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第ニ章
第27話 闇魔法使いと魔族
しおりを挟む魔の森に住み始めて一月ほどたった。
俺はここしばらく曇りの日だけ狩か町に出て、雨の日と晴れの日は家でのんびりダラダラ過ごすという非常に稼働率の悪い自堕落な生活をしていた。がんばるのが面倒だからだ。
未だにカニと亀は狩り終えていないがレベルは1あがり19になった。
家では暇なので、大工に頼んでリバーシ、チェス、将棋を作ってもらい配下たちと対戦したりしていた。特別強いわけではないが、おれは結構ボードゲームはできるのだ。囲碁もルールは知っているが定石とかいまいち良く分からないので、手を付けていない。
最初は配下たちに連戦連勝だったが、リバーシはすぐ良い勝負になり、チェスと将棋も文官組とジミーには負けることが多くなってきた。良い勝負のうちは面白いからいいが、まったく勝てなくなったら対戦相手からはずそう。俺は心の狭い男だからな。
商業ギルドに持ち込んだりはしていない。似たようなゲームはあるそうだし、無くてもラノベのように大儲けなんてできるわけがないからだ。現実には特許もないのに売上の何割かをくれる契約をしてくれるなんてありえない。倫理観がしっかりしている日本ですら特許などがない情報に売り上げの数パーセントを払う契約をすることなんてないのに、倫理観が残念な世界でそんなことがあるわけがない。善良な商人でも情報料に小金をくれるくらいだろう。あるとしたらこちらの方が強い場合だけだ。貴族とかね。
こちらがまだ情報を持っていると思われた場合でも、よそ者のいついなくなるか分からない相手に金を払い続ける契約をするわけがない。逃がさないように手をうってくるだけだ。良くて好待遇で雇うとかだ。少なくとも旅に出たりできない契約をしようとしてくるはずだ。旅に出てもお金を払い続ける契約をするようなやつは、商人を続けることはできないだろう。無駄な金を払っていたらライバルに価格差で負けるからな。商人をなめてはいけない。生き馬の目を抜くような業界なのだ。知らんけど。
まあ日本人は他にもたくさん転生しているから、もう誰かが色々試しているだろうけどな。うまくいってもすぐコピーされるから先行者利益もたいして得られないだろうし、俺は目立つだけ損だから知識チート系は試す気もない。そして試す知識もない。
産業革命を起こすやつとかいたら面白いんだけどね。10年後に期待だ。
良い天気(曇り)なので美味しい魚介を食べながら酒を飲もうと町にくりだしたある日のことだった。
その日は鉄仮面のメンバー(仮面無し)と町にきていた。騎士団長達は立ち振る舞いが騎士っぽいので目立つため、町では青髪が護衛に復帰していた。鉄仮面メンバーは仮面をしていなければただの冒険者なのでそんなに目立たないからだ。アックスはでかいのでちょっと目立つが。
とにかくうまそうな店を探して歩いていると女性に声をかけられた。
「あなたもしかして日本人じゃない?」
「え!?」ドキッと心臓が跳ねた。
振り向くと気の強そうな黒髪黒目のスタイルの良い美女が目に入った。
その横には明るい紫の髪をした褐色の肌の女の子が一緒にいる。
「あの、違ったかしら?・・・」 固まっていると不安そうに再度声をかけられた。
「あ、いえ、日本人です。」 思わず何も考えず普通に答えてしまった。まあいいか。
「やっぱり! あなたも冒険者をしているの? ちょっと色々話さない?」 勢いよくまくしたててくる。
確かにその女性は、革鎧と剣を装備していて冒険者スタイルだ。横の女の子は魔法使いっぽい杖を持っている。
「あ、はい、せひ情報交換をお願いします。」 ちょっと焦ったが情報交換はした方がいいだろう。日本人なら大丈夫だろう。・・・多分。
「わかったわ。どうする? その辺のお店に入る?」 え?その辺の店で話したら人に聞かれるじゃんよ。秘密にしてたりしないのか?
「話す内容によっては人に聞かれたくないんですが・・・」 まずは世間話するだけとかか?
