上 下
4 / 12

第4話 勇者のステータス

しおりを挟む

 俺は鈴木を責めている瑞希に近づいて声をかけた。
「瑞希!大丈夫か?」
「光輝君!こいつがあゆみを見捨てたのよ!」 瑞希は俺に向かって泣きながら訴えた。ハイドも鈴木を睨んでいる。
「ああ。だいたい聞こえていたけど大事な話だな詳しく聞きたい。だけどここだとゆっくり話ができないな。話をするのは落ち着く場所に移動してからにしよう。」
 俺はとりあえず、刺激しないよう同意しつつ問題を先送りにすることにした。
 ちょっと今すぐ解決は厳しい。じっくり考えたい。
「でも!」 瑞希はまだ納得していないようだ。
「安心してくれ絶対俺達がちゃんと話を聞く。そうだよなハイド。」 同じくヒートアップしていたハイドに話を振る。ハイドなら怒っていても周りが見えているはずだ。
「・・・確かにここじゃあ大事な話はできないな。クソ! 瑞希、俺達が落とし前をちゃんとつけてやるから行こう。」
「うう。分かった・・・」 瑞希がうなずいた。
 よし。さすが空気が読める男のハイドだな。うまくのってくれた。
 後は鈴木にも声をかけておこう。
「鈴木も俺達の話が終わるまで大人しくしてろよ!」 瑞希とハイドの手前強めに言った。
「うう・・」 鈴木はうまく返事できないようだ。
 そして鈴木に近づき肩に手を置いて小声で言った。
「鈴木の話も聞くから安心してくれ、あの状況じゃ動けない人の方が多いだろ。何とかする。」
「わ、わかった。」 鈴木は答えた。少し安心したようだ。

「行こうか。」 俺達は案内に従い歩き出した。

「鈴木に何言ったんだ?」 剛士が聞いてきた。俺が鈴木に声をかけたのを見ていたようだ。
「ああ。逃げないように釘を刺しただけだよ。」 適当にごまかす。
「へぇ。俺は庇わねえからな。」 剛士は何かを察したようだ。
「分かった。」
 剛士は何かと積極的に動いてくれるが、自分が納得していないことには協力しないタイプだ。今回は剛士に頼るのは無理だな。仕方ない。
 鈴木はオタク仲間と合流して何か話している。頼むからラノベみたいに脱走しないでくれよ。俺は実在するらしい名も知らぬ女神に祈った。

 案内に従い歩きながらふと思いついた。そういえばステータスとか無いのだろうか?
 異世界といえばステータスだ。オタクの常識だ。
 とりあえず試しにステータスと念じてみた。

ーーーーー
名前 神代 光輝
種族 異世界人
職業 勇者
レベル 1
HP 1000/1000
MP 1000/1000
身体能力 200
魔力   200
スキル
 異世界適応
 聖剣召喚
状態
 女神の加護
 ゾンビウイルス感染
ーーーーー

 ・・・マジか。勇者になっている。確かに今のメンバーなら俺が勇者ポジションだ。普通なら喜ぶところだが、オタクの俺は素直に喜べない。最近の小説では勇者はやられ役のことが多いからだ。そうでなくてもこき使われたり損な役になることが多い。
 実は全員勇者だったりするといいんだが、何となく違う気がするな・・・ 勇者だったら竹下とかもあっさりやられたりしなかっただろう。

 それ以外にも色々あるが、とりあえずゾンビウイルスに感染している。
 いや、近づくだけで感染するのは分かっていたことだ。
 でも女神の加護とかあるなら、ゾンビウイルスくらい防いでくれても良いじゃないか。
 女神の力がゾンビに負けちゃダメだろ・・・

 周囲を見るとオタク連中も宙を見ながらコソコソやっている。ステータスを見ているのだろう。やはりゾンビウイルスに感染しているせいか微妙な表情のヤツが多い。


 俺達は礼拝堂のような場所に案内された。ここは大聖堂の中だそうだ。勇者召喚は大聖堂の奥で行われたらしい。

 待っていると、数人の神官が大きな水晶玉のような物がついた装置を出してきた。定番の鑑定の魔道具だろうか?
「では、ここに一人ずつ順番に手を置いてください。」 司祭っぽい爺さんが言った。
 流れ的に最初は俺からのようだ。
 ステータスが見られてしまって大丈夫だろうか。特にゾンビウイルスが不安だ。しかしここで拒否しても強制的に見られるだろうし、悪い方向に進む予感しかしない。
 仕方ない。逆に魔法で治してもらえるかもしれないしな。
 変なことが起きませんように。
 祈りながら水晶玉に手を置いた。
 水晶玉が少し光った。
 司祭は何か見えているようだが、俺には何も見えないようだ。

