総ての海を征するもの……の正妻?

白いモフモフ

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この男

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 この最後の老婆には今現在もかなり救われている老婆は初めて私に挨拶をした時、言葉は少なくお辞儀をしたのみだった。
 だがそれは老婆の気遣いであった。

「はじめましてデジレ様、私はデジレ様の朝の身の回りのお世話をいたします。年が年でございますので何も驚くこともございませんし色々と馴れております。老婆でございますので物忘れもありご迷惑おかけするかもしてませんが最後のご主人様に精一杯お仕えいたします。」

 少し時間をおき改めて挨拶に来た老婆はマグと名乗った。本当の名はマーガレットだったというが年老いてそんな可愛らしい名前に違和感がでたのと、聞き取りやすさからマグにしているらしい。

 ……いい加減現実戻らないとそのマグが来そうだ。
いや、今日は来ないか……どうせあの男が朝からすこぶる良い機嫌で「デジレ殿はお疲れだ」とでも言っているだろう。
 またうつらうつらと微睡みはじめる。

 そうだ…あの男はあの日の朝こう言ったのだ。
「やっと我が妻に迎えられた。貴男を二度と離さない……我は貴男のものだ。」
 ……何が“我は貴男のもの”か!昨夜だってさんざん私を貪ったのはあの男だ。あんな場所で……。

 “昨夜の事”を微睡みの中思い出すと、夢となって現れる。


 この男は隣国の海軍提督として知り合った。私がまだ領主として役目を果たしていた時だ。初めて会ったときの印象は“油断のならない男、見た目同様威風堂々……αの中のα。”だった。そして会話をするとすぐに“懐が深い”も加わり好意的に捉えられた。

 日焼けした肌に焦げ茶の髪は野性的に見え、海の潮で灼けたバサバサの頭は短髪のせいか不衛生には見えない。太い眉に野性的な瞳、蓄えた口髭……計算されたかのように野性的な魅力で私の目を惹きつけた。そしてがっしりとした体は肩幅は広く厚く当然胸板も厚い。
 ……オートクチュールだろうが洋服が可哀想な気がするほど筋肉が洋服の上からでもわかる。

 この男の手は不器用そうに見えて意外とそうでもない。剣を扱う手とわかる手をしており決して整っているわけではない…肌の手入れなどしていない為ゴワついて荒れているがこの手が心地よい。

 この手は私に触れる時、非常に熱くそして繊細な物を扱う様に丁寧にそして次第に情熱的になる。
 初めて抱かれた日、この男の瞳とこの手に絆されたのだ。そしてこの手を私は嫌いではない。

 キスをする時、この手は私の首筋から耳朶の下を通り顎に触れ私の顔を固定する。逃げることはないのに、自分だけの者だと独占欲を露わにするかのようにするのだ。しかしその独占欲は行き過ぎたものでもある。

 この男はこともあろうに見せつける事で周りの者にわからせるのだ。
「護りきる自信もある。貴男もただ護られるだけの人でもない。」
 こんな事を言われてしまったら……言い返せなかった。私とてα、この男ほどではないがそれなりに優生のαなのだ と話の方向性が変わっているのに気づきながらも黙ってしまった。
 もっぱらこの男に対する私の抵抗はキスする時目を開けたままキスするというものだけにとどまっている。





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