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3話 『何事においてもやっぱり見た目で判断はダメだよね』
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右を見ても左を見ても畑が広がる畑作地帯を通り抜け、だんだんと民家や商店が多くなってくる。
取れたての野菜の直売をする店もあれば、メルロー産のミルクやそれを加工したチーズ、アイスクリームを売っている店もある。
村の人達の喧騒の中を衛兵の案内で歩いているとある場所で衛兵が立ち止まる。
「ここがこの村のギルドになります」
「これって......」
「ジャパーン?」
そこは伝統的な雰囲気の漂う木造建築の建物だった。
屋根には黒光りする瓦、玄関前の小さな庭には松のような植物が生えていて、小石を敷き詰めた池もある。
何処か懐かしい感じがする日本風の建物に真琴が呆然と固まり、煇がわざわざ日本を英語に直して少々格好つけたように変な発音で呟く。
チーズとかも普通に売ってたし、見たことのない野菜もあったけど大体は人参とかトマトとか見慣れた野菜ばかりだったし、異世界だからと言って必ずしも元の世界とガラリと異なるって訳ではないのだろうか。
扉を開けるとそこも畳や襖の和風な様相が...と言う訳ではなく、内装は外観とのギャップを感じさせる洋風な印象だ。
正面にはカウンター、すぐ横には数人の人が集まる掲示板、そして雑談やパーティー間の相談用のテーブルと椅子がいくつか備え付けられている。
外観を和風にしたんだから内装も合わせろよ!?とツッコミたくなるが、異世界だから仕方ないのだろうと諦める。
ギルドとはいわば仕事を提供する場らしい。
依頼主が出す依頼というモノがあり、その内容が羊皮紙に印刷され、カウンター横の掲示板に貼られる。
ギルド職員が求める素材のレア度とか倒す魔物の危険度とかを調べてそれに見合った報酬の基準を定め、それを依頼主が納める事で依頼として成立する。
頻繁には出現しないがギルド自体が依頼主となる報酬がズバ抜けて豪華で複数のパーティーが協力して挑む大型依頼というモノもあるそうだ。
何でここに案内してもらったかというと、真琴が「お金を稼ぎたいんですよ』と衛兵に話したら「それならギルドですね」と教えられてここに来たのだ。
ギルドについての説明も道中で聞いたものである。
早速、掲示板の前へと向かう。
主に多いのは魔物討伐の依頼だ。
戦力を持たない人口は結構多く、そういう人達は魔物に一方的に蹂躙されるしかない。
街に甚大な被害が出ることや作物がダメになるのを恐れて依頼を出して熟練の冒険者たちに解決してもらおうとする人達も少なくないのだ。
しかし、
「おっ、見ろよ!ミノタウロス討伐だとよ!!報酬めっちゃ高そうだしこれにしようぜ」
「なぁぁにを言ってるんですか!?これSランクの依頼ですよ!?戦闘力もない私たちが行ったら死んじゃいますよ!」
明らかに危険度がヤバそうな依頼に手を伸ばす煇を真琴が顔を真っ赤にしながらパシンとはたく。
そう、俺たちには戦う術がない。
武器を持っていないのもそうだが、そもそも戦闘訓練を受けていないので誰かに教わらない限りは討伐系の依頼は受けられないだろう。
教えてくれる人の心当たりなんてあるはずがないから、こういうのを受注するのはしばらく後になりそうだな。
いや、ずっと受注出来ないかもしれない。
ちなみに依頼にはランク分けがされていて大まかにはS、A、B、C、D、Eとなっている。
Sが最も危険、あるいは難しく、Eが最も安全で容易となっているらしい。
「それよりもこっちの採集系の依頼の方で探してください」
真琴が先程まで見ていた上半分とは反対の下半分に煇の頭を無理矢理固定させる。
下半分に掲示されているのは戦力をほとんど必要としない採集系の依頼だ。
強力な魔物が住み着いていたり、地形があまりに危険だったりする場合は別だが基本的に何か特定のものを一定の数集めるだけである。
危険度が少ない分、報酬は少なくなるが戦う術がなくてもお金を稼げる。
他にも雑用系依頼なるものも戦力を必要としないものの一つだ。
この村だと畑仕事の手伝いとか牛の世話などが見受けられる。
こんな依頼を受けてみるのも面白いかもしれない。
「おや、見かけない顔ね」
掲示板の前にじっと居座っていると背後から声がかかる。
柔らかくどことなく安心する響きに振り向くと白髪をお団子に纏め、パステルピンクのエプロンをかけたお婆さんが微笑んでいた。