「うーん。まあそうよね。じゃあ私たちが泊っている宿の部屋で話しましょう。」 いいのかよ?! いや誘っているわけじゃないのは分かるけども。
「え!?ちょっと・・・」 紫髪の女の子は嫌がってるな。そらそうだ。
「冒険者だけどこの人は日本人だから大丈夫よ。」 やはり冒険者を部屋に入れるのはありえないようだ。冒険者だからね。しかたないね。
「どっちにしろ私の能力なら大丈夫なんだから、いいでしょ? 相手の部屋に行くよりはマシだし。」
どうやら凄い能力を持っているようだ。というか紫髪の子は日本人のこと知ってるのか? どうみても日本人ではないが。
「うん、でも・・・」 紫髪の子がアックスの方をチラッと見た。ああ、アックスたちが怖いのか。そらそうだ。
「もちろんお仲間さん達は遠慮してもらうわ。いいわよね?」
「もちろんだ。」 俺はうなずく。まあ日本人だし護衛がいなくても大丈夫だろう。いざとなったらノワリンを出せばいいしな。
「何か大事な話か? じゃあ俺達は適当な店で飲んでるけど、はぐれると面倒だから宿まではついていっていいか?」 青髪が気を利かせて話をあわせてくれた。
「ユージは頼りねえし、時々やらかすからな!」 いつもやらかすアックスに言われたくねえよ!
「じゃあ決まりね! 宿はすぐ近くよ。向かいの店が美味しいらしいから、そこで待っててもらえばいいんじゃないかしら。」
ちょうどいい店があるようだ。
俺達はその女性についていった。
美人だがアックスを見ても物怖じしないなんて、気の強い女性だな。
正直俺は気の強い女性は苦手なんだよな。過去に色々あったんだよ。
性格もスタイルも控えめな人が良いんだよ。
気の強いボンキュッボンな女性はちょっとな。
紫髪の子は細身で控えめな体型で、性格も控えめそうな雰囲気ではあるが、見た感じまだ15歳くらいにしか見えない。半分子供だ。もうちょっと大人な女性が良い。
失礼なことを考えていると着いたようだ。
青髪たちは向かいの飲食店に入っていった。俺も味が気になるから話が終わったら食べにいこう。
ちょっと高めの宿のようだ。まあ女性だけで泊っているなら安宿は危険だろう。というか女性だけだよな? 部屋に入ったら野郎どもがワラワラいたりしないだろうな。不安になってきた。
宿に入ったが幸い部屋には誰もいなかった。椅子とテーブルがあり勧められたので座る。
「じゃあまずは自己紹介ね。私はヨゾラ。苗字はもう無いからいいか。こっちの子はユリアよ。私は日本人だけどこの子は違うわ。でも私が全部話して知っているから大丈夫よ。」 ヨゾラさんか。最近の子はおしゃれな名前だな。いや最近の子とは限らないか。仕事のできる女感があるし、中身は大人の女性かもしれない。あと紫髪の子はやはり日本人ではないらしい。現地人に全部話したのか、よく信じてもらえたな。
「私はユージといいます。日本人です。よろしくお願いします。」 どこまで話すつもりなんだろうか。
「とりあえずお互い今までどうしてきたか話すってことで良い?」
「あ、はい。」 どこまで話すべきか、難しいな。
「まず念のため確認だけど、死んであの銀の玉に職業をもらったのは一緒よね?」
「あ、はい同じです。」 銀の玉略してぎんたま・・・いややめよう。
「わたしの職業は闇魔法使い。ユニークスキルは完全結界よ。」 いきなり言っちゃうの?!
「完全結界は自動であらゆる攻撃を完全に防いでくれて、意識してドーム状の結界を張ることもできるわ。」 なにそれ無敵か?
