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第一章
第14話 領都偵察と今後の予定
しおりを挟むアジトで一泊した次の日、少し飲みすぎて寝過ごした俺が起きて外に出ると雨が降っていた。
雨の中歩くのはだるかったので、もう一泊することにしてアジトでダラダラ過ごした。
そういえば盗賊がため込んだ金貨は53枚もあった。銀貨と銅貨もジャラジャラある。
金貨だけで530万円相当だから結構あるな。 ・・・いや13人分の生活費と考えるとそうでもないか。半年分くらいか? 宿代がかからないからもっと持つかな?
それとゾンビは一応戦力として持っておくことにした。一晩たって冷静になると、使い捨て出来るゾンビは、逃げる時にばらまいたり遠距離攻撃を防ぐ壁にしたり、いざという時に意外と役立つと思ったのだ。まあ今後使い捨てできる強い魔物アンデッドをたくさん手に入れたらいらなくなるが、それまでは手札のひとつとして確保だ。
それに人間の上級アンデッドは、死んだかどうか分からない状況では情報漏洩が怖くて解放できないからな。
解放された人間の上級アンデッドがどういう行動をとるのか、まったく分からない。本人たちも解放されてみないと分からないようだ。正直怖すぎる。
最大MPが無駄になるが万一行方不明になっても解放せず持っておこうと思う。とても使い捨てにはできない。
しかしそうなるとせっかく知能があるのに、人間の上級アンデッドは別行動させにくいんだよな。捕まってステータスを見られたら俺のことがバレるし行方不明になったら解放できないし。
今のところ別行動する予定はないが、別行動させる時はそういうリスクも考えて判断する必要があるな。
次の日は雨は止んで晴れていたので朝起きてすぐに出発した。急ぐ必要もなかったがアジトにいてもやることがなく暇だったのだ。念のためアジトの入口はカムフラージュして隠しておいた。
森から出る途中で数匹のゴブリンと遭遇した。
さっさと収納しても良かったが試しにうちの最高戦力である斧男に戦わせてみることにした。
身長が2メートルはある筋骨隆々の斧男の戦闘力は凄まじく、身体能力もかなり高いようで、嵐のように斧を振り回し一瞬でゴブリンを虐殺した。
めちゃくちゃ強い。出会った時に普通に戦ってたら絶対負けていたな。
やはり筋肉は正義ということだろう。いや極悪人だが。
しかしこれは冒険者としても結構強い方なのではないだろうか。ランクを上げて冒険者として本格的に活動することも検討した方が良いかもしれない。
ゴブリンの死体は配下のMP回復用に収納した。右耳をギルドに出せば小銭にもなる。
斧男にどうやって斧士の職についたのか聞いてみると、木こりの息子で小さいときから斧を使っていて、斧を振り回して戦っているうちに自然に覚えたらしい。
うーむ。自主トレで武器職を覚えられるのは一部の天才だけではなかったのだろうか? 斧男は天才だったのか? でも天才が盗賊になるかな?
才能と性格の善悪は関係ないか。悪人かつ天才なのかもしれん。少なくとも体格は才能の一種だろうしな。
ちなみに盗賊は1年くらい盗賊行為をしていたら覚えたそうだ。いらない情報だ。
森を出て、今日は晴れているので、フード付きマントを付けている青髪と手下2人以外は収納して歩く。
馬車を使おうかとも思ったが、死んだ商人の馬車を使っているのがバレて疑われるのも嫌なので歩くことにした。馬の日光よけも無いしな。
しかし俺は犯罪をしていないのに、どんどん犯罪者みたいにコソコソしなければいけなくなるな。
・・・いや町なかで犯罪者を殺して報告しないのも犯罪かもしれないな。そもそもアンデッドを作ることが犯罪の可能性もある。そう考えると俺はもはや立派な犯罪者なのかもしれない。
死霊術士の能力を考えると、死霊術士になった時点で犯罪者になるのは確定したようなものなのかもな。
せめて自分の身を守るため以外には犯罪はしないようにしよう。気を付けないと闇落ちして悪の死霊術士になってしまいそうだ。 ・・・右目の邪気眼が疼くぜ。
その後は何事もなく順調に進み、二つ目の宿場町も通過して、次の日には領都が見えるところまできた。
領都は大きな川の西側に広がっていて、周囲には畑や牧場らしき場所も見える。
この辺は町の外でも魔物が少ないのかもしれない。
俺たちは、ほぼ犯罪者集団となってしまっているため、すぐには町に入らずいったん適当な場所で野営をしつつ領都の偵察をすることにした。
ちょうど汚い元盗賊の配下たちを洗いたいと思っていたところだったので、川の上流の領都から見えない位置に向かった。
適当な場所で野営の準備を行い、配下に種族や職業がバレる可能性について知っていることを聞いてみた。
分かったことは
・鑑定士は鑑定で相手のステータスが見れるが、犯罪者以外にはまず使われることはない。
・鑑定は相手に触れる必要があり光るし多少時間もかかるので、こっそりかけることはできない。
・アンデッドを感知できる能力は聞いたことは無い。
