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第10話 忍者を引き留めろ1
しおりを挟む授業とスキルの確認が終わり、夕食の時間になった。
今日の授業の内容を考えるとあまり時間が無い気がする。
モタモタしているとすぐにでも脱走するヤツが出てしまいそうだ。すでに脱走の可能性の高いヤツがいる。
それは忍者の伊角だ。
伊角は、オタクで人付き合いが苦手で忍者の職業を得た。そして戦争に駆り出されそうな状況だ。放っておけばかなりの高確率でラノベ主人公のように脱走してしまうだろう。忍者なら簡単に脱走できるだろうし、一人でも生きていけそうだ。
忍者といえば、戦闘も諜報も暗殺もできる万能職業だ。何でも有りの勝負なら勇者より強くても不思議ではない。
それに情報を制する者は戦いを制すなんて言葉もある。偵察や情報収集役は絶対に必要になるだろう。
こちらから働きかけて何とか引き止めなくてはならない。
しかし引き留められそうな理由が今のところ無い。
いや少しは有る。鑑定とかアイテムボックスとか調理師とかだ。しかしそれで残ってくれるかはちょっと怪しい。調理師の稲田が伊角の大好物を作れたりすればいけるかもしれないが、伊角の大好物なんて知らないし、材料が無くて作れない可能性も高いしな。
そこで俺が考えたのはゾンビウイルス関係だ。性行為で感染することを伝えれば治したいと思うはずだ。さすがに聖女なら治せるだろうからとりあえず聖女で引き留める。まあその辺の神官でも簡単に治せるようなら引き留められないが、まずは数日でも時間を稼ごう。一応嘘はつきたくないから愛理に話を聞こう。
食堂に向かっていると愛理と亜美が歩いていた。
さっそく声をかけた。
「愛理!亜美!」
「あら光輝君。凄かったって聞いたわよ。大丈夫だった?」 愛理も俺のやらかしを聞いたようだ。
「ああ。力加減を間違えて危なかったが、被害者も出なかったし特にお咎めは無かったよ。」
「そうなのね。こっちにも凄い音が聞こえてきていたから心配したわ。」
「心配かけて悪かったな。それで例の関係で二人のスキルも教えて欲しいんだけどいいか? もちろん俺も教える。」
「ええ。私はかまわないわ。でも・・・」 愛理は横の亜美を見た。
亜美は赤い顔でそっぽを向いていた。
・・・昨日俺がキスしようと迫ったからだな。
しかし今は時間がない、今夜にも伊角が脱走してしまうかもしれない。ここは気にせず押し切ろう。
「じゃあまずは亜美のスキルを教えてくれ。アイドルはどんなことができるんだ?」
「もう!ちょっとは気にしなさいよね!」 亜美は赤い顔で文句を言ってきた。
「いやいや、いつも気にしているよ。気にしていなかったらあんなことはしない。亜美のことが気になるから教えて欲しいんだ。」 とりあえず俺はグイグイいった。俺は勇者だからな。もはや怖い者無しだ。まあ一応亜美とは一時期付き合っていたから押して良い時とダメな時は何となく分かる。今は大丈夫だ。
「やっ。ちょ。あっ。」
戸惑う亜美にカップルが内緒話する時のような距離まで近づいて囁く。
「それで、どんな感じなんだ。こっそり教えてくれよ。」
「わ、私はそんなつもりは。」 亜美は赤くなって慌てている。
「分かってるって。念のため周りに聞こえないようにしているだけだよ。で、どうだったんだ?」
「もう!・・・アイドルは多分仲間を強化できるってことしか分からなかったわ。この世界の人はアイドルが何か分かってなかったみたいで、あまり試せなかったの。」
「そうか。ありがとう。時間がとれたら一緒に検証しよう。」 予想通り支援系だな。某有名RPGのアイドルスターはハッスルして仲間を回復したりしていたが、仲間を強化する方がそれっぽいからな。支援系か誘惑系だと思っていた。アイドルという名前的にたぶん大勢をまとめて強化したりできるのではないだろうか。支援の内容によってはかなり強いだろう。
「愛理はどうだった?」 亜美に寄り添ったまま愛理に話しかける。
「光輝君はずいぶん大胆になったわね。皆が見ているじゃない。」 愛理が少し赤い顔をしながら言った。