「ただMPを消費するから、MPが切れたら終わりね。MPが切れるまでは今のところほぼ無敵よ。」 なるほどな。一応弱点はあるのか。しかし弱点まで教えていいのか? 危機管理が残念な子なのかな。できる女ではなかったようだ。
「闇魔法はデバフ系がメインね。攻撃もできるけど弱いわ。でもMPドレインがあるから完全結界と相性が良いのよ。」
「は~なるほど。それは強い。」 MPドレインを使えばずっと結界を張り続けられるのかよ。それで自信満々で話しているんだな。しかし闇魔法使いなのに防御タイプなんだな。
「フフン、そうでしょう。でもこの能力が無かったらヤバかったわ。」
そのあとヨゾラさんは、これまでの冒険の内容を話してくれた。
ヨゾラさんはこの国ゴルドバ商業連合国内の北のドワーフ王国との国境付近の町に送られ、能力的に選択肢は無かったので、冒険者として活動を始めた。
店員など普通の仕事で暮らすことも可能だったかもしれないが、魔王に滅ぼされるかもしれない世界なので、レベル上げ必須と考えた。
ただ、攻撃能力が低かったので一人では厳しいため、他の冒険者パーティーに入ることにした。
しかし冒険者に女性は少ないため、当然男と組むことになったが、3回パーティーを組んで3回とも仲間に襲われた。
・・・うん。やはり荒くれものの冒険者に美人を以下略存在証明QEDファイナルアンサーだな。何言っているか自分でも分からんが、とにかく俺の考えは正しかったようだ。
無敵能力があったので無事だったが、もうこの世界の男冒険者と組む気にはなれず、町にもいづらくなったので、魔の森に近い町に移動し、そこでユリアさんと出会いパーティーを組むことにしたらしい。しばらくレベル上げをした後、首都の港町に行ってみたくなり、首都に移動した。半分は魚介類目当てだそうだ。日本人だしね。
首都で日本人の男性と出会い、しばらく組んだが、日本人男性の現地人の恋人に睨まれて居心地が悪く、首都は魔物も弱くてレベル上げにも向いていなかったので、日本人男性とは別れて、レベル上げのため魔の森に近いこの町に移動してきて今に至るそうだ。
日本人男性は強かったが、恋人優先でレベル上げには熱心ではなかったらしい。リア充め。
「お互いその気はないのに、嫉妬されてすごく面倒だったわ。日本人同士にしか分からない話で盛り上がったりしたのが良くなかったんでしょうけどね。」
なるほどね。ありそうな話だ。
「しかし二人だけで大丈夫なんですか? 二人とも魔法使いみたいですが。」 前衛は無しか? ヨゾラさんが無敵だから前衛もするのかな?
「結界張って魔法を撃てば問題ないわ。あと私は剣道をやっていたから、剣でも戦っていたら剣士の職業を覚えたのよ。」
「そりゃ凄い!」 職業習得は日本の経験も含まれるんだな。
「それにこの子もかなり強いのよ。魔族だから魔法が得意で雷魔法が使えるの。」
「は~そうなんですね。」 魔族もいるんだな。まあ定番種族だ。雷魔法も強そうだ。
ユリアさんは明るい紫色の髪をしていて、肌は褐色で瞳は濃い紫だ。まるでアニメキャラのような色彩だ。この世界の人間は色は多彩だがほぼ地味な色だ。青髪の髪も藍より青くない感じだしな。唯一侯爵がピンクブロンドだったくらいだ。
そういえば人間以外の種族は割と明るい色もいるな。少し耳も尖っているし色も魔族の特徴なのかもしれない。
ユリアさんを見るとこちらを見て何か驚いていた。
「・・・どうかしましたか?」 不安になったので聞いてみた。
「ほらね。大丈夫って言ったでしょ? 日本人ならこんなものよ。」 ヨゾラさんが良く分からないことを言っている。
「でもケンジさんは微妙な態度だったし・・」
「あれは彼女が嫌がるから遠慮してただけよ。彼女から何か言われていたんでしょ。」
「えーと?」 なんの話だよ。あとケンジって誰よ! まあ首都の日本人のことだろうけど。
「ああこの世界では魔族は迫害されているらしいのよ。この国では種族差別は禁止だから表立って何かする人はいないけど、嫌な態度はとられたりはするのよね。」
「ああ。なるほど。」 魔族が迫害か。なんかこの世界の種族は不自然なくらい定番だな。
「あなたは魔王の情報は調べた?」
「はい。500年前の魔王の概要ならレイライン王国の図書館で調べたので知っています。」
「じゃあ説明はいらないわね。魔族は500年前魔王側についたらしいのよ。」 そうなの?!
