死霊術士が暴れたり建国したりするお話 第1巻

白斎

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第一章

第8話 Eランク依頼とスキル検証

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 異世界3日目の朝になった。
 読み飛ばしたイマジナリーフレンドに資料室で調べた内容を簡単に説明しよう。

・ユニークスキルはユニークスキルでないと防げない(多分)。
・HPがゼロになると気絶し、一時的にステータスが無効になる。死ななければ約1日で復活する。
・体はHPバリアで守られているが強力な攻撃はHPバリアを貫通する。
・貫通攻撃で 受けた怪我はHPが消費されて治る。ただし欠損は治らない。
・胸や頭に貫通攻撃を受けるとHPが残っていても死ぬ。
・同じ魔物をたくさん倒しても10体までしか経験値が入らない。
・1体目が経験値が一番多く2体目以降はだんだん減るので、レベルを上げたいなら初見ソロ討伐。
・実際のパワーは、筋肉×身体能力のステータスなので、筋肉はステータスと同じくらい重要。
・他人の職業やスキルを探るのはマナー違反。
・商人やポーターなどの職業は収納系スキルを持っている。

 これぐらいだな。
 あとは周辺魔物情報や色々な職業情報もあったが、死霊術士の情報は無かった。
 槍士などの職業の習得方法もあったが、死霊術士が上がりにくくなるので他の職業を覚える気はない。よほど有用な職業の習得方法が分かったらまた考えようと思うが、今回分かった基本職っぽいものはパスだ。


 んで、考えた結果だが、収納スキルとしての死体収納は無理に隠さず普通に使うことにした。隠してたら面倒くさすぎるし、お金を稼ぐのも大変になる。
 ただスキル名やスキルの詳細は教えない。聞かれてもマナー違反だと言ってごまかす予定だ。
 収納スキルは他にもあるので勘違いしてくれるだろうと期待している。もちろん、即死効果は隠す予定だ。
 まあピンチになったら即死も配下も迷わず使うけどな。命優先だし。

 という訳で今日は試しに依頼をうけつつ、スキルの検証をしようと思う。

 さっそく朝食をとって冒険者ギルドに向かった。


 そこそこ賑わっている朝の冒険者ギルドに入り、右側の掲示板エリアを見てみる。
 Eランクのエリアは狭い。薬草採取とツノウサギの納品とゴブリン討伐の3つしかない。どれも数量制限なしの常設依頼のようだ。
 オオカミが無いのか探すと横のDランクにあった。同じ場所に出るのにどうやって回避するのだろうか?

 とりあえず何かを持っていく必要もなさそうなので、相談するため暫定メインヒロインのヤーバンさんの受付に向かうことにした。並んでいる人はいなかった。・・・たまたま空いていただけだろう・・・


