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あの領主
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「お久しぶりです、デジレ様。」
とあの頃といくらも変わらぬ様子で挨拶してきたのはΩとは思えぬほど利発な自分の息子の番だった。
変わったのは……その体に見合わぬ大きな腹。
自分ですら思わず手を差し出して転んだりしないように気を配りたくなるほどの大きくせり出した腹を見て複雑な気分になる。
そんな自分の戸惑いなんてそっちのけで息子の番は領主の顔になった。
「是非お願いしたい商品があるのです。父様も母様も気に入っていてスサエナの新しい特産品として考えています。」
それだけ言うと「百聞は一見にしかず」と見本品を持ってこさせるらしい。思いの外大掛かりの様で組立式の頑丈な物を作っている。
「これは商品を見せやすくするための枠です。この様に簡単に組み立てられますので狭い場所でも大型のタペストリーを見比べていただけます。この枠は大型商品20枚に付き1つおつけしますが足りない個数はご注文いただくか、研究してお作り下さい。」
……20枚で1つの枠では明らかに足りてないではないか?しかし、研究して同じ物を作っても良いというならまだ良心的なのだろうか?
そして、……本当にこの領主はΩなのか?
そんな思いで忙しなく動き回る者を見るとあることに気づく。
「ノエル様、この者達は……」
「ええ、皆ハンデを抱える人達ですがちゃんと働くことはできます。個人個人が出来る限りでいいんですよ、少しづつこうして慣れていけば他にも色々な事が出来るようになるんです。」
慈愛の目、そう感じた。1人で無理なら2人3人ですれば良いとこの領主は言う。こういう者達は私が知る限りは施されるのを待つ者達ばかりだったが目の前の彼らは違う。足を引きづりながら、または体を傾げながら、指示をされながらでも生き生きとしていた。……本当にこのノエルという人物はなんなのだろう。
そうこうしているうちに数人一組で大型絨毯やタペストリーを運んできた。正直、“こんなに勿体ぶるなんてどれほどの物か”と侮っていたのだが……。これは、正に素晴らしい!……まずい。これは私個人の感情などで蹴って良い話ではない。これを他国へ出すのなら他に任せてはいけない!
これをもし専属に取り引きできれば、中間地点のグリフウッド領は一層安定した交易港となる。
そして今、私が位置する立場も……。いや、その様な事は良い。
1つ1つを見ていく。仕事が丁寧だ……飾り房は勿論端の始末や裏糸のほつれなども見当たらない。
横で誇らしげな顔で笑うこの領主は気に食わないがこの際個人感情は抜きだ。
大人の対応、というものを見せつけ有意義な取り引きがすんだと自己満足した私はふと気がついた。
これは私が大人の対応をした訳ではない!あの生意気な小僧が私の先を読み、気分良く取り引きが進むように場面を設定したのだ!
……悄然とするとはこういう事だろう。身を持って知るはずのない言葉を身を持って知った。
とあの頃といくらも変わらぬ様子で挨拶してきたのはΩとは思えぬほど利発な自分の息子の番だった。
変わったのは……その体に見合わぬ大きな腹。
自分ですら思わず手を差し出して転んだりしないように気を配りたくなるほどの大きくせり出した腹を見て複雑な気分になる。
そんな自分の戸惑いなんてそっちのけで息子の番は領主の顔になった。
「是非お願いしたい商品があるのです。父様も母様も気に入っていてスサエナの新しい特産品として考えています。」
それだけ言うと「百聞は一見にしかず」と見本品を持ってこさせるらしい。思いの外大掛かりの様で組立式の頑丈な物を作っている。
「これは商品を見せやすくするための枠です。この様に簡単に組み立てられますので狭い場所でも大型のタペストリーを見比べていただけます。この枠は大型商品20枚に付き1つおつけしますが足りない個数はご注文いただくか、研究してお作り下さい。」
……20枚で1つの枠では明らかに足りてないではないか?しかし、研究して同じ物を作っても良いというならまだ良心的なのだろうか?
そして、……本当にこの領主はΩなのか?
そんな思いで忙しなく動き回る者を見るとあることに気づく。
「ノエル様、この者達は……」
「ええ、皆ハンデを抱える人達ですがちゃんと働くことはできます。個人個人が出来る限りでいいんですよ、少しづつこうして慣れていけば他にも色々な事が出来るようになるんです。」
慈愛の目、そう感じた。1人で無理なら2人3人ですれば良いとこの領主は言う。こういう者達は私が知る限りは施されるのを待つ者達ばかりだったが目の前の彼らは違う。足を引きづりながら、または体を傾げながら、指示をされながらでも生き生きとしていた。……本当にこのノエルという人物はなんなのだろう。
そうこうしているうちに数人一組で大型絨毯やタペストリーを運んできた。正直、“こんなに勿体ぶるなんてどれほどの物か”と侮っていたのだが……。これは、正に素晴らしい!……まずい。これは私個人の感情などで蹴って良い話ではない。これを他国へ出すのなら他に任せてはいけない!
これをもし専属に取り引きできれば、中間地点のグリフウッド領は一層安定した交易港となる。
そして今、私が位置する立場も……。いや、その様な事は良い。
1つ1つを見ていく。仕事が丁寧だ……飾り房は勿論端の始末や裏糸のほつれなども見当たらない。
横で誇らしげな顔で笑うこの領主は気に食わないがこの際個人感情は抜きだ。
大人の対応、というものを見せつけ有意義な取り引きがすんだと自己満足した私はふと気がついた。
これは私が大人の対応をした訳ではない!あの生意気な小僧が私の先を読み、気分良く取り引きが進むように場面を設定したのだ!
……悄然とするとはこういう事だろう。身を持って知るはずのない言葉を身を持って知った。
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