10 / 28
第一章
第10話 急転直下
しおりを挟むよく晴れたある日、暇をもてあましていた俺はいつものように町の探索に出かけた。
晴れた日はアンデッドがダメージを受けるので休みにしているのだ。
最初の頃は人通りの多い道しか歩かないようにしていたが、思いのほか真面目な冒険者が多いことや、槍を持っていればまずからまれないことも分かってきたため、ちょっとした裏道にも行くようになった。
先日裏道で見つけた食堂が美味しかったこともあり、最近は隠れた名店、良店を探すのが晴れた日の趣味になっていた。
良い店が見つからないことも多いが、暇つぶしになるので気にしない。雨の日は資料室で読書だ。晴耕雨読というやつだ。違うか。
その日も槍だけ持って、ラフな格好で裏路地探索を楽しんでいた。
そう、完全に油断していたのだ。
ここは日本とは比べ物にならないくらい治安が悪いことも、俺が冒険者ギルドに行く時間帯は真面目な冒険者が多い時間帯なだけだということも、悪意を持って人を観察する人間がいることも気づいていなかった。
うまい店がないかなんてのんきなことを考えて歩いていた時だった。
ドガッ!「うわっ!」突然背中に衝撃をうけ、前に転んでしまった!
HPバリアがあるため、痛みはほとんど無かったが、何が起こったか分からず、地面に手をつきながら後ろを見た。
後ろには、ガラの悪そうな冒険者らしき男が3人いて、ニヤニヤした嫌らしい顔でこちらを見ていた。そして、俺の槍をその手に持っていた。
「へっへっへっ!」 男たちはニヤニヤしながらこちらを取り囲む。
「何すんだ!返せ!」 槍をとられたのを理解してとっさに叫んだ。
「知ってるぜ。お前結構持ってるんだって? 出すもん出せば返してやってもいいぜ。」 ニヤニヤしながらリーダーっぽい青髪の男がわけの分からないことを言ってくる。
「何のことだ。ぐっ!」 言いながら立ち上がろうとすると横の男に蹴られて立ち上がれない。
状況を理解するにつれ、ドクンドクンと心臓が大きな音を鳴らし冷汗がふき出してくる。
ヤバい・・槍を盗られた。しかも身体能力は明らかにあちらが上だ。どうにか切り抜けなければ・・・適当に銀貨を何枚か払えば見逃してもらえるか?
混乱する頭で必死に考える。
「お前が金貨を持ち歩いているのを見たヤツがいるんだよ。おとなしく有り金全部出せば痛い思いしなくて済むぜぇ。」 青髪の男が、剣を抜いてあざ笑うように言った。
「!」 見られてたのか!どこでだ!いやそんなことはどうでも良い。どうする。
「オラッ!なんか言えよ!」 横からまたもや蹴りが飛んでくる。
「ぐっ」 やばいHPが無くなったら終わりだ!
死体収納を使うか? こんな町なかで人を殺すのか? 犯罪者になるのはゴメンだぞ! 有り金出して無一文になるか? 本当に金だけで見逃してもらえるのか? 口封じに殺されないか?
緊張で体が震える。
「こいつ震えてやがるぜ!ワハハ!」 馬鹿にしたように笑ってくる男たち。
くそ! お前らが怖いんじゃない! お前らを殺して犯罪者になるのが怖いんだよ!
よし!決めた!グレイをけし掛けて逃げよう!
「グレイ!行け!」「ガウッ!」
「うわ!」 突然現れたグレイに3人が驚いている隙に、逃げ道を塞いでいる手下っぽい男の腕にグレイが噛みつく。
よし!今だ!
起き上がって手下の横をすり抜け走りだす。
「ギャン!」と鳴き声が聞こえた!
つい振り返るとグレイの胴体が真っ二つに斬られて転がったところだった!
「グレイ!」 思わず叫ぶ!
「オラッ!」「ぐはっ!」 俺は顔に衝撃を受けて転がる。
青髪がグレイを斬り、噛まれていないもう一人の手下が俺を殴ったのだ!
ヤバい!HPが!くそ!つい足を止めちまった!逃げられない!
「こいつ何しやがった!ぶっ殺してやる!」 怒りをたたえた顔で青髪が剣を持ってかけて来る!
このままじゃ殺される!やるしかない!クソが!よくもグレイを!
3人の男が武器を抜いて駆け寄ってくる!
死体収納!!死体収納!!死体収納!!
・・・男たちは消え、あたりは静寂に包まれた。
「はぁはぁはぁ」 荒い息を吐きながらしばし茫然とする。
「はっ!!」 正気に返ると急いで立ち上がった!
ヤバい!ヤバい!
目撃者がいないか辺りを見回し、槍を拾いグレイの死体を収納する。
何もなくなったことを確認して、焦りながら足早で宿に向かって歩き出した。
「どうする!どうする!」 歩きながら独り言をつぶやく。
周囲から奇異の目で見られるがそれどころではない。
宿につき部屋に入る。
ベッドに腰を掛け頭を抱える。
くそ!なんでこんなことに!なんだあいつら!誰だよ!人の財布の中を盗み見てんじゃねえよ!
・・・いや落ち着け!こういう時こそ落ち着いて考えるのが大事だ!
こういう時はつのっちだ。撫でて心を落ち着けよう。
つのっちを出してしばらく撫でていると落ち着いてきた。
「ぶぅ」つのっちの鳴き声に癒される。つのっちは有能だな。
とりあえず状況を整理しよう。
まず俺の状況だ。
俺はカツアゲしてきた男3人を殺した。
・・・いや、カツアゲなんて生ぬるいものじゃない。相手は剣を抜いていた。恐喝強盗傷害殺人未遂だ。金ではなく自分の命を守るために殺したのだ。正確には俺の命、金、秘密を守るためだが、あの時金と秘密はやむを得ないと思っていた・・・・はずだ。
つまり、俺は恐喝強盗傷害殺人未遂の犯罪者から自分の命を守るために犯罪者3人を殺した。
これなら正当防衛で無罪なんじゃないか?