「ヤーバンさん!おはようございます!依頼の相談いいですか?」 今日も元気に挨拶だ。
「おう!ユージか!おはよう!いいぞ!何が聞きたいんだ?」 ごついおっさんが笑顔で答えてくれる。この様子なら気に入られていると考えて良いだろう。
「Eランクの依頼を受けようと思うのですが、どれも常設依頼みたいですけど、事前に手続きは必要ですか?」 とりあえず知りたいことをひとつひとつ聞いていこう。
「常設依頼は手続きは必要ないぞ!依頼の品を納品すれば良いだけだ!」
「そうなんですね!では、どんな薬草が必要なのか見本はありませんか?」
「薬草の絵を見せてやるぞ。必要な薬草は2種類だ。森に生えてるやつがこれで、草原に生えてるやつがこれだ。必要なら1ルクスで実物の葉を数枚売ってやることもできるぞ。」
「では1ルクス払いますので、お願いします。」
「おう!」
 見本の絵と実物の葉を見ながら考える。どこにでも生えていそうな草だ。納品するのは葉だけで良いらしい。森のが5枚で1ルクス、草原が10枚で1ルクスだ。
「この絵を借りることはできますか?」
「それはできない。必要なら自分で紙とペンを用意して書き写してくれ。」
 うむ。無理だ。こんな目立たない草をうろ覚えで探して見つかるはずがない。俺には絵心もないし絵を写しても微妙だろう。
 プロに実際に現場で指導してもらったりすればできるようになるのかもしれないが、こんな絵と普通の葉だけで探し当てられるわけがない。
 根気よく何日もかけてがんばればできるようになる可能性もあるが、確証もないし面倒くさすぎる。あきらめよう。しかも安いしな。
「ツノウサギは死体の全身を全部持ってくればいいんですか?」 気をとりなおして次の質問に移る。
「そうだ!死体を素材買取場に持って行けばいい。死体の状態によって価格が変わるから注意してくれ。あまりボロボロだと安いぞ。」 こちらはシンプルで分かりやすいな。問題は見つかるかだが、昨日見た資料によると草原を歩いていると襲ってくるらしいから問題ないだろう。
「ゴブリンの右耳はここに持ってくればいいんですか?」 討伐証明部位は確認済みだ。
「討伐証明部位も素材買取場へ持っていってくれ。ここに持ってくると汚れるからな。素材買取場で受取証を渡されるからそれをここに持ってきてくれ。」
 なるほど。確かに書類仕事メインの受付に血まみれのものを出されたら汚れて困るよな。
「新人はよく何も考えずにここに持ってくるから困るんだよ。お前みたいに事前に聞いてくれると助かるぜ。」
「そうなんですね。僕も同じ間違いをするところでしたよ!」 はっはっはっ!と二人で笑いあう。
 革鎧を着た冒険者が微妙な目でこちらを見てくる。やらかしたことがあるんだろうか。
 そういえば不良を威嚇することばかり考えていたからすっかり忘れていたが、防具も買った方が良い気がしてきたぞ。
 町の外では配下と死体収納で戦うので本格的な近接戦闘をする気はないが、不意打ちや遠距離攻撃を受ける可能性も考えると防具は必要だ。
 今着ている革ジャンと革ズボンもなかなか頑丈そうだが、念のため革鎧くらいは欲しいところだ。

「何度もすみませんが、革鎧を扱ってる防具屋も紹介してもらえませんか?」 ギルド前にもそれっぽい店はあったが、サービス目当てに紹介してもらおう。
「おういいぜ!ちょっとまってろ!・・・・はいよ!」 上機嫌に地図を書いて渡してくるヤーバンさん。紹介料でももらえるのだろうか?
「ありがとうございました!では行ってきます!」
「おう!気を付けろよ!」

 無事ヤーバンさんの好感度も上げ終わったので、さっさとギルドを出て紹介された防具屋へ向かう。
 一応ギルド前の店もチラッと見てみたが、見ても何も分からなかった。現代日本人に革鎧の良し悪しなんて分かるわけがない。もちろん美人店員もいなかった以下略QEDだろう。

 紹介された防具屋でまたもやおっさんと交流しつつ安い革鎧と小手と脛あてとヘルメットを買い、金貨1枚を支払った。
 サービス品は革のお手入れ用品だった。靴や服にも使えるね。やったー。

 紹介された所はどこもヤーバンさんくらいのおっさんの店だったが、飲み友達か何かだろうか? もしかしたら全員元冒険者でパーティーメンバーかもしれない。
 引退した伝説のパーティーメンバーで魔王戦の前に駆け付ける胸熱展開とかがあるといいんだけどな・・・・無理か。


 意気揚々と門番のおっさんに挨拶をしつつ町を出て、とりあえず人目がなくなるまで草原を進む。

 まだ町は近いが、念のため槍を手に持って、周囲を警戒しながら進む。
 慣れない革鎧とヘルメットが少し気になるが問題があるほどではない。

 そういえばアニメやラノベでは、ヘルメットをかぶっていないことが多いが、戦いに行くのにヘルメット無しは自殺行為ではないだろうか?・・かっこ悪いからだろうけど。
 この世界の冒険者は前衛はほぼ全員かぶっているな。
 後衛はかぶっていない人も多いが大丈夫なのだろうか? ゴブリンの弓が頭にあたれば普通に死ねると思うが、HPバリアがあるから大丈夫なのかな? でもHPバリアを貫通したら死ぬって書いてたよな。
 この世界のゴブリンは弓を使わないのかもな。よく考えたら弓を作れるってかなり高い技術と知能が必要だもんな。人間でも素人には実用レベルの物は作れないしな。ゴブリンには無理だろ。知らんけど。

