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第三章
第48話 黒竜
しおりを挟むゴオオォォォォ!
ブレスがおさまると、ドームの周囲には何もなくなっていた。配下達の姿も見えない。
やられてしまったのか?
空には黒いドラゴンがこちらを向いて空中で静止していた。羽ばたかなくても謎能力でホバリングできるらしい。
「ヨゾラさん。ドームは大丈夫そうですか?」
「ええ。今のところ大丈夫よ。」 ヨゾラさんはいつも通り余裕だ。さすが無敵の女だ。
「これで満足して去ってくれると良いんですけど。」
「刺激しないで様子見した方がいいでしょうか?」 ユリアさんは不安そうだ。
「それは無理そうよ。」
空を見るとドラゴンが再び口を開けていた。口から黒い光が放たれる。
ドゴォォォォォォ!!!!
再び俺達を黒いブレスが襲う。視界が黒い光に包まれたあと大量の土砂が巻き上げられる。
「くっ。仕方ない戦いましょう。」
「そうね。とりあえず闇魔法と雷魔法が効くか試しましょう。」
「は、はい。」
「俺は敵が近づいてきたら死体収納を試します。」
雷魔法で麻痺して墜落してくれると良いんだが・・・
「魔法防御ダウン!」
黒い魔法陣から魔法が放たれる。黒竜は物理法則を無視した加速で旋回して回避した。
「ライトニング!」
黄色い魔法陣から、雷光が迸る。こちらは当たったが効いているようには見えない。麻痺もしないようだ。
こちらの攻撃に怒ったのか、黒竜が黒いオーラをまとった。そして再び口を開けてブレスを撃ってくる。
ヨゾラさんはその隙にほぼ相打ちのタイミングで魔法を当てたが黒いオーラに弾かれてしまった。闇魔法は効かないのだろうか。
ドガゴォォォォォォ!!!!
さらに威力の増したブレスが周囲を抉る。
「これは厳しそうね・・・」 ヨゾラさんがつぶやく。
「魔法では倒せそうもありません・・・」 ユリアさんも弱気になっている。
マズいな・・・遠距離戦では勝てそうもない。
「ヨゾラさん。ドームはどのくらい持ちそうですか?」
これは勝てるかは無敵ドーム次第になりそうだ。
「まだまだ全然余裕よ。正直強い攻撃1発より細かい攻撃連打の方がMP消費は大きいのよね。今回はMPポーションもあるから、長期戦もいけるわ。」 攻撃は効かないが防御は余裕のようだ。
前回の戦いの反省を生かしてヨゾラさんはMPポーションを持つようにした。今まではMPドレインがあるからユリアさんしか持っていなかった。今は荷物持ちにも大量に持たせているので、ドーム内で荷物持ちを出せばいくらでも補充できる。聖女に祈りのスキルを使わせても良い。
「それじゃあ相手が諦めて去るか、近づいてくるまで待つしかないですね。」
ヨゾラさんが余裕なら問題ない。俺はだいぶ安心した。
「そうね。しょうがないわ。」 ヨゾラさんはヤレヤレという感じだ。余裕だ。
「そうですね。」 ユリアさんも落ち着いたようだ。
周囲はドームのある場所以外が抉れて変な形のクレーターになっている。
「グギャオオオオオオォォン!」
黒竜が咆哮を上げ、衝撃がドームに当たりビリビリと音がする。咆哮も何かの攻撃なのだろう。
黒竜はブレスが効かないことに怒っているようだ。
再びブレスを撃ってきた。
ドガゴォォォォォォ!!!!
「挑発して引き寄せたいわね。ユリア、雷魔法を色々撃ってみてくれない? 目の前がチカチカすれば怒って近づいてくるかも。」 ヨゾラさんは諦めさせるより、呼び寄せて倒したいようだ。
「わかりました。やってみます。」 ユリアさんも同意した。
「ユージも死体収納のタイミングを逃すんじゃないわよ。」
「わかりました。任せてください。」
目の前に着地してくれれば楽勝だが、飛んできてすれ違いざまに攻撃されたら、タイミングは一瞬だろう。これは気が抜けないな。
ユリアさんが雷魔法を色々撃ち始めた。普段使わない弱い魔法も使っている。
効いていないが黒竜はチカチカしてイラついているようだ。
相手もブレスが効かないのが分かったのか、闇魔法らしき攻撃をしてきた。
闇魔法も使えるのか。ドラゴンは万能だな。
「ディスペルや物理防御ダウンを撃ってきたわね。」 ヨゾラさんが言った。
ドームの解除を試みているようだ。警戒しているのかすぐに近づいてこないし、結構知能が高いのかもしれない。
急に周囲が暗くなって見えなくなった。
「ダークもやってきたわね。ナイトビジョン!」
ヨゾラさんの魔法ですぐ見えるようになった。
ガキィィン!!
!!
目が見えるようになったのと、黒竜がドームを攻撃したのがほぼ同時だった。そのまま凄いスピードで飛んで距離をとられてしまった。
しまった!!死体収納のタイミングを逃した!!
ダークで見えなくして攻撃かよ!マジで知能が高いな!
「ユリア!攻撃中止!目が見えないフリをしましょう。」 ヨゾラさんから指示が飛ぶ。
なるほど。良い作戦だ。見えないフリをすれば再び攻撃してくる可能性が上がる。
「はい!」 ユリアさんが返事をして、見えないフリをする。
「ユージ!次来たら頼むわよ!」 ヨゾラさんも見えないフリをして全然違う方向を見た。
「はい!」 俺は見ないと死体収納できないので、俺だけ黒竜をしっかり見る。
黒竜は旋回してこちらを伺ったあと、再び凄いスピードで近づいてきた。
ドガギィィン!!
今だ!!死体収納!!!
俺はドームが攻撃を受けると同時に死体収納を発動した。
成功だ!!!黒竜が消えた!!
「よっしゃ!!!」 俺は思わず叫んでガッツポーズした。
黒竜はすれ違いざまに両足と尻尾を使って体重とスピードを乗せた攻撃を入れてきたが、ドームはびくともしなかった。無敵ドーム様様だ。
「やったわね!」 ヨゾラさんも喜んでいる。
「やりましたね!」 ユリアさんも安心したのだろう。嬉しそうだ。
「これで俺達が協力すればドラゴンも倒せることが証明されましたよ!俺達最強じゃないですか?」
とりあえずドーム内に入られなければ遥か格上の強敵でも何とかなるのが分かった。これで安心して魔の森でも活動できるぞ。
「あはは。それは調子に乗りすぎじゃない?」
「ふふふ。二人は本当に凄いですね。」
「いえいえユリアさんもですよ。強い遠距離攻撃が有るか無いかで戦いの流れが全然違いますからね。」 ユリアさんも大事な仲間だ。それに実際今回も雷魔法の嫌がらせが無ければすぐ近づいてきたか分からないしな。
「ふふふ。ありがとうございます。」
まあ何とかなって良かった。
しかしドラゴンは滅茶苦茶強かったな。知能も高かったし。多分ブレスを受けていたら即死だっただろう。
ダークでまだ暗い周囲を見る。周囲は木が消し飛び地面が深くえぐれている。酷い状態だ。
こんなことが起こるようでは、ヨゾラさんがいなければ魔の森での活動は無理だな。俺だけだったら普通に死んでいただろう。誰も開拓も通過もできないわけだ。
俺は改めて魔の森の恐ろしさを痛感し、気を引き締めた。
黒竜に怯えて他の魔物が逃げ出したのか、魔の森は静寂に包まれていた。
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