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第三章
第47話 Aランク魔物と黒い影
しおりを挟む俺達はAランク魔物が出ると予想される魔の森の未知のエリアに進んだ。
しかし半日探しても今までどおりBランク魔物までしか出なかった。やはりAランク魔物は数が少ないようだ。
これはレベル上げは時間がかかるかもしれない。まあ地道にがんばるしかないか。
今日は諦めて一旦野営地に戻ろうか考えていた時だった。
「Aランクらしき魔物を発見しました。」 突然カゲイチが真横に現れて言った。
「うわ!ビックリした~。」 カゲイチはいつも突然現れるから心臓に悪い。
「赤い大きなゴリラのような未知の魔物です。あちらの方角です。」 カゲイチは気にせず言った。
こいつわざと俺を驚かせているんじゃないだろうな?
「お、おう、じゃあ予定どおりドームを張って待っているから釣ってきてくれ。」
ドームに三人で入り、護衛の配下を反対方向に下がらせる。怖いので念のため配下は収納しないことにした。
作戦は事前に話し合っている。まずは配下にするために俺がソロ討伐チャレンジをする。戦力増強になるし配下にすればステータスが見れるので、次回以降が楽になるからだ。
ドームに攻撃を受ける前に死体収納で倒せればソロ討伐成功だ。ドームに攻撃を受けてしまった場合はヨゾラさんと二人討伐になるが、まあ二人討伐でも経験値は結構入るのでOKだ。Aランク相手に確実にソロ討伐するのは無理という判断だ。
近づいてこなかった場合はユリアさんが雷魔法でソロ討伐チャレンジをする。
ごおおお! ドカン! ドカン!
しばらくすると、咆哮と爆発音が聞こえてきた。だんだん近づいてきている。
今回の魔物は派手に戦うタイプのようだ。隠密系じゃなくて良かった。
ドカン! 何本か先の木が爆発して吹き飛び魔物が見えた。赤くてでかいゴリラだ。腕が光っていて、腕に触れると爆発するようだ。
カゲイチが近づいてきてドームを飛び越えた。何も言ってこないので、攻撃を受けずに釣ることに成功したのだろう。
ごおおおおお! ゴリラがこちらに気づき咆哮する。
ドドドドドド! ドカン!ドカン!
木を吹き飛ばしながらこちらに向かって走ってきた。巨体だが速い!
ごおおおお! ゴリラが凄い勢いでドームに飛び掛かりながら、光る両手を振り上げた! ここだ!
死体収納! 成功だ!
「ふぅ~」 予想はしていたが、結構タイミングがシビアだった。スピードタイプじゃなかったようだが、さすがにAランクになると10メートルの距離を一瞬で詰めてくる。
「成功ね!レベル上がった? 私は上がってないからソロ討伐できたんじゃないかしら?」 相変わらずヨゾラさんは涼しい顔だ。
「人間と死霊術士は上がってないですが、聖騎士と神官が6まで上がりました。」
カゲイチのステータスを見たが、カゲイチの神官レベルは1のまま上がっていない。カゲイチには経験値は入っていない。
今までは同格以上を倒すと、最初の1体目で人間と死霊術士のレベルが上がることも多かったが、聖騎士と神官が増えて、経験値の分配先が2つから4つに増えたので、1つあたりの経験値は半分になったはずだ。上がっていなくてもおかしくはないか。恐らく人間と死霊術士も0.5レベル分くらいの経験値は入っただろう。
「確認しましたが、成功です!」
「やったわね!」 ヨゾラさんは良い笑顔だ。
「良かったです。」 ユリアさんも喜んでくれた。
「未知の魔物接近!」 黒猫獣人ちゃんが走ってきて突然叫んだ!
