Ωの僕がお偉いさん

その頃

街中では…。
　
「おい、なんか領主様が大変らしいぞ！」
「ああ、さっき俺の知り合いが領主様が浚われた所を見たらしい！」
「役所に知らせに行くから街の皆に声かけろ！」

　あっという間に街中はノエルを探し回る人間でいっぱいになった。
　爺がノエルを探しているのを知った街人達は自分達から手足となって彼方此方に知らせに走った。

　街人からの知らせで隼ハヤブサがありったけ王都に向けて放たれ、その数を見た人の中には隼がこんなにいたんだと感心する者もいた。

　街人が領主館に飛び込んでから間もなくアーノルドが4人の護衛のみで飛び出した。いつもはきちんとセットされた髪型に整然と並んで馬を歩かせていたアーノルドだったが、今は手につかんだマントに後ろで1つに結んだだけの髪、護衛も上着に袖を通しながら馬を走らせていた。

　それを見た何も知らなかった街人までもが“ノエル様に何かあったんだ！”と悟り情報を集めに走った。

　ノエルは今までの改革で低所得者、Ω、肉体労働者の処遇改善を進めてきた。そしてそれはその人達がノエルを領主として認める事に繋がる。更にいえばこの処遇改善に恩恵を受けた本人または関係者は総数の7割を超えている。
　つまり……街中の人間が一斉に1人の人間を探し始めた。

　街の記録に残るくらい一致団結して、協力し合い工事中の建物から廃屋、倉庫、空き家と次々に調べ捜索が終わった所には印をつけて効率的に行われていった。
　驚きなのは誰も指示してないし、その中にαがいて手本を示した訳でもない。しかもその方法を取り始めた最初の3人はなんと、寄宿学校に入学したばかりのΩの生徒だった。

　爺は始め隠密に動くつもりだったが街中の騒ぎに乗じて動くことにした。命令したわけでもないのに街中の動きが次々と伝わってきて、とうとうノエルが監禁されているであろう場所さえ突き止めた。
　……そして3人の怪しい動きをするよそ者のβの情報も掴んだ。

「“馬の尻尾”っていう酒場に変な奴がいるんだ。」
「どんな奴だ。」
「皆が騒いでいる子供は何なんだ？って聞いてきたんだよ。ノエル様を知らないのに子供にみえるっていうのを知ってるんだ。」
「よそ者なのは確かだな。この街の人間ならノエル様の事は赤ん坊だって知ってるさ。」
「そいつら3人組のβか？」
「ああ、…知ってるのか？」
「さっきあっちの“緑の杯”って飯屋で“いなくなった子供”の情報くれって言ってたぞ。」

　話をしていた街人達は顔を見合わせると、1人は役所に走り1人は屈強な仲間を集めに、残りの3人はよそ者を探しに“馬の尻尾”に向かった。

　……そうして呆気なく誘拐犯の3人は捕獲された。屈強な者を探しに行った街人が見つけたのはアーノルド達だったためその場で尋問も即座に行われ、領主と知っての犯行ではない事、残りの犯人は2人のαだという事、目的は金だという事、どこにノエルを監禁しているか等次々と暴いていった。