さっき声は恐らくこの人のモノだろう。
そして、何故だが隣に立つスキンヘッドで顎の立派な髭を揺らすお爺さんは対照的にムスッとした表情で腕を組んでいた。
「はっ、筋肉が全くなってねぇ。そんなんで討伐依頼とかふざけるのもいい加減にしろ」
真琴や煇の頭からつま先を視線でジロリとなぞり、軽く鼻で笑って不機嫌そうに煇....だけじゃなくて俺たちを睨みつけるお爺さん。
いや、待て。俺と真琴は悪くないと思うんですが。
「心配しないで。この人、すっごく救いようのないくらい口が悪いけど、本当はあなたたちが心配でオロオロしてるのよ」
「お、おいっ!メイシア、俺は別にそんなんじゃねぇぞ!?ただこいつらが気にいらねぇだけだ!!」
固まる真琴たちにお婆さんが小声でほわほわと説明をすると、お爺さんの瞳に焦りがよぎり、一気にまくし立ててからプイッとそっぽを向く。
耳がほんのり赤く染まっている。
「「ツンデレかよ(ですか)」」
「お前ら、その言葉の意味はわからねぇがすげぇバカにされてる気がするぞ!?」
「「誰得だよ(ですか)」」
「絶対、バカにしてんだろ!?その意味を教えろ!」
まさかツンデレ属性持ちのお爺さんがいるとは。
でも、正直面倒くさいだけである。
そして、ちょっと....気持ち悪い。
顔をヒクつかせながら後ずさる煇と真琴にお爺さんが掴みかかろうとするが、お婆さんがそれを手で制する。
「ふふっ、仲が良さそうね。でも、少し静かにしなさい」
「いや、でも....」
「いい大人がみっともないですよ」
あくまでも微笑みを絶やさずに優しく悟すお婆さんにお爺さんが口をつぐむ。
それを見て満足そうに頷き、お婆さんは俺たちの方へと向き直る。
「うちの旦那がごめんね。私はメイシアっていうの。一応このギルドの経営をしてるわ。それで」
メイシアさんが隣のお爺さんの肩を叩いて続ける。
「この人がゲンツ。さっきも言ったけど私の旦那で一緒にギルドの経営をしてるの」
メイシアさんの紹介にゲンツさんはフンと鼻を鳴らす。何故だが俺たちとは目を合わせようとしない。
そんなにツンデレが嫌だったのかな。
「お二人で経営をしてるんですね」
真琴と煇が軽く自己紹介を済ませ、真琴がそんな事を言うと、メイシアさんは苦笑を浮かべる。
「そうね。普通はギルドの経営者は一人なんだけど、私ももう歳でね...一人じゃ回らないからゲンツと協力してるのよ。まあ、あんまり役に立たないけど」
「え」
「冗談よ」
口をポカンと開けながら固まるゲンツさんにメイシアさんがいたずらっぽく笑いかける。
それを見たゲンツさんはホッと息をついていたが、「そういう事は冗談でも言うな!」とすぐに不服を示していた。
ゲンツさんは完全にメイシアさんの手の上で踊らされてるようだ。
「それより...真琴さんたちは依頼選びをしているの?」
「おお、でも一杯ありすぎてどれがいいのかわかんねぇんだよな」
「確かにそうよね....ねえ、ゲンツ。あなたが選んであげなさいよ」
「何で俺が....ったく仕方ねぇな」
メイシアさんの頼みにゲンツさんは渋々ながらも了承し、「どけ」と俺たちを押しのけて掲示板の前に立つ。
「まず、見た感じお前たちには筋肉がついてねぇ...そして戦闘訓練も受けてねぇみたいだから討伐依頼は論外だ」
「見ただけでわかるんですか?」
「まあな、ギルドの経営者として色んな人たちを見てきたからこれくらい当然だ」
驚きの声をあげる真琴にゲンツさんは何と言うこともないかのように説明を加える。
見ただけでそんな事が分かるとか...俺よりもチート能力じゃないか。
何か負けた気がして辛い。
そもそもこんなスキルと比べたらどのスキルも大体チートスキルになるんだけど。
「だから、必然的に受けられるのは採集系か雑用系。雑用は足腰の筋肉が必要になってくるから今日はやめておくとして...採集系の中でも魔物に襲われる心配が全くない依頼を選ぶとするなら...」
そして、ゲンツさんが一枚の羊皮紙を手に取る。
「これがいいんじゃねぇか?」
ぶっきらぼうに渡される紙を真琴が受け取る。
煇の腕の中から覗き込んでみるとそこには『ヒールハーブ採集』の文字が記されていた。
ランクは勿論、Eランク。
説明によるとヒールハーブは回復薬の材料となるらしい。回復薬とは軽い傷や疲労を治癒する効能があり、重い怪我などを治療する高位回復薬と比較すると劣るらしいが、その代わりに安価なため駆け出し~中級の冒険者には重宝されているのだそうだ。
