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突発性は予想外

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 それは本当に突然に来た。
 微かに甘く、優しい。それでも強烈な印象を受けるような香り。どこから香っていているのかと周りを見渡してしまう。

 病院の独特な消毒液の匂いや、エアコンの風に散らされてしまいながらも気になって仕方ない。

 隣に座る四季はこの香りには興味が無いようで、窓の外に映る雲の形が恐竜に見えると嬉しがっていた。
 そこに看護士が四季を呼びに来た。

「四季君、今日はこれで終わりね。お兄ちゃんに、お話はしておいたから、帰ってから良く聞いてね。
はい。お疲れさまでした~。」

「うん。ありがとうございました。空お兄ちゃんもお話ありがとうございました。」

 椅子から降りて看護士お礼を言うと、空に向かって、ちょっと改まった感じで頭を下げながらお礼を言う。

「ううん。こちらこそ、お話相手になってくれてありがとう。またね~。」

 と手を振りかえした。小走りでお兄さんが待っている方へ向かう姿に、可愛いなぁ…という思いと同時に、あの子の生活がこれからも変わらずにいられるといいな。と思わずにはいられない。


 四季を見送ると、あの気になる香りはいつの間にか消えていた。
 でも、明らかにあの香りを嗅いでから、なにか自分の中で変化が起きているのがわかった。

 ドクン…。ドクン…。心臓の音が大きくなったように感じる。動悸が激しくなりはじめた。
 熱が上がったのか、頬が火照り頭が重くなる。冷や汗のようなら脂汗のようなどちらともつかない嫌な汗が首筋を伝う。

 これはダメだと感じて、周りに看護士が居ないかと顔を上げる。ちょうど目の合った看護士さんが駆け寄ってきてくれた。

「キミ、大丈夫?ちょっと様子……。とりあえず、処置室行こう。」

「車椅子、乗れる?ゆっくりで良いからね。鞄、これね。辛いだろうけど、返事返してねー。」

 あっという間に2人の看護士達に車椅子に載せられ、近くの処置室に連れて行かれた。
 


 処置室に着くと、しばらくして先生が呼ばれてきた。いつも診て貰っていた先生と違う。

「こんにちは。空君、発情期が来ちゃったみたいだから、今日はβの先生達じゃない方が安心だよね?」

(やっぱり、そうなんだ。でも、どうしていきなり?)

 先程の看護士達は空の様子からすぐにΩのスタッフで対応するべきと判断したらしい。

「初めての発情期は不安だろうけど、此処は絶対にキミを守るから大丈夫!」

 初めて診てもらう先生と看護士さんに、緊張したが、此処にいるスタッフは皆Ωだと聞き、一気に体の力が抜ける。
 あまりにひどい発情の香りはβですら誘ってしまうが、Ω同士はそうはならない。

 
 予測されていなかった突然の発情期に、検査をする事になった。それと同時に弱めの抑制剤を点滴で打たれる。

「検査の結果出るまで少しかかるし、突発の事で疲れたでしょ?眠っててね~。」

 点滴に抑制剤以外の薬も入っていたのか、眠気がひどい。安心できる場所だと知っていたため、ストンと眠りに落ちた。












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