夢は果てしなく

白いモフモフ

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旅立ち

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僕の名前はルカ。今日で15才になった。僕の母は愛人として連れてこられ僕を産んですぐに亡くなっているため僕は使用人として置いてもらっていた。
 だけどルカという名前以外の全てを取り上げられたところだ。

今朝、珍しく本妻さんから呼び出しがあった。伝言は『いつもの用事を全て片付けてから10時にサロンへ来なさい』というもので…いつもの用事とは本邸の暖炉の灰かきと薪足し、各寝室の下用の壺片付け(トイレ代わりの壺。夜中の諸用はこれにする)等の誰もやりたがらない仕事だ。

 僕のお父さんは男爵家の跡取りだった。領地の視察中、畑仕事中のお母さんを気に入って連れてきてしまったらしい。お母さんの家は一人息子をとられては大変だとずいぶん抵抗したけど結局は連れ去られ、来た後は本妻さんに虐め抜かれて僕を産むと同時に亡くなったと聞いた。
 聞いた話全てを鵜呑みにするのはいけないと言う人もいるけど、本妻さんの僕に対する態度をみると多分本当だろう。それらしい嫌味を言われるし、本妻さんの子供2人にも『愛人の子』と呼ばれている。

 こんな目にあいながらも僕には他に頼る所も人もいないのでここに居るしか無かったけど、成人の15才になった今日に呼ばれたという事はもうここにすら居られないのだろう。それならばもう仕方ないと思う。あまり遅くなると罰を受けるので暖炉の掃除だけ済ませて10時にサロンへ行った。

「お前はもうここには居られないよ」

 サロンの入り口で壁に寄りかかり腕組みしたままニヤニヤと笑い本妻さんの上の息子が教えてくれた。金髪の豪華な巻き毛の彼は19才。背が高いけど細いせいであまり迫力はない。金髪、碧眼のどこかの王子様みたいな容姿が自慢の跡取りだ。こんな風に僕をネチネチと苛める事が大好きで嫌がらせをしょっちゅうされていた。
 ここに彼が居る理由はドアの外で僕が言われる事を聞いて楽しむ為だろう。



「お前はもうここには居られないよ」

 中に入るといつものように憎々しげに僕を睨む。でも今日は機嫌が良いのかそのまま口角を少しあげると、部屋に入る直前に言われたばかりの言葉を本妻さんから言われる。本妻さんは数少ない女性なので大切にされていて、その発言力はとても大きい。 

「お前のような子供を今日まで置いてやったんだ。感謝しなさい。私のように心が広い人間じゃなけりゃお前なんてとうにゴミクズだよ。」

 苦々しく汚い物を見る目で僕を見ている。そういえばこの本妻さんはさっきの跡取り息子と容姿が似ていないなぁなんてぼんやりと思う。年嵩の使用人が言っていたっけ “奥様は女性で本当に良かった。女性っていうだけでどんな顔でもお貴族の正妻様だ” と。どんな顔でもと言われる程、本妻さんの顔は可笑しくは無い。でもちょっと顎がしゃくれて鼻が鷲鼻だ。
 本妻さんは元は街の商人の娘だったらしいけど極端に女性が少ないから貴族が自分のステータスとして傍におきたがる。

 僕が嫌われてる理由はそこだ。本妻さんは女性というだけで男爵家の本妻になったらしい。お父さんは貴族の見栄として本妻さんを貰ったので愛情というのはあまりないけど好きにさせている。そんな中、無理やり連れてきた僕のお母さんはとても美人だったらしく、本妻さんはずっと嫉妬していたらしい。

「何をボォーッと突っ立てるんだい!さっさと今までのお礼を言わないか!母親そっくりのその顔でいくらでもやっていけるだろうさ!」

 反応が遅れた事に苛立ちが募ったのか手に持っていた扇子を投げつけながら言われたがここでよけてしまうと生意気だと言われ顔が腫れるほど打たれるのでじっと我慢する。
 続けて紙が僕の足元に投げられた。本妻さんを見ると満足げにそれを拾えと顎で示されたので拾い見ると、それは絶縁状だった。

〔コントワール男爵家とウサ村のキリカの子、ルカとは今後何の縁もない。これを受け取り次第、早急にコントワール男爵家を出て行き今後はコントワール男爵家の使用人だったと名乗る事も禁ずる。〕

 予想していたよりも更に酷い仕打ちだと思った。仮にも男爵の血を引く子供を使用人と呼んで庶子だとも認めないとは…。だけど初めて自分の母親の名前と出身地を知る事ができたので小さな希望ができた。もしかしたら祖父母に当たる人に会えば何か良いことがあるかもしれないと思ったからだ。でもそれは本妻さんの言葉ですぐに消えた。

「嬉しそうだねぇ。祖父母に会えるとでも思っているのかい?お前の祖父母はもういないよ。お前の母親を取り返そうとした罰で処刑したからねぇ。……なんだいその顔は。高貴な血の人間に楯突いた卑しい農民は罰せられて当たり前だろう?お前の母親はそれを止めようと醜い大きな腹で私の前で泣き喚いたねぇ。お前はどうするんだい?」

 一瞬で消えた希望に淋しさを持ちながらここで何か反応すれば余計に酷い目に遭うと知っているので無表情で本妻さんの望んだ“今日までありがとうございました”とだけ告げて部屋を出る。背中でドアが閉まった瞬間に本妻さんの高笑いが聞こえてきたけど感情を押し殺した。そしてドアの外で聞き耳を立てていると思った跡取り息子がそこに居なかった事に安心した。

 
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