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第11話 忍者を引き留めろ2
しおりを挟む皆で夕食をとっている最中にふと思ったので愛理に聞いてみた。
「愛理。ゾンビウイルスが治療できることは、この国の人達には伝えたのか?」
「ええ、魔法を何人かに試した際に聞かれたから教えたわ。」
やはりこの国の人たちもゾンビウイルスの治療方法は探していたようだな。もう教えたならメイドさんとかに聞かれても同じだな。皆に治療法が分かったら教えると言ってあったし、早まって脱走するヤツが出る前に今皆に伝えておくか。
「じゃあ今この場で皆に教えてもいいか?」
「もちろん良いわ。もともと言おうと思っていたし。」
まあ愛理ならそうだろうな。俺がリーダーみたいになっているし、俺から言っておこう。
そういえば俺がリーダーで良いか皆に一応確認した方が良いかもな。状況的に結果は見えているが、はっきり確認したかどうかで、何かあったときの不満や反発心が結構違うらしいからな。自分が一度認めたという事実があれば、リーダーに反抗しにくくなるらしい。まあ別に独裁のようなことをするつもりはないが。
「皆!聞いてくれ!」 俺は皆に呼びかけた。
「おう何だ?」「また何か分かったの?」ザワザワ
「昨日言っていたゾンビウイルスの治療方法だが、愛理の魔法で治せることが分かった。」
「おお!」「良かった。」「さすが聖女ね。」
皆安心したようだ。
「MP消費が多くて一度に全員は治せないから、毎日数人ずつ治すことになると思う。とりあえず女子から順番に治してもらおうと思うから、何日か待ってもらうことになるけどいいか?」
「ああいいぜ!」「大丈夫だ。」「さすが光輝君は女子に優しいな。」
特に皆不満はないようだ。女子からにすれば伊角やオタク男子連中を後回しにしても不自然じゃない。それまでに何とか残ってもらえるよう説得しよう。
「それと流れで俺が皆の代表みたいなことをしてしまったが、正式に代表を決めた方が良いと思う。誰が良いか意見はあるか?」
「今更何言ってんのよ。」「光輝が代表でいいだろ。」「勇者だしな。」「光輝君でいいと思う。」
皆俺でよさそうだな。一応日本で別行動だった日野、美樹本、恩田、伊角の4人にはちゃんと聞いてみよう。
「特に俺達と別行動だった人の意見は聞きたいがどうだ?」 とりあえず日本で色々経験してそうな日野の方を向いて言ってみた。
「神代君が適任だと思う。日本では、学校に残った私達は大勢やられたのに、神代君についていった人は皆生きていたから・・・」 日野が言った。やはり学校は大変だったようだ。
「光輝君がリーダーで良いわ。私はダメだったから・・・」 美樹本はリーダー気質だったがまだ落ち込んでいる。
「恩田と伊角もいいか?」
「うん。もちろん。」「・・・ああ。」
「じゃあ俺が皆の代表をやるからよろしくな。何かあったら言ってきてくれ。」
「おう頼むぞ!」「うん。」「光輝君が適任よ。」
よし。これで俺がお願いすれば皆ある程度協力してくれるだろう。
あとは、ゾンビウイルスが性行為でうつることを俺達と別行動だった4人は知らないかもしれないな。伊角と恩田には俺から教えておこう。
女子の日野と美樹本は愛理に頼むか。
横に座っていた愛理にこっそり話しかけた。
「愛理、日野と美樹本にゾンビウイルスは性行為でうつることを教えておいてくれないか? たぶん大丈夫だと思うが念のためだ。伊角と恩田には俺から教えておく。」
「う、わかったわ。まかせておいて。」 愛理はちょっと赤くなっているが了承してくれた。言いにくいことだが愛理も必要だと思ったんだろう。
夕食後さっそく俺は伊角に話しかけた。伊角は身長170くらいの細身の体型で、前髪が長くて目が隠れている感じだ。ギャルゲーの主人公のようなヤツだ。
「伊角、念のため伝えたいことがあるんだが、ちょっといいか?」
「・・・何だよ。」 伊角はちょっと嫌そうだ。特に嫌われた覚えはないが、伊角は誰に対してもこんな感じだ。ゾンビウイルスの詳細も他のヤツから聞いていない可能性が高い。
「ゾンビウイルスの詳しいことを教えておこうと思ってな。場所はどこでもいいけど俺の部屋でいいか?」
オタク関係の話をするかもしれないから一応聞かれない場所にしておこう。
「・・・ああ。分かった。」 さすがにゾンビウイルスのことは聞きたいらしく普通に了承してくれた。
俺の部屋に入ってさっそくゾンビウイルスについて分かっていることを説明した。特に性行為でうつること、自然治癒しないこと、ゾンビからは空気感染すること、ほとんどの哺乳類が感染することは強調した。
伊角は黙って聞いていた。たぶん頭の中では色々考えているのだろう。
「というわけだから、伊角も治療が済むまで人にうつさないように注意してほしいんだ。」