周囲を見るとクラスメイトとメイドさんが周囲にいた。カップルを見慣れている上位陣はヤレヤレという感じだ。オタク男子は見ない様にしているようだ。逆にオタク女子は興味深々といった感じだ。メイドさんは気にしていない風を装っているが少し顔を赤らめてチラチラ見ている。もしかしたらこの世界基準ではあまり人前でくっついたりしないのかもしれないな。
俺は聖剣でやらかして感覚が麻痺したせいか、もはや人目が気にならなくなっていたので、気にせず愛理に話しを続けた。
「念のため、あまり人に聞かれない方がいいな。愛理もちょっとこっちに来てくれ。」
愛理を食堂の部屋の隅に連れていって内緒話をするため近づいた。誤解されるといけないので亜美も寄り添ったまま連れていく。亜美は素直にくっついてきた。
「・・・ちょっと近いんじゃないかしら。」 愛理が少し顔を赤くして言った。亜美も少し睨んでいる気がするが、気にせず顔を近づけて言った。
「俺達の仲なら今更だろ? 周りに聞かれないためだから我慢してくれ。それで愛理は回復系だよな?」 カラオケとかではくっ付いて座ったり顔を近づけて話したり普通にしているし今更だ。
「・・・そうよ。聖光魔法というのが使えるわ。完全回復ができるみたい。」 まだ顔が赤いな。俺を意識しているのだろうか? 愛理は今までそんな感じでもなかったが。まあいい。それより完全回復ならいけるんじゃないか。
「それは良いな。それで、もしかしてゾンビウイルスも治せるか?」
「なるほどね。それが聞きたかったのね。試しに自分に使ったら治ったわ。」
「おお!それなら皆を治せるんだな。」 良し!それなら引き留めに使えそうだ。
「ええ。でもMPというのが足りないから数回しか使えないみたい。全員は無理よ。」
消費が多いのか。まあ何日かかけて治せば問題ないだろう。
「じゃあ寝ればMPは回復するみたいだから、寝る前に残っているMPを使って毎日数人ずつ治していく感じで良いか?」
「ええ良いわ。皆を早く治して安心させてあげましょう。」
よしよし。これならゾンビウイルスが治るまでの数日は確実に引き留められるな。
いや、他の回復職でも治せるかもしれないか。それだと引き留められないかもしれない。僧侶の安本にも聞いてみよう。
俺は食堂に入ってきた安本に声をかけた。
「安本、ちょっといいか?」
「うん、何?」
「安本は回復魔法でゾンビウイルスは治せそうか?」 安本なら察しが良いから普通に聞けばいいだろう。
「いや、今のところ僕の回復魔法じゃ無理みたい。レベルが上がったら分からないけどね。」
よしよし。普通の回復職が治せないなら引き留める理由になるな。ただ愛理が姫とか騎士とかの治療で忙殺されてしまうかもしれないな。まあそれは仕方ないか。何十人か増えたとしても終われば解放されるだろう。
一応安本に他に何かないか聞いておくか。
「ゾンビ関係で使えそうな魔法やスキルはあったか?」
「うん。僕は少しレベルが上がれば毒の治療や一時的な毒無効の付与ができるらしいよ。」
「おお!それは良いな。ゾンビと戦う時は頼むな。」
「うん。」
毒対策ができるのは良いな。少し弱いがこれも引き留める材料にできるかもしれない。特に毒無効は重要だ。ゾンビの毒はすぐ死ぬくらい強力みたいだしな。
さっそく夕食のあとにでも伊角と話をしよう。できれば他のオタク連中にも伝えておきたい。伊角以外も脱走を考えている可能性はあるからな。戦えない職業で脱走するのは無謀な気がするが、脱走ではなく交渉で出ていくパターンもあるしな。
俺は剛士やハイド達いつものメンバーと合流して夕食をとった。相変わらず俺達にとっては可もなく不可もない味の食事だが、話を聞くとこの世界基準ではかなり美味しい食事らしい。やはりこの世界の食事の味のレベルは日本より低いようだ。まあ日本は地球でもかなり食事のレベルが高いみたいだったからな。仕方ない。調理師の稲田に期待だ。これも引き留める理由にしよう。・・・稲田が出て行ってしまったらマズいな。伊角の次は稲田にしよう。
窓の外を見るとすっかり暗くなっていた。
暗い茂みの奥から何かの呻き声が聞こえたような気がした。
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