Ωの僕がお偉いさん

コッソリと。

　……あくまでもこれは機密事項です。皆さん方よろしいですね？と釘をトントンしておいたにもかかわらず、大きな声で｢ノエル様～！」って叫ばない！
　もう一度確認しますよ？《罪人引き渡しは国の重要機密事項》ですよ。なのでたった今から港に停泊中のフールフーガの護衛艦【フェニックス】に載せるところなんて言っちゃいけません。

　大型の護送用馬車にぐるぐる巻きにされた罪人達を1人1人積んでいく。間違いじゃありません……積んでるのです。一番下の人は苦しいんじゃない？
　目隠しされて口枷もはめられたままだけどこんな扱いで良いの？…あ、良いんだ。
　これから長旅になるんだからちゃんと食事はさせた？トイレは行かせた？この人達の着替えは？

　色々と言っていたら爺に口を手でふさがれた。

｢ノエル様、あなた様は何かと優しすぎる様です。よろしいですか？あの者達は反逆者として処断されます。王族殺害容疑どころか　“王妃暗殺未遂として王妃様の実家のフールフーガに犯人確保の協力を要請し、見事に提督が捉えた”　のでしょう？！」

　そうだった、そうだった。真実はどうであれ反逆者な事に違いは無い。この罪人達は全部で9人…中にはサムスプリング元領主のように貴族だった者もいる。サムスプリング元領主や一緒に逃げてきた人達は一度、刑が執行された身なので今後の事を知ってる自分としてはつい哀れに思って優しくなってしまった。

　知らないで良いと言われていたのにどうしても気になって、｢あの人達の扱いは雑用係って聞いたけど大丈夫？」って、さっきマオに聞いてしまったんだもの。雑用係じゃ逃げる可能性あるんじゃないかと思って聞いたんだけど、その可能性は無いだろう。

｢ノエル、“海賊の雑用”って言うのは普通の雑用係じゃ無いんだよ？確かに洗濯や食事の片付けや掃除もあるけど、乗組員の夜のお相手でもあるんだ。しかもあの【フェニックス】は普段は港に入る事はない艦だからあの人達は死ぬまであの艦で雑用係だよ。【フェニックス】は港に入らない分、乗組員のお相手は大変でね…1年保たないんだ。」

　なんて知ったものだから……ごめんなさい。
爺の大きなため息が聞こえた後、僕の口元から手がはなされた。
　……いいからアーノルドはちゃんと偉そうにしててちょうだい。こっち見て微妙な顔にならないで。

　一応この引き渡しは非公認としているけど、手続きや書類は正式なものだ。この場に王こそ居ないものの、王族の僕が居るので王の名の下に行われた。
こうなってみると呆気ないもので、騒ぎの元になったアポリンヌは逃亡中に刑の傷が悪化し亡くなった事も判明している。
　ガラガラと動き出した馬車の速度は遅く、僕たちは徒歩で【フェニックス】へ向かった。