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第2話 異世界召喚
しおりを挟む安本の家の寺でひと段落ついた俺達は、寺の広間に集まりテレビやSNSで情報収集することにした。
俺についてきたクラスメイトは、俺達6人の他に13人だ。
俺達とよく遊ぶクラス上位の男子2人女子2人
寺の息子の安本
野球部の黒井
クラスの秀才の武田
オタクの男子3人女子3人
こういう状況に詳しいであろうオタク達が結構ついてきてくれたのは嬉しい。俺の判断を支持してくれたのだろう。秀才の武田も納得いかないことには従わない質なので、俺の判断が正しいと思ったのだろう。こいつらがついて来てくれたことで、俺は自分の判断に自信が持てた。黒井は安本と仲が良いからだろう。
まあ、来て欲しかったヤツが全員来たわけじゃない。家族とか親友とか他に合流したい相手がいるヤツは去ってしまった。特に剣道部が来てくれなかったのは残念だった。まあ仕方がない。
皆で情報収集して分かったことは、マジのゾンビパニック状態だということだった。
ここは都心からは少し離れているからまだマシだが、渋谷や新宿ではゾンビが溢れ、やはり最寄り駅でもゾンビが出たようだ。
絶望感が皆に広がっている。
「光輝君。どうしよう。」「お母さん達大丈夫かな・・・」「マジゾンビじゃねえか・・」
マズいな。とりあえず皆を元気づけなくては。
「皆落ち着いてくれ。詳しくは分からないが、ゾンビは映画くらいの能力らしい。それなら警察や自衛隊が負けるわけない。警察や自衛隊の能力なら、多少力が強くても知能の低いゾンビに噛まれずに制圧することなんて簡単だ。映画みたいに文明崩壊したりはしない。酷い状況みたいだが、いずれは収まるはずだ。」
映画や漫画みたいに噛まれないとうつらないようなゾンビに警察や自衛隊が負けるなんてありえない。避難民にゾンビが混ざっていたりしても制圧は可能だ。感染症対策の知識や装備もあるだろうし、人権問題などで銃が使えなかったとしても暴徒鎮圧用装備で対応できるし、近接格闘でも噛まれずにゾンビを倒すことができるだろう。それに人間の一番の武器は知能だ。知能が低いゾンビに負けるわけがない。俺だってゾンビ用の罠の一つや二つ思いつく。文明崩壊なんてありえない。
「そうなの?」「まあそうだな。」 秀才の武田も納得している。オタク達も納得顔だ。
「俺達は、収まるまで生き残ることに専念しよう。」 俺は追加で声をかけた。
「まあそれならここにいれば何とかなりそうだな。」「そうね。」 皆とりあえず落ち着いたようだ。
「問題は食料だ。僕達が買ってきた分で数日は大丈夫だが、長引いたらどうなるか分からない。」 武田が言った。
いや正しいけど皆が落ち着いたそばから不安になることを言うなよ。後でこっそり安本に聞こうと思っていたがしょうがない。
「安本。水や食料はどのくらいあるか分かるか?」 俺は安本に聞いた。
「うちの寺は公的な避難所には指定されていないけど、寺は避難所として地域住民を受け入れるのが昔からの習わしだから備蓄はあるよ。井戸もあるから万一水道が止まっても水も大丈夫。」
なるほど。だから安本も簡単に俺達を受け入れたのか。
「それなら大丈夫そうだな。」 俺は皆を安心させるために笑顔で言った。
「良かった。」「一時はどうなることかと思ったぜ。」「やっぱりこっちについてきて正解だったな。」 皆も安心したようだ。
しかし地域住民を受け入れるとなると、ゾンビに噛まれたヤツが来る可能性があるな。学校とかよりはマシだろうが、内部崩壊の可能性がある。後で何人かと対策を話しておくか。一時隔離部屋とかがあると良いんだけどな。使えそうな蔵とかあるかな。
次の日も状況は収まるどころか悪化していた。そして安本の両親の知り合いや親せきが避難してきて人数が増えた。幸い結構な量の物資を持って来てくれたので、特に物資に不安は無かった。俺は念のため、ここのことは秘密にして大事な人以外はここに呼ばないよう皆に言った。しかし何人かはSNSにのせたり友達に連絡したりしてしまっていた。寺は大きいが学校のように大量の人が避難できる程ではないので大量に人が来てしまうと非常にマズいことになる。
その後結局何人か人が増えた。クラスメイトの友達何人かと近所の人数人だ。物資を買ってくるよう言っていたらしく多少の物資は持ってきてくれていた。店はほとんど売り切れだったようだが。
そしてさらに数日たったが状況はさらに悪化した。
何でだ? 日本は災害への対応は早いはずだが・・・
「おい!これ見てみろよ!」 男子の一人が叫んだ。
どうやら海外からの情報を翻訳したサイトのようだ。
そのサイトによるとゾンビウイルスは空気感染するらしい。近くに寄るだけでアウトだそうだ。マジか・・・
「マジかよ・・・」「うそでしょ?」「これは終わったかもしれんね・・・」
「落ち着いて、もっと詳しく見よう。」 俺は内心焦りながら皆に声をかけてからサイトを読んだ。