「おお!勇者だ!この方の職業は勇者です!」 目の前の司祭っぽい爺さんが叫んだ。

「なんと!」「やりましたな!召喚は成功ですぞ!」「女神よ!感謝します!」
 異世界人たちが湧いている。

「おお!」「さすが光輝だ。」「勇者って凄いの?」「まあ光輝君は勇者っぽいよな。」
 クラスメイト達もザワついている。

 とりあえず職業は分かるようだ。ゾンビウイルスについては何も言わないな。そこまでは分からない装置なんだろうか? それならゾンビウイルスには気づかれないかもな。・・・いやあの場所には大勢いたから、ステータスが見られるならすぐ気づくだろう。隔離されたりしないかちょっと不安だ。姫も多分感染しているし、勇者は重要な存在みたいだから問答無用で殺されたりはしないだろう。治療できたりすれば良いんだけどな。

「光輝!良かったじゃねえか!よく分からねえけど勇者は凄えんだろ?」 剛士が声をかけてきた。
「いや分からないよ。あの反応からすると何か特別なんだろうけど。」 とりあえず分からないフリをしておく。というか本当に分からないしな。一応予想はできるがあっているかは怪しい。
「次は俺が行くぜ。」 剛士が前に進みでた。


 この際だ。全員の職業をしっかり把握しておこう。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

死霊術士が暴れたり建国したりするお話

白斎
ファンタジー
 おっさんが異世界にとばされてネクロマンサーになり、聖女と戦ったり、勇者と戦ったり、魔王と戦ったり、建国したりするお話です。  ヒロイン登場は遅めです。  ライバルは錬金術師です。  少しでも面白いと思ってくださった方は、いいねいただけると嬉しいです。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

Catastrophe

アタラクシア
ホラー
ある日世界は終わった――。 「俺が桃を助けるんだ。桃が幸せな世界を作るんだ。その世界にゾンビはいない。その世界には化け物はいない。――その世界にお前はいない」 アーチェリー部に所属しているただの高校生の「如月 楓夜」は自分の彼女である「蒼木 桃」を見つけるために終末世界を奔走する。 陸上自衛隊の父を持つ「山ノ井 花音」は 親友の「坂見 彩」と共に謎の少女を追って終末世界を探索する。 ミリタリーマニアの「三谷 直久」は同じくミリタリーマニアの「齋藤 和真」と共にバイオハザードが起こるのを近くで目の当たりにすることになる。 家族関係が上手くいっていない「浅井 理沙」は攫われた弟を助けるために終末世界を生き抜くことになる。 4つの物語がクロスオーバーする時、全ての真実は語られる――。

神よ願いを叶えてくれ

まったりー
ファンタジー
主人公の世界は戦いの絶えない世界だった、ある時他の世界からの侵略者に襲われ崩壊寸前になってしまった、そんな時世界の神が主人公を世界のはざまに呼び、世界を救いたいかと問われ主人公は肯定する、だが代償に他の世界を100か所救いなさいと言ってきた。 主人公は世界を救うという願いを叶えるために奮闘する。

Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜

華厳 秋
ファンタジー
───2025年1月1日  この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。  札幌、渋谷、博多の3箇所に突如として『異界への門』──アナザーゲート──が出現した。  渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。  この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。  一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。  そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。 この作品は、小説家になろう様カクヨム様にも投稿しています。 この作品はフィクションです。 実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。

同級生の女の子を交通事故から庇って異世界転生したけどその子と会えるようです

砂糖琉
ファンタジー
俺は楽しみにしていることがあった。 それはある人と話すことだ。 「おはよう、優翔くん」 「おはよう、涼香さん」 「もしかして昨日も夜更かししてたの? 目の下クマができてるよ?」 「昨日ちょっと寝れなくてさ」 「何かあったら私に相談してね?」 「うん、絶対する」 この時間がずっと続けばいいと思った。 だけどそれが続くことはなかった。 ある日、学校の行き道で彼女を見つける。 見ていると横からトラックが走ってくる。 俺はそれを見た瞬間に走り出した。 大切な人を守れるなら後悔などない。 神から貰った『コピー』のスキルでたくさんの人を救う物語。

処理中です...