「ヒールハーブが採れる場所はこの近くだし、そこには魔物が全く出ねぇ。お前らみたいななよなよした奴らが受けるならこれだ」
「私も同感よ、真琴さんたちさえ良ければ受理の処理を済ませちゃうけど?」
断る理由もないのでその依頼を受けることにした。
受注を済ませる前にギルドへの登録を求められる。
登録と言っても書類に名前をサインするだけの簡単な作業である。
何でも依頼を受けるのは大半が冒険者たちであり、冒険者はその名の通り冒険をするため、一つの場所に長期間留まるという事がない。
その為、面倒くさい作業にしてもギルド職員も大変だし、登録した冒険者もすぐにいなくなるから無駄という事で数年前からこのような形になったらしい。
真琴と煇がそれを済ませ、依頼の受注をしてもらい、俺たちはヒールハーブの群生地へと足を運んだ。
************************
「おお!」
「凄い、綺麗....」
煇と真琴が感嘆の声を漏らす。
それほどまでに見事な景観だった。
視界に様々な色の乱舞が映る。
赤や白、そして紫などあらゆる花が咲き誇っている。
チューリップ、ラベンダー、パンジーなど見知っている花々の他にも全く見たことのない美しい花が見えた。
蝶々が華麗に舞い、花と戯れる様子はまさに楽園。
魔物という存在を知らずに育ってきた花の楽園こそがヒールハーブの群生地でもあったのだ。
「花は綺麗だが....ヒールハーブってのはどこにあるんだ?」
「確か緑色をした草だと聞いています。あっ、あれじゃないですか」
ヒールハーブは花たちをまるで囲むように生えている。花の中にあったらどうしようかと思ったが、その心配は杞憂だったようだ。
だってこんなに素晴らしい花畑を踏み荒すとか普通は恐れ多くて出来ないでしょ。
規定の数のヒールハーブを採集し、ギルドに戻る。
受付にはメイシアさんでもゲンツさんでもないギルド職員のおばさんがいて労いの言葉と共に報酬を出してくれた。
差し出されたのは1000エルと風の靴というアイテム。
通貨の単位はギルドの帰りに商店の売り物を見た限りでは元の世界に近いという事が分かった。
野菜の値段とかも八百屋やスーパーマーケットで見る数字とほとんど変わらない。
つまり1000エルは1000円ぐらいの価値ということになる。
一時間かかるか、かからないくらいだったし、魔物にも出くわさず結構楽だったのでなかなか高収入なのではないだろうか。
風の靴は歩行や走行の速度に補正がかかるものだったが、デザインが物凄くダサかった。
煇は気にせずに装備していたが、真琴は「こんなダサいの履けません!」とゴミ箱にスローイン。
結局、流石に勿体無いとゴミ箱から救出して買取も行っている萬屋のような店に売りにいったら1200エルで売れた。
「この世界の人たちのファッションセンスはどうなってるんですか.....」
意外と高い売値に嬉しさと共に疑問がよぎるという複雑な感情にあまり晴れない表情の真琴だった。
取れたての野菜の直売をする店もあれば、メルロー産のミルクやそれを加工したチーズ、アイスクリームを売っている店もある。
村の人達の喧騒の中を衛兵の案内で歩いているとある場所で衛兵が立ち止まる。
「ここがこの村のギルドになります」
「これって......」
「ジャパーン?」
そこは伝統的な雰囲気の漂う木造建築の建物だった。
屋根には黒光りする瓦、玄関前の小さな庭には松のような植物が生えていて、小石を敷き詰めた池もある。
何処か懐かしい感じがする日本風の建物に真琴が呆然と固まり、煇がわざわざ日本を英語に直して少々格好つけたように変な発音で呟く。
チーズとかも普通に売ってたし、見たことのない野菜もあったけど大体は人参とかトマトとか見慣れた野菜ばかりだったし、異世界だからと言って必ずしも元の世界とガラリと異なるって訳ではないのだろうか。
扉を開けるとそこも畳や襖の和風な様相が...と言う訳ではなく、内装は外観とのギャップを感じさせる洋風な印象だ。
正面にはカウンター、すぐ横には数人の人が集まる掲示板、そして雑談やパーティー間の相談用のテーブルと椅子がいくつか備え付けられている。
外観を和風にしたんだから内装も合わせろよ!?とツッコミたくなるが、異世界だから仕方ないのだろうと諦める。
ギルドとはいわば仕事を提供する場らしい。
依頼主が出す依頼というモノがあり、その内容が羊皮紙に印刷され、カウンター横の掲示板に貼られる。
ギルド職員が求める素材のレア度とか倒す魔物の危険度とかを調べてそれに見合った報酬の基準を定め、それを依頼主が納める事で依頼として成立する。
