Ωの僕がお偉いさん

教育のなせるわざ？

　サミュエルはいわば生粋の王族。僕みたいにΩだからと地位を追われる事もなく王弟として、また王族の中では守るべき者として大事に育てられ囲われてきた。そう、人見知りだからと公務を全うせずにいてもだ。でもそんなサミュエルでも王族としての教育はきちんとされていた。カドラさんと番になってもずっと一緒にいる事が許されないのではないかと悩むくらいには行き届いていた。
　サミュエルのどこか切なそうな思いというのはここから来ているらしい。

　だからこの婚約話はサミュエルにとってはまだ良い話なのだ。だってローランドとは本当に契約結婚で構わなくて、結婚式でのキスも額で良く、初夜は途中でカドラと入れ替わって問題ないと。
　正妃の椅子に居て本当に必要な行事だけエスコートされれば問題ないらしい。

　ではうちの国はそれでメリットがあるのか？といえばある。有りすぎるくらいにはある。
　１つ目、王弟が嫁ぐのだから国間の強い結び付き。今ですら母様との縁えんで強いのが更に強く。
　２つ目、ローランド事態がトータ意外とベットを供にしたくない以上、それを納得して嫁に来て貰わないといけない。だけどそれは現実的に無理だった。（これまでも一応は候補として令嬢数人には打診済み→馬鹿にするなとお断り。……でしょうね。）家柄、血筋、あまり煩くいわないけど正妃となるとそれなりには必要だから。
　そして最後、僕との関係性。正直ここで僕がネックになるとは思ってなかったけど、色々と規格外の僕を疎ましく思う様ではダメ。これらをクリアする事がどんなに無茶苦茶か……。

　そしてこれらがクリアできても最後の問題にトータの存在がある。大抵の場合、納得尽くしで嫁に来ても悪い言い方をすれば春を売ってたトータとその子供に敬意を払って生活して……って普通の貴族令嬢には厳しいでしょう。しかも夫である人の興味は自分に無い。それを周りも承知ってどんな拷問だよって話だ。
　
　……ハァ。正直こうやって考えるとサミュエルの存在が奇跡に感じてきた。
　たぶんサミュエルはカドラさんと離れないという事が一番大事なんだろう。あ、そうそう。こっちにサミュエルが来ると決まればカドラさんは公爵の位で迎い入れる。一代限りなんだけど。お仕事は国中の船大工の教育を任せるらしい。それってうちの国にとっては願ったり叶ったりだ。

　そしてトータも喜んでいる。今までの婚約話の結果、もうトータを正妃にという声も出始めている中で必死に『愛人で！！』と逃れ続けてきたがそろそろ限界が近かったらしい。サミュエルのお嫁入りともなれば『フールフーガから来た正妃を気遣って側室はしばらく無し』と言えば5年は持つだろう……だってさ。トータ、けっこう計算高くなったよね？こういう所だけ。
　この5年くらいの間にトータがローランドとの子を1人産めれば更に良いけど。

　「あ～、トータの子供なら大歓迎ですね。」

　と呑気にサミュエルは言うけど、それには色々と根回しが必要なんですよ？

　「根回し？カエデの事もある？カエデの事なら大丈夫だよ？一から十までカエデには全部教えているから、カエデからは『自分の存在は貴族社会とは無縁で！』って釘刺されてるよ。」

　え、全否定？って一から十までって父親の事も？
『もちろん！』って胸はって答えないでよ。いや、気遣いがちょっと減ったけど、それはそれでカエデが気の毒だ。だってトータの事だから歯に衣着せず伝えたんでしょ。