 町から離れたのでオオカミを出す。今日は曇っているので、日光も問題ない。
 とりあえず色々検証してみよう。

 まずは、すぐできる死体収納の射程を検証してみたところ、死体収納の射程は10メートルくらいだった。
 意外と長いが、遠距離攻撃してくる相手には届かないことが多そうだ。
 近接型の相手でも、この世界の身体能力の高い相手には一瞬で詰められてしまいそうな距離である。油断できないので、やはり配下の護衛は必須だ。
 他には見えない位置には使えないこと、空中に出すことも可能だったこと、槍をかまえながら視線だけむけて念じれば出し入れ可能だったことが確認できた。
 手を向けなくても槍をかまえながら可能なのは良いな。慣れれば槍で戦いながら可能かもしれない。
 それと、空中に出せるのは使い方次第で有効かもしれない。でかい死体で押しつぶしたり、配下に上から奇襲させたりできそうだ。
 ただ射程が短いから奇襲しなければ勝てないレベルの相手だった場合は、かなり厳しい距離かもしれないが。

 次にオオカミのステータスが見られないか色々やったが、どうやら見られないようだ。
 不便だな。

 そうこうしていると、草むらがガサガサ揺れているのが見えた。
 慎重に近づきながら様子を伺うと小型犬くらいの大きさの角の生えたウサギが見えた。ツノウサギだろう。
 死体収納を試すチャンスなので、オオカミには傍で待機を命じ、近づいていく。
 もう少しで射程内というところで、相手に気づかれてしまった!
 情報どおりなら襲ってくるはずと身構えると、ツノウサギは一目散に逃げてしまった。

「・・・・どういうことだ?」 首をかしげてつぶやく。

 ふと横を見るとオオカミがこちらを見上げている。

 そういえば、こいつはウサギを食べていたな。オオカミを見て逃げたのか・・・面倒くせえ・・・

 すこし不安だが、オオカミは収納し、ピンチになったら出すことにして、ツノウサギを探すことにした。
 1時間ほど探し回りようやく見つけたので、慎重に後ろから接近したが、やはり耳が良いのか射程に入る前に気づかれてしまった。まあ音をたてずに草原を歩くとか俺には無理だ。ガサガサ音がなる。
 今度は予想通りこちらに向かってきたので、槍を構えながら死体収納を試したところ、問題なく収納された。

「やはり即死効果があるのは間違いないな。」 俺はニヤリと笑ってつぶやいた。

 つまり死体収納は、「死体を収納する」スキルではなく、「相手を死体にして収納する」スキルということだ。

 これは実質即死魔法が使えるようなものだ。
 しかもMP消費も詠唱も無いので、無限に連射できる。
 さらに資料室の情報どおりならユニークスキル以外では防げない。
 ユニークスキルを持っている者自体非常に少ないうえに、収納スキルを防げるユニークスキルを持っている者となればさらに少ないだろう。
 つまりこの世界のほとんどの相手を即死させることができる!つまりは最強だ!無敵だ!魔王なぞ相手ではない!この世界を蹂躙してやろう!
 フハハハハハハハ!

 ・・・・・いや落ち着こう。

 よく考えたら、強めの魔法使いやら弓使いやらに遠距離攻撃されたら普通に負けそうだ。さっき検証したじゃないか。あとアサシン系や忍者系にも後ろからバッサリやられそうだ。
 となると勝てる相手は、正々堂々正面から挑んでくる近接系だけだな。
 いや、近接系でも目にも止まらない速さで動くようなスピードタイプは無理かもしれん。なんなら一般人にも毒殺されたり寝ているところを刺されたりしたら殺されるだろう。殺気を感じて起きるとか無理だし。

 ・・・・うむ、調子に乗ったら死ぬわコレ。

 即死能力は切り札にして、基本はネクロマンサーの王道?のとおり強い配下を作ることを目指そう。
 この辺りで一番強い魔物は森の奥にいるビッグベアらしいから当面はビッグベアを配下にすることを目標にしよう。
 幸い遠距離攻撃はしてこないらしいので収納できそうだしな。それでも壁役くらいはいないと不安だから、もうちょっと配下をそろえてからだな。

 あとレベルも上げておいた方が良いな。
 即死能力はレベル上げには向いているから、レベル上げでは積極的に使っていこう。
 とはいえ資料室の本にあったように無理してソロ討伐しようとして死んではたまらない。ソロ討伐チャレンジは事前情報で動きの速くない近接系と分かっている相手だけにしよう。
 遠距離系、隠密系、スピード系や、事前情報の無い相手は無理せず配下と協力して安全優先でいくことにしよう。

 よし!気を取り直して、さっき収納したウサギを使って検証を再開だ!
 まずは配下を増やすと最大MPがどのくらい減るか確かめよう!
 現在のステータスを確認だ!

