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芸は身を助ける
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今度はレースの手袋を差し出した。
これは絹糸を編んだ物で、他には太めの糸で編んだクッションカバーや室内履きもある。
「この部屋の物は僕が城を出た後、暮らして行くために売る物です。最初はコースターや房飾り等から作りはじめましたが今はこういった大きな物まで作れるようになっています。」
母はあちこちの棚や引き出しを開けて「マァ!」とか「素敵!」とか繰り返していた。
王妃である母の目にかなったとなれば城から出た後もなんとかやって行けるだろう。
「父様、あとは僕が市井で暮らすための知識がいるのです。隣あった家の人との関わり方や品物の売り買いのやり取りが城ではわからないのです。」
目を見張って手元を見る父に再度お願いをすると今度はすぐに頷いてくれた。
「市井の勉強の為にお前が必要だと思う事をするが良い。外出許可や教師はすぐに探してやろう。」
「もう、ここまで自分で考え、進めていたのか」と涙を浮かべて僕を抱きしめてくれる父に、「大丈夫だよ」と僕も父の首に手を回して抱きつく。後ろからも膝を付いて僕の背中を抱えるようにしてきた母にも振り向いてまた抱きついた。
城を出るのはまだまだ先の事だ。今からこんな事ではその時が来たら本当に大変だよ。
…なんて、ちょっと感激してたのに、母の手元にはちゃっかり僕が最初に見せた自信作の巾着があり、おねだりをされた。
そんなに気に入ったのならどうぞ貰ってください。…そのデザインが受け入れられるとわかったのだからまた作れば良いしね。
その3日後には僕に外出許可が出された。先生は爺だった。街に出る時は僕は見習いの小間使いで、爺は僕のお爺ちゃん。という肩書きになった。
ああ、そうだ。実は僕は本当の姿と名前は伏せられている。出回っている僕の姿絵は金髪碧眼で髪は襟足まで。名前だって発表されてるのはシュチュアート・ハイゼル・フランシス・ノエルというやたら長い名前で当然、皆シュチュアート第一王子だと思っている。嘘はついてない。姿だって本当の僕の髪色と目の色を知ってるのは父、母、爺だけだ。
だって、城を出た第一王子がウロウロするのおかしいでしょう?
だから外出する時、僕は本当の姿で堂々と出入りする。爺は最初ハラハラしたらしいけど、僕に「お爺ちゃん!」と言われて戻った。
初めは本当にただ爺の買い物に付き合い、次に自分で買い物をして…だんだん街に慣れていった。
ただ、豆を買うだけでドキドキして怪しまれていないか不安だったのが、今では手慣れたものだ。
「おじさん、3つ買うから銅貨5枚でいいでしょ?」
『なんだって?銅貨8枚がせいぜいだよ。』
「だって今、銅貨7枚しかないんだよ。」
『7枚しかない?子供から全部金取るなんて出来やしねーし…。わかったよ5枚だ!だけどまた買えよ?』
「やった!ありがとーおじさん!」
ね?馴れたでしょ!?
これは絹糸を編んだ物で、他には太めの糸で編んだクッションカバーや室内履きもある。
「この部屋の物は僕が城を出た後、暮らして行くために売る物です。最初はコースターや房飾り等から作りはじめましたが今はこういった大きな物まで作れるようになっています。」
母はあちこちの棚や引き出しを開けて「マァ!」とか「素敵!」とか繰り返していた。
王妃である母の目にかなったとなれば城から出た後もなんとかやって行けるだろう。
「父様、あとは僕が市井で暮らすための知識がいるのです。隣あった家の人との関わり方や品物の売り買いのやり取りが城ではわからないのです。」
目を見張って手元を見る父に再度お願いをすると今度はすぐに頷いてくれた。
「市井の勉強の為にお前が必要だと思う事をするが良い。外出許可や教師はすぐに探してやろう。」
「もう、ここまで自分で考え、進めていたのか」と涙を浮かべて僕を抱きしめてくれる父に、「大丈夫だよ」と僕も父の首に手を回して抱きつく。後ろからも膝を付いて僕の背中を抱えるようにしてきた母にも振り向いてまた抱きついた。
城を出るのはまだまだ先の事だ。今からこんな事ではその時が来たら本当に大変だよ。
…なんて、ちょっと感激してたのに、母の手元にはちゃっかり僕が最初に見せた自信作の巾着があり、おねだりをされた。
そんなに気に入ったのならどうぞ貰ってください。…そのデザインが受け入れられるとわかったのだからまた作れば良いしね。
その3日後には僕に外出許可が出された。先生は爺だった。街に出る時は僕は見習いの小間使いで、爺は僕のお爺ちゃん。という肩書きになった。
ああ、そうだ。実は僕は本当の姿と名前は伏せられている。出回っている僕の姿絵は金髪碧眼で髪は襟足まで。名前だって発表されてるのはシュチュアート・ハイゼル・フランシス・ノエルというやたら長い名前で当然、皆シュチュアート第一王子だと思っている。嘘はついてない。姿だって本当の僕の髪色と目の色を知ってるのは父、母、爺だけだ。
だって、城を出た第一王子がウロウロするのおかしいでしょう?
だから外出する時、僕は本当の姿で堂々と出入りする。爺は最初ハラハラしたらしいけど、僕に「お爺ちゃん!」と言われて戻った。
初めは本当にただ爺の買い物に付き合い、次に自分で買い物をして…だんだん街に慣れていった。
ただ、豆を買うだけでドキドキして怪しまれていないか不安だったのが、今では手慣れたものだ。
「おじさん、3つ買うから銅貨5枚でいいでしょ?」
『なんだって?銅貨8枚がせいぜいだよ。』
「だって今、銅貨7枚しかないんだよ。」
『7枚しかない?子供から全部金取るなんて出来やしねーし…。わかったよ5枚だ!だけどまた買えよ?』
「やった!ありがとーおじさん!」
ね?馴れたでしょ!?
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