「・・・ああ。」 一応納得しているようだ。これですぐに出ていくことはないだろう。
しかし治療後もできれば出て行かないでほしい。もう少し踏み込んで伝えておこう。
「・・・伊角も気づいていると思うが、ゾンビウイルスの感染はこの国でも広がっている可能性がある。この世界には魔法があるから日本みたいにはならないと思うが、今のところ愛理の魔法しか治療法は見つかっていないし、安本もゾンビ対策に使える能力があるから、状況がはっきり分かるまで、伊角も俺達と一緒にいた方が良いと思うんだ。」
ゾンビウイルスはあの場にいた人やゾンビを片付けた人は確実に感染しているし、ネズミなどに感染して広がっている可能性もある。レベル1の生産職の有岡さんがゾンビに噛まれても魔法で治療して助かったことを考えれば、この世界の人はそう簡単にはやられないだろうから日本みたいに崩壊はしないだろうが、なかなか撲滅できない可能性は高い。
「・・・もしかして俺が出ていくと思っているのか?」 まあここまで言えば分かるよな。
「ああ。いや可能性があると思っただけで、確信があるわけじゃない。」
「・・・何で分かった。」 やはり出ていく気だったか・・・
ここは俺がオタク知識があることを明かそう。伊角なら人に話したりしないはずだ。そもそもほとんど人と話さないからな。そういう点ではある意味信頼している。
「実は俺にはオタクの親友がいるんだ。そいつに勧められて、ゾンビものや異世界ものの漫画や小説も読んだことがある。同じ学校じゃないから皆知らないけどな。」
オタクの親友というのは、オタクの俺のことだ。もう一人の俺ってやつだ。俺自身がオタクであることは一応まだ秘密にした。これなら最悪他のクラスメイトにバレても何とかなるからな。それに俺がオタクだというのは逆に怪しい気がするしな。
「・・・そうなのか。」
「召喚された国を脱出するのは定番なんだろ? 実際やるかはともかく、その手の小説を読んだことのあるヤツは全員考えるんじゃないか?」
「・・・そうだな。」 やはり伊角もその手の小説は読むらしい。
「忍者なら余裕で生きていけそうだからな。伊角の状況なら可能性は高いと思った。」
「・・・ああ。」
「もちろん脱出したからといって、伊角をどうこうするつもりはないし、俺に強制する権利はないが、もうちょっと待ってほしい。俺はオタクを追放したり迫害したりするような状況にならないように行動するし、国にいいように操られたりしないように努力するつもりだ。クラスメイト全員に人権のあるまともな暮らしを確保したいと思っている。伊角だって鑑定やアイテムボックスや調理師の能力は気になるだろ? まともな生活ができるなら俺達と一緒にいた方が良いんじゃないか? もしこの国がヤバい国で脱出した方が良い場合でも、まずは俺達全員で脱出することを検討してほしいんだ。それが無理でも脱出前に相談はしてくれないか?」
俺は必至で説明した。忍者を味方にできるかどうかは凄く重要な気がしたからだ。話しているうちに俺自身色々不安になった。状況次第では脱出することも本気で検討した方が良い気がしてきたからだ。脱出するとなった場合、忍者が味方にいるかどうかで成功率が全然違う気がする。
「・・・分かった。しばらく様子を見ることにする。」 伊角はしばらく考えたあと、そう返事をした。
「良かった。ありがとう。もし何か気づいたことがあったら教えてくれ。俺にできる範囲なら何とかする。」
「・・・この国は、戦闘力の高いヤツとそうでないヤツを分けて待遇を変えることを考えているようだ。」 伊角が驚くことを言った。
「そうなのか?」 さすが忍者だ。もう情報収集していたらしい。
「ああ。」
「分かった。俺の方で阻止できないか動いてみる。生産職達と引き離されるのはマズいからな。将来を考えたら死活問題になりかねない。」
「・・・ああ。」
「今後も何か分かったら教えてくれ。でも無理はするなよ。」
「分かった。」
話が終わり伊角は俺の部屋を出ていった。
とりあえず伊角の説得は成功したとみていいだろう。改善できないくらい状況が悪化したら出て行ってしまうだろうが、それまでは協力してくれそうだ。
その後鍛冶師の恩田にもゾンビウイルスのことを教えにいったが、恩田はもう鈴木達に聞いてすべて知っていた。なので、俺のオタク知識のことは言わずに軽く確認だけして話を終えた。
しかしさっそく俺達を分断する動きが出てきたか。まあ戦闘職と生産職は役割が全然違うからな。国としては当たり前の対応なのかもしれないが、俺達にとっては問題だ。
とりあえず明日司祭のじいさんに要望を伝えてみるか。俺のことを尊重してくれそうだったからな。
俺は色々あって疲れたので、その日はすぐ寝てしまった。
少しずつ不穏な気配が漂い始めていることに、俺達は気づいていなかった。
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