ーーーーー
名前 ユージ
種族 人間Lv3
年齢 18
職業 死霊術士Lv3
HP 36/52
MP 42/77
身体能力 12
物理攻撃力 12
物理防御力 12
魔法攻撃力 17
魔法防御力 17
ユニークスキル
 死体収納
スキル
 配下作成
配下
 上級アンデッド 1
ーーーーー

 レベルが上がっている!・・・なんでだ?
 確か格下の魔物を倒した場合は、経験値は激減すると書いていたが・・・
 も、もしかしてウサギは俺にとって格上だったのか・・?
 い、いやそんなはずはない! きっとオオカミを倒した分の経験値であとちょっとでレベルが上がるところまでいっていたに違いない! あと1で上がるところだったんだ! 絶対そうだ!

 ・・・・ふう。・・・嫌なことは忘れよう。

 とりあえず今の最大MPは77だ。だいぶ上がったな。
 よし、ツノウサギを取り出して配下にしてみよう。

「配下作成」

 ツノウサギの死体の下に暗く光る魔法陣が現れ、黒い光が死体を包む。

 魔法陣が小さい以外はオオカミと一緒だ。
 
 しばらくすると魔法陣と光が消え、ツノウサギがゆっくりと起き上がった。
 つぶらな瞳でこちらをじっと見ている。色は白と茶色のまだら模様だ。かわいい。



 癒されるのは後にしてステータスを再確認する。

ーーーーー
・・・
MP 32/74
・・・
配下
 上級アンデッド 2
ーーーーー

 最大MPは3下がっているな。それとツノウサギも上級アンデッドのようだ。上級かどうかに強さは関係ないのかもしれない。
 しかし3なら、あと10体くらい作っても問題ないな。まあ弱いやつを増やしても意味ないのでウサギはいらないが。

 そういえば配下をクビにしたい場合はどうすればいいのだろうか?・・・・最大MPは戻ってくるんだよな?
 とりあえず念じてみたり、ステータスを凝視してみたり、色々試すがクビにする方法は見つからない。
 ・・・・もしかしてぶち殺すのだろうか? ・・・検証してみるか?

 つぶらな瞳でこちらを見ているツノウサギと目があう。かわいい。
 試しに撫でてみる。短い毛のなめらかなさわり心地に癒される。

 うむ、ぶち殺すのは無理だ。こいつは癒し枠として飼うことにしよう。

 とりあえずオオカミも出して並べる。
 オオカミはかっこいいし、ウサギはかわいい。なかなか良い配下たちだ。

 こいつらは気に入ったので、名前をつけて今後も使っていくことにした。
 オオカミはかっこいいので、かっこいい名前にすることにして「グレイ」と名付けた。
 ツノウサギはかわいいので、「つのっち」と名付けた。

 俺のネーミングセンスは最高だ!異論は認めない!

 しかしクビにする方法が分からないと、気軽に弱い魔物を配下するわけにもいかなくなったな。
 オオカミなら増やしてもいいかもしれないが、ウサギは止めておいた方がいいな。
 他にこのあたりにはゴブリン、オーク、ビッグボア、ビッグベアがいるらしい。
 試しに1匹ずつ配下にしてみようと思う。ヘビや猿の魔物もいるらしいが、めったに見かけないそうだ。

 今できる検証を終えたので、狩を再開しようと思ったが、時間はそろそろ昼時といったところだ。
 腹が減ったが、弁当は持ってきていない。空腹で無理するのも良くないので、いったん町に帰ることにした。

 未だに一銭も稼げていないが、なんとかなるだろうとダメ人間のようなことを考えながら来た道を戻った。


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