ヤバい!連戦か? 少し不安だがやるしかない。
「ドームの後ろに回れ!ソロ討伐チャレンジする!」
配下達が移動をしようとすると、配下達に大量の氷のつららが降りそそいだ。
配下達がそれを防ぐ。攻撃が配下達に当たってしまった。ソロ討伐チャレンジ失敗だ。
「失敗だ!配下だけで戦え!」 俺はすぐに配下達に戦うよう指示した。
「俺達は離れて様子を伺いましょう。」 二人に話しかける。
「ええ。仕方ないわね。」
「はい。」
離れてドームを張り直し様子を伺うと、白くて大きい虎の魔物だった。氷魔法を使うようだ。周囲を凍らせたり、つららを降らしたりしている。動きも速くて近接攻撃も強そうだ。氷魔法を使う白い虎はかっこいいな。配下にしたかった。残念だ。
配下達も派手に魔法やスキルを使って応戦している。やはり火の魔法武器や火魔法は派手だな。しかし敵のスピードが速くて攻撃を当てるのが大変そうだ。まあ人数が多いからそれなりに当たってはいるが、近接戦闘でスピードについていけているのは獅子獣人剣士くらいだな。配下で唯一魔法の靴を装備しているからだろう。聖騎士と女騎士の魔法の靴は俺達が取ってしまったからな。カゲイチは周囲警戒しているし、ノワリンは俺達のそばで待機しているので参加していない。多分いざという時のためだろう。その辺は騎士団長に指揮をまかせている。
結構時間がかかったが、無事倒せたようだ。Aランク級の配下が結構な数いたのに思ったより苦戦したな。やられそうになった配下もいたし。
まあAランクの魔物は大規模討伐隊が組まれたりするそうなので、これが本来のAランク魔物討伐なのかもしれない。ユニークスキルを使う俺達が普通じゃないのだろう。
しかし周囲は酷いありさまだ。木が凍ったり、燃やされたり、なぎ倒されたり、地面が抉れたりして森が破壊され大きく空が見えている。
「派手にやったわね。」 ヨゾラさんはちょっと楽しそうに言った。ヨゾラさんは派手好きだからな。
「さすがAランクの魔物はまともに戦うと強いですね。」
「私もソロ討伐ができるか不安になってきました。」 ユリアさんは不安そうだ。まあ高レベル配下達でも時間かかっていたからな。一人で倒しきれるか不安なのだろう。
「装備も強力になりましたから、うまく当てることができれば大丈夫ですよ。」
雷魔法は強力だし、聖女装備もかなり強力だからな。今回も攻撃を当てるのが大変で時間がかかっただけだしな。
「そうでしょうか?」 ユリアさんは不安そうだ。
「まあ厳しそうなら無理せず私と二人討伐に切り替えましょ。闇魔法で防御を下げればいけるわよ。」 ヨゾラさんが言った。
「そうですね。」 ユリアさんも納得したようだ。
ふと空を見上げると、少し離れた位置に黒くてでかい何かが飛んでいた。
「何か飛んでますね。」 なんとなく気になって俺は言った。
「何?ドラゴンでもいたの?」 ヨゾラさんは冗談交じりで言った。
「ここはドラゴンがいるんですか?」 言われてみればドラゴンがいてもおかしくはない。
「知らないわよ。」 知らないようだ。
「魔の森にも山に近いあたりにはドラゴンがいると言われています。」 ユリアさんが言った。
「そうなんですね。ここは山から離れているから違うか。この辺にはいないだろうな。」
やはりドラゴンはできればいずれ配下にしたい。フラグを立てておこう。
「ユージ様。あれはドラゴンです。撤退しましょう。」 カゲイチが言った。
「え?マジで?」 フラグ回収早すぎだろ。
「本当に?」 ヨゾラさんは興味深々だ。
「ええ!?」 ユリアさんは慌てている。
黒くて分かりにくいが、言われてみればドラゴンに見える。こちらに向かってきているような気がする。
さっきの戦闘で木がなぎ倒されていて、ここは空からもよく見えるだろう。
マズい気がしてきた。
背中に冷たい汗が流れる。
「森の中に隠れながら逃げましょう。」 俺は言った。
「ソロ討伐チャレンジしないの?」 ヨゾラさんは聞いてきた。
言われてみればやれるのか? 無敵ドームの中にいればやられないし。
「や、やめましょうよ。ドラゴンですよ。」 ユリアさんは珍しく慌てている。
ドラゴンは、そんなに強いのか?
「騎士団長どう思う?」 指揮官の騎士団長に聞いてみた。
「まともに戦ったら勝てる相手ではありません。撤退すべきです。」
「え?」 これだけの配下がいて勝てないの?
「そんなに?」 ヨゾラさんも驚いている。
「そうですよ!」 ユリアさんは分かっていたようだ。
「じゃあ撤退で。」 俺達は空を見上げながら急いで移動を始めた。
話している間にドラゴンはすでにかなり近づいていて、口を開けていた。真っ黒なドラゴンだ。
「ブレスです!」 配下の誰かが叫ぶ。
マジかよ!いきなり全力攻撃してくるなよ!敵対してないのにおかしいだろ!
「ドームを張るわ!」
俺は焦ってヨゾラさんに張り付く。
ドームが張られた。
「避けろ!」 俺はドームの外の配下に向かって叫んだ。
ドゴォォォォォォ!!!!
次の瞬間俺達の視界は黒い光で染まった。
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