・アンデッドの判別方法は、一般的には初級光魔法のライトで行う。ライトでも日光と同じように焼けるので疑わしい相手に使う。
・神殿では祈る際によくライトが使われるが、それ以外では町で使われることはほぼ無いので神殿に近づかなければ問題無い。
ということだ。
簡単にバレることはなさそうなので、青髪の手下2人に、町に入り冒険者ギルドに行って俺や青髪や斧男が犯罪者として指名手配されていないか探ってもらうことにした。
さっそく別行動だが、多少のリスクはしょうがない。
無感情な言動が不自然なので、もうちょっと人間らしくふるまえないか聞いてみたところ、生前と同じ性格なら自然にふるまえるらしい。
試しにやってもらったが、めちゃくちゃ自然で、からまれたことを思い出し嫌な気分になった。そっちが本性なんじゃないか疑わしいくらいだ。
試しに良い人そうな振る舞いをさせてみたが、へたくそな演技をしている感じで不自然だった。生前にできたことはできるということらしい。演技のうまい人なら他の性格もできるのかもしれない。
手下を偵察に向かわせたあと、とりあえず汚い配下が多いので、交代で見張りをしながら、盗賊に見えないよう服や体を洗って髪や髭も整えるよう指示した。
夜だが全員暗視スキルを持っているので問題ないだろう。
細かいことは配下にまかせて俺は食事をとり眠りについた。
翌朝目が覚めると、配下の髪や髭がサッパリしていて、こぎれいになっていた。
服がボロいのでまだ微妙だが、まともな服を着せれば盗賊には見えないだろう。
グレイもきれいになっている気がする。グレイも洗ったようだ。かっこいいぜ。
偵察に行った手下も戻ってきていた。特に誰も指名手配されていないようだ。盗賊の情報もなかったようだ。この世界の犯罪捜査力はザルらしい。
昨晩寝るときに色々考えたが、配下と冒険者パーティーを組んで生活しようと思う。
俺はあまり目立たないようにポーター役になり、斧男と青髪ともう一人くらい誰か見つくろって4人パーティーを組もうと思う。
配下達にもう一人は誰がいいか聞き、盗賊の職業をもっている配下のうち一番優秀だと言われた地味な顔の男にした。あだ名はジミーだな。
とりあえずそれ以外にも戦闘員以外の役職を決めた。
まずは荷物持ち、町なかでは馬車が出せないので、無職の中から適当なやつを指名し、町で使いそうな物は荷物持ちに持たせることにした。
次に財布係、青髪の件と同じ轍を踏まないよう、金貨を持ち歩くのは止めて財布係に預けておくことにした。俺は学習する男なのだ。荷物持ちに預けても良かったが、頻繁に呼び出す荷物持ちに大金を持たせるのはちょっと不安なので分けることにした。たまにお金を預けたり降ろしたりする銀行みたいな役割だ。そういう意味では財布じゃなくてATMだな。役職名は「ATM君」に変更しよう。貢がされてそうな酷い呼び名だ。まあいい。金貨と持ちきれない銀貨銅貨を預金だ。
あとは、料理係と大工だな。それとサポートのグレイとつのっちだ。
料理係は解体もできるらしいので、解体係も兼任だ。無職なのにやけに有能だな。
こいつら役職持ちは戦闘には参加させないことにする。
よし、あとはパーティーメンバーの性格やしゃべり方を人間らしくした方がいいな。俺は下っ端のポーターになるからご主人様とかも止めさせよう。
「斧男!青髪!ジミー!これからは、俺のことはユージと呼ぶように。あとため口でいいぞ。それと生前と同じ性格でいいから人間らしく振る舞え。」
「わかった。ユージだな。」 斧男が凶悪な顔で笑った。
「おう!わかった。」 青髪はちょっと偉そうな感じか。
「あいよ!」 ジミーは軽薄な感じだな。
こいつら大丈夫かな。勝手に人殺しとかしないだろうか?
一応言っておくか。
「人間を攻撃するなよ。トラブルを起こさないようにしろよ。」 3人がうなずく。
これで大丈夫かな。 ・・・あまり舐められるのもマズいかな? 舐められると青髪みたいなやつに襲われるしな。あとせっかく冒険者になったんだし、ちょっと遊び心も出しておくか。
「ただし喧嘩を売られたら殴っていいぞ。でも殺すなよ。」
凶悪な顔で斧男と青髪が笑った。ジミーは特に気にしていないようだ。
暴れるやつが二人もいると面倒だな。そうだ!
「青髪は真面目だったころの性格で振る舞え。」
「わかった。了解だ!」 急に真面目そうになったな。うさんくさい。
まあ、これでいいだろう。
斧男とジミーに荷物の中から良さげな服や装備を着せて、他は全て収納して町に向かった。
入口ではやはり特に検問や入場料を取ったりはとかはなく、普通に入れた。
ガストークより立派な門をくぐると、例のごとく異世界の街並みが広がっている。さすがに領都だけあってメインストリートは馬車が行き交い人も多く賑わっている。
異世界の新たな町の光景に期待と不安をにじませながら、1人の死霊術士が3人のアンデッドを連れて町の中に足を踏み入れた。
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