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不安げな子

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 電光掲示板に記されていく番号を見つめながら、通い慣れた部屋の中に浮いた存在に目を止めた。
 まだ幼い子供。落ち着かない様子でビクビクしているようだ。

「どうしたの?誰か探してる?」
その様子が可哀想になり声をかける。
 そっと声をかけたつもりだったが、ビクッとしたのを見ると驚かしてしまったようだ。

「あ。……ごめんなさい……。お兄ちゃんを待ってます。」
小さな声で答は返ってきた。

「驚かせてごめんね。ちょっと心配だったから声かけたんだ。大丈夫?」

「ありがとうございます。初めての場所だし、1人になることがあまり無かったから…。……あの、此処はΩが安心して居られる場所だって、本当ですか?」

 やはり1人で不安だったみたいだ。お兄さんが迎えに来るまで一緒にお話しようとその子の横に座る。
ピタッとくっ付いてきたので人懐こい可愛い子だと思う。
 
「うん。ここのお医者さんも看護士さんも優しい人ばかりだよ。君もΩなんだね。」

「お兄ちゃんは、僕に絶対に1人で外行ったらダメっていうの。外は危ない事ばっかりだから。でもこの場所はお兄ちゃん、あまり入ったらダメなんだって。」

だから、1人で頑張らなきゃいけないと一生懸命らしい。

 そうか、この病棟はΩ専門だからこの子のお兄さんがΩ以外ならば一緒にいるのは難しい。
 いつ発情期の患者が運び込まれるか解らない場所だ。そのためこの病院は外に別性の人が居られる待合い所を用意している。お兄さんはそこにいるのだろう。

 そもそも、Ωは親からも見捨てられるのは当たり前にある為、この子のようにお兄さんに守ってもらえる方が珍しい。
 
 この子のお兄さんが優しい人で良かった。
自分や一般のΩの生活を思うと、せめてこんな小さな頃くらいはΩだと知らされず過ごしたかった。
 ふと、そう思ってしまった。

 その子は四季という名前らしい。自分は空という名前だと教えると、屈託のない笑顔で「目の色と同じ名前なんだね~。」という。

 ……そう。僕は、まだ家族の1人として可愛がられていた頃、この目は母のお気に入りだった。

 忘れていた懐かしい母の香りを思い出す。父の腕に抱かれ、母の首筋に抱きついて、弟ではなく自分を抱っこしろと甘えた。
 おそらく、家族として過ごした最後の時だろう。

 四季君のおかげで、思い出すことができた貴重な記憶だ。
 自分の目が少し潤んでいるような気がするが、四季君がニコニコとしているのでその様子にホッとした。
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