こちらの法律は詳しくないが、日本より犯罪者を殺すことに寛容な気がする。盗賊討伐依頼とかあったしな。
よしよし、ではこれから俺はどうするべきか考えよう。
まずは衛兵に報告した場合はどうなるだろうか?
あの3人は犯罪者だが普通に町を歩いていた。ということは、初犯だったかうまく犯罪を隠していたということだ。つまり衛兵からは犯罪者だと認識されていない。
つまり衛兵が俺の言うことを信じてくれなかった場合は、俺は一般人を殺した犯罪者になる。
・・・信じてくれるだろうか? あの感じだと初犯の可能性は低いから疑われていたりすれば信じてもらえるかもしれないが・・・特に疑われていなかったら厳しいか? いや目撃者がいれば信じてもらえるか?
あの場所は人気はなかったが、周囲には家が建っていたし結構騒いでいたから家から様子を覗いていた人がいる可能性は高い気がする。そうすれば信じてもらえる可能性はそれなりに高いように思う。ただ、絶対ではない。微妙な確率だ。
そして最終的に信じてもらえたとしても、殺人犯かもしれないとして取り調べは受けることになるだろう。そうなると職業やスキルを隠すのは難しくなる。隠したら信じてもらえる可能性はだいぶ下がるだろう。犯罪者にされる可能性は高くなる。
隠さず職業やスキルもすべて話した場合はどうだろうか?
客観的に見て俺はよそ者だ。いなくなっても文句を言う人はいない。人を3人殺したよそ者の死霊術士だ。他人から見たら明らかにヤバいやつだ。
この世界の衛兵の考えは分からないが、責任者がまともな人だったとしても念のため町に被者が出る前に犯罪者として処刑しておこうとか考えても不思議ではない。愛する家族や友人がゾンビになってからでは取り返しがつかないからだ。 ・・いや俺はやらんけど。
総合するとどのパターンでも衛兵に報告すると犯罪者にされる確率が結構高いということだ。何も問題なく無罪放免の可能性もなくはないが低い。
じゃあ、誰にも言わずにこのまま今まで通り生活した場合はどうだろうか?
目撃者はいる可能性がそこそこ高いが、目撃者が通報する可能性は低い気はする。
目撃者からしたら突然オオカミが出てきたり人が消えたりして意味不明だろうからな。人が殺されたとは思っていないだろう。いや、殺された可能性もあるくらいは思っているか。
通報する可能性は低いが聞かれれば答えるだろうし、雑談などで人に話す気はする。噂になる可能性があるな。通報する可能性もゼロじゃないし。
それと、犯罪者3人の家族が捜索依頼みたいなのを出せば俺が関係していることはおそらく発覚するだろう。万一家族が町の有力者だったりしたら、しっかり調べるだろう。
そうなると取り調べを受けることになり、衛兵に報告した場合と同じパターンだな。自己申告じゃない分さらに悪いかもしれん。
まあ何事もなくすごせる可能性も普通にあるが、微妙だ。
それに万一衛兵に逮捕されてから脱出となると大勢の罪のない人を殺さなければ逃げられない気がする。そんなことはできればしたくない。
では、すぐにこの町を出た場合はどうか。
通報なり捜索なりがされたとして、俺がいなかったらどう思うか。
犯罪者と疑われるだろう。だが、犯罪者だと確定はしないのではないだろうか。
目撃者がいても人が消えたように見えただけだしな。それでも犯罪者として手配される可能性もなくはないが、低めな気がする。少なくとも町に残るよりは低いだろう。
つまり
衛兵に報告をしたら、犯罪者にされる可能性大
このまま暮らしたら、犯罪者にされる可能性中
すぐこの町を出たら、犯罪者にされる可能性小
ということだ。
可能性ゼロの選択肢は無い・・・
・・・よし!すぐ町を出よう!出るしかない!そうと決まれば行動だ!逃げろ!
つのっちを収納し急いで革鎧を着こみ荷物をまとめて宿をチェックアウトする。
適当に近くの村の知人に会いに行くと宿屋のおっさんに伝える。この人に言っておけばヤーバンさんにも伝わるだろう。
・・・いや、もうそれどころじゃないし、二度と会わないかもしれないけども。一応な。 ・・・別にヤーバンさんのことなんか好きじゃないんだからね!
宿を出たら大きいバックパックを買い、旅人用マント、野営道具セット、食料、飲用水を買って詰めこむ。
レベルが上がったせいか、でかい荷物も普通に持てる。
金をどこかに預けたりはしていないので、これで準備OKだ。
商業ギルドに金を預けることもできたのだが、いつ職業がバレて逃げることになるか分からないので預けなかったのだ。こんなこともあろうかと、というやつだ。
・・・いや、いつも金貨を持ち歩いているから、こんなことになったんだがな。用心が裏目に出てしまったようだ。
では点検よし!出発だ!
でかい荷物をかついで町の門を通ったら、門番のおっさんにどうしたのか聞かれた。
ドキドキしながら近くの村の知人に会いに行くことを伝えたら問題なかった。
もう通報されたのかと思って冷汗かいたぜ。
こうして逃げるように町を出ることになった俺は、東にあるという貴族が住む大きな町に向かって歩き出した。
空を見上げると、雲一つない抜けるような青空が広がっていた。
11
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる