4 / 28
第一章
第4話 町の入口と冒険者ギルド
しおりを挟む道に出るとすぐに町の入口が見つかったので離れた位置からこっそり様子を伺う。
門番らしき兵は立っているが、どうやら特に検問や入場料の徴収などは無いようで、それほど多くはないが人が出入りしている様子が見える。
ほっと胸をなでおろして、入ろうかと思ったが、兵に呼び止められている人がいたので、念のため事情を聴かれた場合のカバーストーリーを考えることにした。
とはいえ大したことも思いつかないので、畑仕事が嫌で田舎の村から飛び出してきたことにする。三男で畑をつげないとか細かく設定を考えようかと思ったが、この世界の常識を知らないのに下手に作り話をして有り得ないとか言われたら余計に怪しまれると思ったので、若者らしく家を飛び出したことにして、勢いでいくことにした。
なにくわぬ顔で手ぶらで門を通過しようとした時だった。
「そこの君。」 門番に話しかけられた。
「はい。なんでしょう。」 内心焦りながら答える。
「見ない顔だが、どこから来たんだ?」
「む、村が嫌になったので町で仕事を探しにきました!」 ちょっとキョドってしまった。
「ああ・・まあ、がんばれよ!冒険者ギルドかい?」 兵士がなんとも言えない生暖かい眼差しでこちらを見てくる。
「は、はい!そうです!」 向こうから言い出してくれて助かった。やっぱりあるのか冒険者ギルド!
「冒険者ギルドはこの道をまっすぐしばらく行けば右側にあるよ。」
「はい!ありがとうございます!」 やさしく教えてくれたので、お礼を言ってそそくさと町に入った。
無事に町に入れて良かった。
門番の反応をみるに、村から出てくる若者は結構いるのだろう。
辺りを見回すと町に入ってまっすぐの道がこの町の大通りらしく、そこには情緒あふれる異世界の町の光景が広がっていた。
定番の中世ヨーロッパ風異世界のようで、木と石でできた建物が並び、それなりに人通りも多く、色々な店が並ぶ商店街っぽい雰囲気で活気がある。
町の人達は、西洋人と東洋人のハーフくらいの顔立ちで、皆普通の人間に見える。
エルフとか獣人とかファンタジー系人種らしき人は見当たらない。ちょっと期待していたのに残念だな。
とりあえず冒険者ギルドに行くしかないか。武器も欲しいし、宿も知りたいが、冒険者ギルドで聞くことにしよう。からまれないと良いな・・・
死霊術士で低レベルの俺は肉体的には弱いだろうし、死体収納は効かないかもしれないし、効いてしまったら殺してしまうし、オオカミを出したら大騒ぎになりそうだし・・・
からまれたら殴られるか逃げるしかないのだろうか?
冒険者ギルドでテンションが上がる歳でもないし、気が重い。
キョロキョロとあたりを見回しながら大通りを歩く。少し歩くと活気のある町の雰囲気に押されて沈んでいた気分も持ちなおしてきたので、気を取り直して冒険者ギルドに向かうことにした。
しばらく行くとそれらしき看板が見えてきた。剣と魔物っぽい絵の看板だ。
経験上こういう時はオドオドしていると余計にからまれるので、堂々としていた方が良い。
内心はともかく何でもない顔をして扉をくぐった。
中に入ると奥にカウンター、右側に掲示板スペース、左側に待合スペースがあり、待合スペースの奥には酒場っぽいエリアも見える。
待合スペースから多少の視線を感じながら、内心ドキドキしながら涼しい顔(のつもり)で奥のカウンターに向かう。
受付カウンターの前まで行き様子を見ると、受付にはごついおっさんや気の強そうなおばさんが並んでいる。
どうやら美人受付嬢はいないようだ。まあ、現実には荒くれ者が多い場所に美女を配置したらトラブルが増えるだろうし、美女も嫌がるよな。いなくて当たり前か。多分引退した冒険者かその身内あたりがやっているんだろう。絡まれなかったのもこの人たちが睨みをきかせているからだろう。
美人受付嬢がいないことを少し残念に思いつつ、ごついおっさんのカウンターに声をかけた。良い武器屋はおばさんよりごついおっさんの方が詳しいと思ったからだ。
「すみません。いいですか?」
「おう!見ない顔だな!新人か?」 接客はフランクな感じのようだ。異世界っぽいな。いや日本が丁寧すぎるだけで前の世界でも外国ならこんなものかもしれない。
「はい。登録お願いします。詳しくは知らないんですが、登録すれば冒険者として働けるんですよね?」
「おう!この辺は初めてか?」
「はい。一人で村から飛び出してきたんですが、冒険者になろうと思いまして。」
「そうか。ちと細いが一人で町の外を出歩けるなら大丈夫だろう。この用紙を記入してくれ。あと登録料は銀貨3枚だが持ってるか?」
「はい!持ってます。」
名前、年齢、出身、得意武器、その他特技とある。今気づいたが日本語ではないが言葉も通じるし字も読めるな。特にスキルには表示が無かったが、知識はスキルではないからかもしれない。神だか神の部下だかが知識をくれたんだろう。知識を与えられるならもっと色々どうにかしてほしかったが・・まあいい。それより出身はどうするか。
「出身は村の名前を書かなければダメですか?」 試しに聞いてみる。
「あん?訳ありか?」
「家出同然なので・・・」 ということにしておく。
「この町の近くなら、この町の名前でいいぞ」
「う・・」 しまった!この町の名前を知らないぞ・・・ええい!開き直って聞いてみよう。
「この町の名前ってなんでしたっけ?」
「ああ? そんなことも知らねえで来たのかよ・・この町の名前はガストークだ。ここはガストーク冒険者ギルドだ。覚えとけ!」
「は、はい!すみません!」 ちょっと怪しまれたっぽいが教えてくれた。
名前 ユージ
年齢 18
出身 ガストーク
得意武器 槍
その他特技 なし
これでいいか。武器は使ったことが無いが、槍は素人が使ってもそこそこ強いらしいと聞いたことがあるので、槍にした。あとで買おうと思う。
もちろんネクロマンサーなんて書かない。
「おう!これでいいぞ!登録料を出しな!」
「はい!」 とりあえず社会人の基本としてハキハキ返事をして銀貨3枚を出す。
「よし!ちょっとこの本を読んで待っとけ!ちゃんと読めよ!」
カウンターの横に置いてあった薄い冊子を渡される。
読んでみるとギルドの規約やランクや依頼の説明のようだ。
色々書いているが、ランクはよくあるSABCDEFとなっていてSが一番高い。
Fは見習いの子供、大人はEからスタート。通常同ランクの依頼まで受けることができ、ギルドが許可すればひとつ上のランクの依頼も受けることができる。魔物素材はランク制限なく買い取ってくれるので、高ランクの魔物を狩っても良いが、ランクが低いと討伐依頼の報酬は受け取れない。
あとは一般人に怪我をさせると重いペナルティがあるから一般人と喧嘩するなとか、まあ普通に暮らしていれば問題無いものばかりだ。
ちなみに冒険者どうしの喧嘩については特に書かれていない。喧嘩するなら冒険者どうしでやれということだろうか?・・・不安だ。
しばらく待っているとおっさんが戻ってきた。
「読んだか?読んだらこの同意書にサインをしてここに手をおけ。」
言われたとおりにサインをして謎の四角い装置に手をおいた。指紋の採取か何かだろうか? 特に何の反応もないが、問題無かったようで、金属のカードを渡された。
冒険者ギルドのマークとランクと名前が書いてあるだけの鉄っぽい素材のカードだ。
「これがギルドカードだ!なくすなよ!今日からお前も冒険者だ!何か質問はあるか?」
「おすすめの武器屋と宿屋を教えてもらえませんか? あと、この辺の魔物とかを調べられる図書館とか資料室などありませんか?」
「武器屋と宿屋の地図は書いてやる。俺の名前を言えば少しだけサービスしてくれるぞ!俺の名前はヤーバンだ!資料はこのギルドの2階に資料室がある。そこの階段を上がればわかるはずだ!あとさっきの本はこのカウンターに常時おいてあるから、ちゃんと読んでおけよ!」
ささっと簡単な地図を書いて渡してくれた。
「ヤーバンさん、ありがとうございました!また来ます!」 資料室は後回しにして、元気よくお礼を言って、まずは武器屋に向かうことにした。
新人社員風に振る舞うのも疲れるぜ。
無事冒険者登録ができたことに気を良くした俺は、肩で風を切ってカッコつけながら冒険者ギルドを後にした。
12
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スローライフとは何なのか? のんびり建国記
久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。
ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。
だけどまあ、そんな事は夢の夢。
現実は、そんな考えを許してくれなかった。
三日と置かず、騒動は降ってくる。
基本は、いちゃこらファンタジーの予定。
そんな感じで、進みます。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる