Ωの僕がお偉いさん

サミュの大冒険……裏側

　私は影の中の1人。位置的には中堅クラスだろうか。現在の私の任務は『サミュを見守って』というノエル様の希望のもと動いている。勿論サミュエル様は私達が常に見守っている事は知らない。……その代わりカドラさんは知っている。
　さて今日のサミュエル様は何か様子が変だ。朝からソワソワしているし､ノエル様お手製ポシェットコレクションを並べて考えている。……まるでお出掛け前のようだ。

　しかしまさか？と思ってしまう。何故ならサミュエル様は大の人見知り。もはや対人恐怖症ではと思ってしまうほどだからだ。まぁここ最近はマオのせいでだいぶ慣れてきたように見受けられる。
　だがその“まさか”が起こった。あのサミュエル様がマオにお使いを頼んだ後お出掛けの用意をはじめたのだ。……マオは後でお仕置き決定だ。あんなあからさまな様子を見過ごすとは。

　行き先は中央市場だった。仲間の影を使い私達を統轄している爺やさんに連絡を入れる。その間にも私の応援要請に答えてあちこちに影が現れて見守りは続いた。そう､あくまでも『見守り』なのはそれがノエル様の希望だからだ。

　そっと町人に変装した影がサミュエル様の後ろに着いた。何か独り言を言っているらしく手信号で伝えられてくる。えっとナニナニ……
　『串肉、コロッケ、ジュース』『買い食いの大冒険』

　なるほど、サミュエル様にしてみればこの“お買い物”は“大冒険”らしい。しかしその大冒険の戦利品はマオがよく買う食べ物ばかりだ……いや、そこしか行けないもかもしれない。
　おや？止まってしまってる……動かないな。
サミュエルを追い越して２組の客が去ったが？あ、こっそり店主に影の1人が耳打ちした。


　よかった。ここに来て緊張して声をかけられないってどれだけ人見知りなんだ。串肉屋は隣のコロッケ屋にもそれとなく話を振ってサミュエル様が頼みやすいようにしてくれた。まぁ店主達の口車にのせられて串肉もコロッケも多めに買ったようだが。
　うんうん、ちゃんと公園のベンチで食べている。お？いつの間にかジュースは手に入れたようだが……ああ、あのジュース屋はΩの定員がいたな。やはり気安いのだろうか。

　ちゃんと買ったものを残さず食べたサミュエル様はだいぶお腹いっぱいのようだ。しかしこれで満足だろう。
　ん…そちらは領主館方面ではない。方向音痴か？いや、もう一度中央市場の中に戻るな？

　偶然にも影の1人にサミュエル様は道を聞いた。
なんだろう影の者は首をしきりに振っているな。しかし通りすがりの子供が『アッチ』と指を指してサミュエル様の手をとって歩きだした。影の者は必死で止めてるようだが？あ、こちらにも手信号で『阻止』と合図が送られた。

　我々は風のごとく動いた。もはや疾風と言っても差し支えない速さだったと思う。
　何故なら手信号で『トークトーン』と送られたからだ。　
　高級フルーツという分類にあるが決して室内で切ってはならない。その匂いは5件先の家の中までも届き、その汁が手につこうものなら3日は臭いがとれないとされている。その臭いはまるで真夏の暑い部屋に生ゴミを4日程放置したようだとか。

　結果は我々の勝利だったと伝えよう。多大なる犠牲をはらった苦い勝利ではあるが。