集団転移ですよ。

教師:宮田

　ウルと話をして宮田は久々に担任教諭の感覚を取り戻した。クラス担任として大勢の生徒と接していたあの時の感覚だ。眼の前にいた男は自分の教え子の保護者で日頃から冒険者とは思えない落ち着いた冷静な大人だと思っていたが…なかなか、どうして..可愛いところがある青年のようだった。
　ウルは本当にジュンを愛しているようでトラウマを知った時は自分が怖い思いをさせたのだと落ち込んだが少し話しているうちに気を取り直してジュンの元へとかけて行ってしまった。
　なんとも甘酸っぱい青春の一片を見せつけられたようでなぜか自分のほうが照れてしまう。今もつい思い出してはニヨニヨと薄笑いが浮かんで来るが、気を引き締めねばいけない。そう、何故ならあの生徒達には保護者からは絶対でないお説教が必要なのだから。


　「全員、正座!!……………川崎先生、貴方は椅子へ。キチンとひざ掛けかけて。」

　翌日、久しぶりに教師として皆の前に立った。自分が来てから今までこちらに渡って来た生徒たちは1人、2人づつが殆どだったせいかここまでやらかした者はいなかったのだが、団体の悪いところが出たと思う。いや……能天気者とお調子者が揃ったせいか?

　能天気者は言わずと知れたナオとジュン。お調子者とは一学年下の筈のゴツイトリオの事だ。じつはこのトリオは先生の間ではちょっとした注意人物なのだ。素行の問題でも学力の問題でもない。ガタイの割に子供っぽいので注意人物なのだ。入学早々この3人はクラスでモノマネをしてふざけ、ワチャワチャした結果派手に躓き転び近くにあった椅子の脚を曲げてしまったのだ。…あの、学校の椅子だぞ?会議室のパイプ椅子じゃないぞ。まぁそんな訳であのトリオはお調子者と言われていたのだ。

　「全員、なんでここに呼ばれたか解っているよな?!」

　正座と椅子の眼の前の問題児達に目をやる。この際、川崎先生も一緒だ。なんせ大学を出たばかり、まだまだ一人前の社会人とはいいがたかったから同じ扱いしやすい。

　シュンと項垂れる6人に問えば「ハイ。」と返ってくる。
「ナオ、言ってみろ。」問えば小さな声で答えはじめた。

　「……えっとぉ…気を抜いたから。」

　完結過ぎる。すぎるが、まぁ突き詰めればそうだ。

　「そうだ。ここは日本じゃ無い。この町にいると視覚のせいで錯覚を興すが」

　チラリと外に目をやる。如何にもな学校の校庭とその向こうに『好き屋』と書かれた丼物屋、横には赤い髪に黄色いつなぎ服のピエロの人形と『サイコロPIZZA』という看板……バグる。正直、仕方無いと思うのだが、誰かが説教しなければいけない。

　「ここは安全な世界じゃ無いんだ!」特に!…とトリオに向かって「お前等、自覚が足りない!」と一喝。雰囲気からナオとジュンはもう保護者を受け入れていてここを出ていくのも近いのではと思っている。だがトリオは保護者を日本でいう保護者としての役割の人間と見ていてもこの世界の意味の保護者としては受け入れきれていない。

　「実例が眼の前にあるだろう」と川崎先生を見る。気を抜いて……というか何も気にせず呑み酔って軽口に乗った結果がコレだ。