そのサイトによると、近づくだけで感染するが、感染したらすぐゾンビになったりはしないらしい。感染した状態で死ぬとゾンビになるようだ。死ななければゾンビにはならないし、空気感染もしない。感染しても体調不良などにはならないので、詳しい検査をしなければ感染しているかどうかも分からないそうだ。ゾンビウイルスは体が死ぬまで潜伏期間として体内に潜んでいるらしい。潜伏期間中でも性行為などで感染する可能性はある。自然治癒するかは不明だが可能性は低い。ほとんどの哺乳類が感染するとある。
「これによると、感染しても健康状態は変わらず病気にはならないみたいだ。死ななければ良いらしい。感染しても死ななければゾンビにはならない。普通に生きていけるようだぞ。」 俺は皆を元気づけるように言った。
「そうだな。感染したとしてもいずれ開発されるであろうワクチンができるまで生き延びれば問題無いはずだ。」 武田が追加で言った。
ナイスフォローだ武田。
「そうか・・・」「それなら何とかなるのか?」「うーん。」
一応持ち直したようだ。まだ不安そうだが。
サイトをもう一度読んで整理する。
・ゾンビに近づくと感染する。
・感染者と性行為で感染する。
・感染者は健康で検査しないと見分けがつかない。
・感染者が死ぬとゾンビになる。
・ゾンビに噛まれると毒で死ぬのですぐゾンビになる。
・ほとんどの哺乳類が感染するし、ゾンビになる。
この辺りが重要情報だな。
この状況なら全然収まらないのも分かる。しかしこれは収まるのか? おそらく感染者は大勢いるだろう。そして感染者が事故や病気で死んだりすればゾンビになる。そこからまた感染が広がり、性行為でも感染が広がるから感染を食い止めるのは無理かもしれない。
しかし、死ぬとゾンビになるという前提で警察や自衛隊が動くようになればいずれは収まるか。死にそうな人間にゾンビ対策するのが当たり前になれば問題無いかもしれない。
・・・いや、ほとんどの哺乳類というのがヤバいか・・・?
犬は定番だが、猫やネズミのゾンビが人を襲うとなると収拾がつかない可能性がある。特にネズミだ。飲食店街や都市部の繁華街には大量にいるだろう。いつの間にか侵入されて噛まれてゾンビになったりしたら・・・
ゾンビパニックを収めるのは無理な気がしてきた・・・
いや、人間のゾンビは動きが遅いし走らない。猫やネズミも同じなら侵入能力は低いかもしれない。
それでも生きた状態で侵入して家の中で死んだらゾンビになるが・・・
それに猫ゾンビやネズミゾンビがそこらの町中に大量発生するのは確実だから、感染者が爆増するのは確定だし、町を歩いていて猫やネズミに突然噛まれてゾンビになる人などが続出するだろう。
俺はすぐに大人たちに情報を伝え、猫やネズミ対策に色々な隙間を塞ぐよう提案した。
そして全員が感染者であるという前提で行動することも提案した。おそらく俺達はまだ感染していないが、知らない間に猫やネズミのゾンビの近くを通っていて感染している可能性があるからだ。
そしてとうとう寺の前にもゾンビの集団がやってくるようになった。近くの避難所の中学校が崩壊したためだ。俺達の学校も崩壊したらしい。停電になってしまい連絡もとれなくなった。
息をひそめていたが、中に人がいるのがすぐにバレてしまい、門をバンバン叩かれて、その音でさらにゾンビが集まってきてしまった。門は丈夫だがこのまま大量のゾンビに攻撃され続ければいずれは破壊されてしまう。
大人たちは寺の前のゾンビを倒すことを決意し、物干し竿や竹ぼうきで作った竹やりを持って壁の上に登りゾンビを攻撃することになった。
俺達男子高校生もバットを持って万一門が破られた時に備えて待機した。女子は念のためいつでも逃げれるように靴を履いて待機している。
俺と剛士とハイドを先頭に隊列を組む。オタク達は後ろの方で怯えている。
「チッ!あいつら役に立つのか? 足を引っ張るんじゃないだろうな?」 ハイドがオタク達を見て言った。
ハイドは仲間には優しくて良いヤツだが、仲間以外には割と冷たい。そしてオタクが嫌いなようだ。
「まあヤツらの出番はねえよ!俺がいるからな!」 剛士が言った。剛士はオタクに興味無いタイプだ。
剛士の兄貴の真司さん達とは停電で連絡がとれなくなったが、それまでは普通にゾンビを倒して生きていたらしく、剛士もゾンビをあまり恐れていない。
「まああいつらは自分の身だけ守ってもらえばいいだろ。」 あまり庇うと面倒なことになるので俺は適当に言った。実際戦力にはならなそうだしな。
大人たちが壁の上から姿を見せたことで、ますますゾンビが集まってしまい、状況は悪化の一途をたどっていた。
門の前にバリケードを張り、緊迫した表情で皆が状況を見守っていた時だった。
突然俺達の足元が光った!
足元を見ると地面には魔法陣の様なものが浮かび上がっている!
「なんだこれ?!」「うわ!?」「キャー!」
とっさに横に移動したが魔法陣も一緒についてくる。
周囲を見ると、魔法陣があるのはクラスメイトだけで大人達には無いようだ。
「なんだ?どうした?」「お前らそれなんだ?」
「解りません!」「突然光り出して!」
魔法陣がいっそう光り輝き視界が白く染まった。
光が収まると、俺達は見知らぬ石造りの広間に立っていて、周囲には鎧をつけた騎士や兵士、神官、魔法使い、姫っぽい恰好の人など見慣れない人達がいた。
そしてゾンビになったクラスメイト達がいた。
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