンと一緒に走ってきましたが、騒ぎにはなりませんでしたから。」 
「そうね。それで良いんじゃないかしら。でも寝たいから、夜の移動は数時間にしてよね。徹夜は嫌よ。」
「そうですね。数時間でも国内の町なら1回で行けそうですから大丈夫じゃないでしょうか。たぶん時速200キロ以上は出てますよね。速度を測る手段がないから分かりませんが。」
「もっと出ているんじゃないかしら? まあ移動は大丈夫そうね。」
「そんなに速いんですね・・・全然想像できません。」 ユリアさんは速い乗り物に乗ったことがないのだろう。この世界の乗り物は遅いからな。スキルを使えば人間の方が速いくらいだ。
「じゃあ完成したら、旅行をしましょう。」
「ええ。楽しみね。」「はい。」

 数日後、カイザーゴンドラとヘリポートが完成したので、ヨーラムさんを招待して試乗会を行った。
 カイザーゴンドラは8人乗りで、車の運転席のような座席が8個ついている。万一落ちた時は俺が風蛇を出して風蛇と人妻エルフさんで落ちた人を救助する。風魔法は自由に飛ぶことはできないが、落下の軌道や速度を変えることはできるので、速度を上げて落ちた人に追いつきパラシュートのよう減速して着地することができる。
 冬も近づきだいぶ寒くなってきたので暖房係に火魔法使いちゃんも乗ることになった。火魔法使いちゃんと人妻エルフさんも乗ると試乗会は8人になったので、余裕をもって8人乗りにしたのに満席になってしまった。

 ヨーラムさんとヨーマ君はやはり相当怖かったようだが、ヨーコちゃんは楽しそうだった。ユリアさんは前回のようなただの荷馬車ではなく、しっかりとした座席付きゴンドラができたので、あまり怖くなくなったようだ。

 試乗会も無事に終わり、ちょっと怖い以外は特に問題が無いことが確認できた。
 8人乗っても重量などはかなり余裕があるようだったので、風蛇を1体常時出しておき、ゴンドラに巻き付けておくことにした。落ちてから出すより早く対応できるからその方が安全だろう。
 火魔法には火を出さずに周囲を温める暖房のような魔法があったので、夜でも目立たず快適に移動できそうだ。

 こうして俺達は、旅行をしたりレベル上げをしたり悠々自適な生活を送り始めた。旅行にはヨーマ君とヨーコちゃんも連れて行き、皆で色々な町を見て回った。皆楽しめたし良い経験になっただろう。

 国内を一通り見終わったころ、とある情報が入ってきた。

 レイライン王国で勇者が見つかったらしい。おそらく日本人だろう。


 俺は新たな波乱の予感を感じながら、平和が続くことを頼りにならない神に祈った。

 森の外の草原では早咲きの花が咲き始め、季節はまもなく春を迎えようとしていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

異世界から帰ってきたら終末を迎えていた ~終末は異世界アイテムでのんびり過ごす~

十本スイ
ファンタジー
高校生の時に異世界に召喚された主人公――四河日門。文化レベルが低過ぎる異世界に我慢ならず、元の世界へと戻ってきたのはいいのだが、地球は自分が知っている世界とはかけ離れた環境へと変貌していた。文明は崩壊し、人々はゾンビとなり世界は終末を迎えてしまっていたのだ。大きなショックを受ける日門だが、それでも持ち前のポジティブさを発揮し、せっかくだからと終末世界を異世界アイテムなどを使ってのんびり暮らすことにしたのである。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

処理中です...