総ての海を征するもの……の正妻?

白いモフモフ

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誰の試練か

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 それは馴染みの商人が持ってきた。大きさは拳ほど、樽のようなフォルムに猫足のついたなんとも言い難い形だった。東洋のような西洋のような混じりあったデザインは奇妙としか形容しがたい。色は深い緑か青……そう、海の色だ。

「これはある山岳地帯に住む部族の秘薬でございます。体に塗ればたちまち熱を生じ、冷えきった体…心も暖めます!このような海を渡り歩く方々には是非ともお使いいただきたい!」

 商人の言葉に私は頷いた。そうだろう。海をゆく我々は海風、潮に晒されており常に熱を奪われている。おそらくは唐辛子や胡椒のようなスパイスを練り固めた物だろうが試してみても悪くはない。

「マオ、他の必要品と一緒にあの壺も買っておいてくれ。」

 それが最大の過ちだった。



 あの国に宣戦布告した馬鹿者達は作戦も愚かだった。馬鹿すぎて、作戦の綻びや穴を教えてやりたいほどの者達だった。同盟国としてフールフーガの代表でセオが向かうことになり、当然のように私も同行した。要請により参謀などになったがつまるところ保護者だ。総代将にエルドゥドの皇太子が着いたのだから仕方ないとわりきった。勝ち戦しかないこの戦で箔をつけようということなのだろう。私達としてもやりやすいから否やもない。
 そして案の定、この戦はあっさりと勝敗が決した。後の交渉などはそう面白くもないのでエルドゥドへ一任だ。あの国は私達に決して損な思いはさせないとわかっているので安心している。
 そんな事よりも私達は一刻も早く海に戻りたかった。……戦というものはどんなに小さなものでも血が滾るというものだ。そしてそれを鎮める必要もある。鎮める手は1つだ。

 エルドゥドの国王夫妻の元を辞して飛行船で私達の船の間近まで送ってもらった。少ししか離れて居なかったが“帰ってきた”と感じるのは不思議なものだ。……いや、グリフウッドの港だからか?
 しかしここで気を抜いてはいけない。これからフールフーガまでは少なくとも4日はかかるのだから水、食料品等の積み荷は大事だ。

 積み荷も終わり、我が息子であるアーノルドに見送られて海を滑り出した。風が心地よくて暫く当たっていたい気もするが、これから大事な事がある。

「デジレ殿、こちらへ」

 自室の中でまだ外にいた私を中へと誘う。その目は熱が支配するかのように、欲情に充ちていた。先程までは体の奥底に隠していた熱は開放しても良い条件が整ったのか、隠すこともしない。
 自分に向かって伸ばされた手をとる。厚みのある大きな手はほんのりと暖かい。重ねた手を力強く握られ、あっという間に室内へと引き入れられる。
 分厚い胸板は反動で飛び込んだ私の体を悠々と受け止めびくともしない。同じαとして少しの嫉妬が生まれる。
 横向きに抱き止められたまま、右肩と頬にセオの体の熱を感じて思わずほくそ笑む。
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