「え? もしかして魔王は魔族だったんですか?」 言われてみればそれも定番だが。
「いえ。よく誤解されるみたいだけど魔王は魔族じゃないらしいわ。なぜ魔族が魔王についたのかは、よく分からないみたい。この子も知らないそうよ。でもそれで迫害されているの。」
「あぁ。それは大変ですね・・・」 良く分からん理由で迫害されるのはマジ大変だよな・・・最近俺も身に染みているぜ・・・
俺がしみじみ言うと、二人はちょっと驚いている。実感込めすぎたかな。
「こっちの話はこんなとこね。そっちはどんな感じ? もちろん教えてくれるわよね?」 こっちが教えたんだから当然教えろという圧を感じる。
まあ、ここまで来たら正直に話すか。この流れで討伐だ!とはならんだろうしな。何より日本人にはずっと相談したいと思っていた。
ユリアさんもこの感じなら大丈夫だろう。・・・多分。
「もちろんです。私の職業は死霊術士で、ユニークスキルは死体収納です。」
「死霊術士?!」 さすがに二人とも驚いているな。
「それってゾンビとか作れるやつ?」 うんまあそういう印象だよね。
「そうです。ネクロマンサーとか言われたりするその死霊術士です。おかげでかなり苦労しました。」 いやマジで。
問題は次だな。死体収納の即死効果もすべて言ってしまおう。即死効果を隠しながらこれまでの経緯を説明できる気がしない。いい加減誰かに言いたいし。警戒されるだろうが、仕方ない。
「そしてユニークスキルの死体収納は、死体と配下のアンデッドを異空間に収納できるスキルなんですが、それだけでなく、相手を即死させて死体にして収納することができます。」 言ってやった! ・・・どうだ?
「即死? 即死チートってやつ? 怖っ!」 ・・・割と軽いな。まあ無敵能力で防げると思っているんだろう。実際防げるかもしれないし。そういえばユニークスキルなら防げるらしいと本に書いていたな。
ユリアさんはめちゃくちゃビビッているが、まあそれが普通の反応だ。
そして俺はこれまでのことを、できるだけ印象が良くなるようにかつ嘘にならないように気をつけながらすべて話した。印象操作というやつだな。
卑怯とか言うなよ。これはマスコミ、政治家、弁護士もやっている正当な行為である。うん。
「それは・・・凄いわね・・・」
「人を殺しているので軽蔑されても仕方ありませんが、これだけは信じてほしいのですが、俺は自分の命を守るため以外では悪いことはしていないつもりです。」 これはマジでそう。
「・・・あたしなんかよりめちゃくちゃ苦労したのね。」 いやあなたも仲間に3回襲われてますよね。
しかしよかった同情してもらえた。嫌悪されたらどうしようかと思った。ショックで闇落ちして悪の死霊術士になるところだった。
「ユージさん・・・・」 ユリアさんはちょっと涙ぐんでいる。そんな目で見られると胸にグッときて俺まで涙ぐんでしまう。
「ちょっとなに見つめあって泣いてんのよ!」
「泣いてねえし!」 おっと口が悪くなってしまった。
「うーん、しかしどうしようかしらね。」
「何がですか?」 なんだ?
「可能なら組んでレベル上げを一緒にできないかと思って声をかけたんだけど、あなたの状況だとどうなんだろうと思って。ちょっとゆっくり考えたいわね。」
「なるほど。」 まあ俺は特殊な状況だしな。犯罪者の仲間になるようなもんだ。無敵能力は欲しいが無理には誘えないな。
「とりあえず今日のところは話は終わりだけど、あなたの方から何か聞きたいこととかある?」
聞きたいことか・・・そうだ!
「寿司を作ることはできませんか?」 重要なことを忘れるところだった。
「・・・いや気持ちは分かるけど。寿司って・・・」 ヨゾラさんはあきれた顔をしている。
「重要でしょう。私は何も知らないのですが手探りで修行を始めようか考えているところです。」
「・・・寿司を握ったことはないけど、手巻き寿司とちらし寿司なら作ったことがあるわ。こっちの世界ではないけど。」
手巻き寿司!! ちらし寿司!!! その手があったか!!!
「仲間になってください!!!お願いします!!!」
俺は立ち上がって深々と頭を下げた。
部屋の中には白けた空気がただよっていた。なぜだ。
窓の外からは冷たい空気が流れ込み、冬の訪れを告げていた。
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