夢は果てしなく

白いモフモフ

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エルバルド

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 穏やかな暖かい陽射しのなかで作ってもらったハンモックに揺られて本を読んでいた。古いミステリーで、子爵家の御曹子が事件を解決していくシリーズものだ。言い回しが古い時代のもののせいか殺人場面とかでもグロテスクさが一切感じ取れ無い。

『凍てつく氷の霧雨が彼の人の心を奪い、過ぎ去り日の緩やかな風が手を繋ぎ、やがて沈黙が訪れた。』

 なんて、どこをどう読んだら殺人場面になるのか解らない。でもそのお蔭で恐がりの自分でもミステリーが読めるのだからありがたいのだけれど。

「ルカ様、おくつろぎのところ大変申し訳ございませんが……、その……お会いしたいという者が……。」

 マーガレットさんにしては珍しい。今日は面会の予定はない。ガブリエルやリアン他、数名の仲良しの人ならこんな歯切れの悪い言い方はしないだろう。何かお知らせとか推薦者を集めての講習やお話なら事前通告があるはずだし……。まさか、上の位の人からお呼びだし?いや、なにもしてないし。それにそういう事ならマーガレットさんはちゃんと言うだろう。
 思い当たる事がなく?マークを飛ばしているとさらに言いにくそうに言葉を繋いだ。

「……なんでも…ルカ様のお兄様だとか……。でもルカ様からはご家族は居ないと伺っておりますし……。」

 ………………あぁ、なるほど。エルバルドだ。
ここに来てから僕は表情のコントロールが下手になっていた。だからエルバルドだと思った瞬間、それが表情に出てしまったらしい。

「お断りいたしますね。」

 ニッコリと笑って大丈夫ですよと引き返していくマーガレットの後ろ姿にため息をついてしまった。
ここに居れば守ってもらえると思う安堵感……でも、嫌っていた僕をわざわざ訪ねてくるなんてと思う漠然とした不安感が相まってため息になったのだ。



 その数日後、僕の目の前にエルバルドが現れた。不安が現実になってしまった。
 池の魚を眺めながらお茶にしていたとき、僕の肩掛けが風に飛ばされてしまい、付き人として側にいたタロが慌てて追いかけて行った時だった。

 突然現れたエルバルドは憎々しげな目で僕を頭の先から爪先まで眺めた。そして腕を組んで頭を反らし僕を見下ろすと、冷たく言いはなった。

「随分と優雅な生活をしているようじゃないか?まったく…今までの恩も忘れて知らん振りとは中々良い性格をしている。本当にお前は恩知らずで恥知らずだ。」

 それだけ言うとサッと居なくなったが、立ち去った後もエルバルドの目と言葉は心に突き刺さったままだった。

「お待たせしました~。ルカ様の肩掛け、ちゃんと拾って来ましたよ。これ、軽いからもうちょっとで屋根に引っ掛かっちゃうところでしたよ~。
……あれ?どうかなさいました?ちょっと顔色悪いかな?大丈夫ですか?もう戻りましょう。」

 手をとって支えるようにしてくれるタロにつれられて館まで戻った。
 戻ってすぐ迎えてくれたマーガレットに様子がおかしいと気づかれて、エルバルドに会った事を話してしまった。そしてマーガレットはガブリエルとリアンに来てもらい僕を任せると、ちょっと調べて来ると言って出ていった。

 次の日、僕宛の手紙が届いた。僕はよく考えもせずに後宮の外から来た手紙をまだ帰ってきてないマーガレットからだろうと思って封を開けて読んでしまったのだ。
 手紙はコントワール家の本妻さんからのものだった。
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