頻繁には出現しないがギルド自体が依頼主となる報酬がズバ抜けて豪華で複数のパーティーが協力して挑む大型依頼というモノもあるそうだ。
何でここに案内してもらったかというと、真琴が「お金を稼ぎたいんですよ』と衛兵に話したら「それならギルドですね」と教えられてここに来たのだ。
ギルドについての説明も道中で聞いたものである。
早速、掲示板の前へと向かう。
主に多いのは魔物討伐の依頼だ。
戦力を持たない人口は結構多く、そういう人達は魔物に一方的に蹂躙されるしかない。
街に甚大な被害が出ることや作物がダメになるのを恐れて依頼を出して熟練の冒険者たちに解決してもらおうとする人達も少なくないのだ。
しかし、
「おっ、見ろよ!ミノタウロス討伐だとよ!!報酬めっちゃ高そうだしこれにしようぜ」
「なぁぁにを言ってるんですか!?これSランクの依頼ですよ!?戦闘力もない私たちが行ったら死んじゃいますよ!」
明らかに危険度がヤバそうな依頼に手を伸ばす煇を真琴が顔を真っ赤にしながらパシンとはたく。
そう、俺たちには戦う術がない。
武器を持っていないのもそうだが、そもそも戦闘訓練を受けていないので誰かに教わらない限りは討伐系の依頼は受けられないだろう。
教えてくれる人の心当たりなんてあるはずがないから、こういうのを受注するのはしばらく後になりそうだな。
いや、ずっと受注出来ないかもしれない。
ちなみに依頼にはランク分けがされていて大まかにはS、A、B、C、D、Eとなっている。
Sが最も危険、あるいは難しく、Eが最も安全で容易となっているらしい。
「それよりもこっちの採集系の依頼の方で探してください」
真琴が先程まで見ていた上半分とは反対の下半分に煇の頭を無理矢理固定させる。
下半分に掲示されているのは戦力をほとんど必要としない採集系の依頼だ。
強力な魔物が住み着いていたり、地形があまりに危険だったりする場合は別だが基本的に何か特定のものを一定の数集めるだけである。
危険度が少ない分、報酬は少なくなるが戦う術がなくてもお金を稼げる。
他にも雑用系依頼なるものも戦力を必要としないものの一つだ。
この村だと畑仕事の手伝いとか牛の世話などが見受けられる。
こんな依頼を受けてみるのも面白いかもしれない。
「おや、見かけない顔ね」
掲示板の前にじっと居座っていると背後から声がかかる。
柔らかくどことなく安心する響きに振り向くと白髪をお団子に纏め、パステルピンクのエプロンをかけたお婆さんが微笑んでいた。
さっき声は恐らくこの人のモノだろう。
そして、何故だが隣に立つスキンヘッドで顎の立派な髭を揺らすお爺さんは対照的にムスッとした表情で腕を組んでいた。
「はっ、筋肉が全くなってねぇ。そんなんで討伐依頼とかふざけるのもいい加減にしろ」
真琴や煇の頭からつま先を視線でジロリとなぞり、軽く鼻で笑って不機嫌そうに煇....だけじゃなくて俺たちを睨みつけるお爺さん。
いや、待て。俺と真琴は悪くないと思うんですが。
「心配しないで。この人、すっごく救いようのないくらい口が悪いけど、本当はあなたたちが心配でオロオロしてるのよ」
「お、おいっ!メイシア、俺は別にそんなんじゃねぇぞ!?ただこいつらが気にいらねぇだけだ!!」
固まる真琴たちにお婆さんが小声でほわほわと説明をすると、お爺さんの瞳に焦りがよぎり、一気にまくし立ててからプイッとそっぽを向く。
耳がほんのり赤く染まっている。
「「ツンデレかよ(ですか)」」
「お前ら、その言葉の意味はわからねぇがすげぇバカにされてる気がするぞ!?」
「「誰得だよ(ですか)」」
「絶対、バカにしてんだろ!?その意味を教えろ!」
まさかツンデレ属性持ちのお爺さんがいるとは。
でも、正直面倒くさいだけである。
そして、ちょっと....気持ち悪い。
顔をヒクつかせながら後ずさる煇と真琴にお爺さんが掴みかかろうとするが、お婆さんがそれを手で制する。
「ふふっ、仲が良さそうね。でも、少し静かにしなさい」
「いや、でも....」
「いい大人がみっともないですよ」
あくまでも微笑みを絶やさずに優しく悟すお婆さんにお爺さんが口をつぐむ。
それを見て満足そうに頷き、お婆さんは俺たちの方へと向き直る。
「うちの旦那がごめんね。私はメイシアっていうの。一応このギルドの経営をしてるわ。それで」
メイシアさんが隣のお爺さんの肩を叩いて続ける。
「この人がゲンツ。さっきも言ったけど私の旦那で一緒にギルドの経営をしてるの」
メイシアさんの紹介にゲンツさんはフンと鼻を鳴らす。何故だが俺たちとは目を合わせようとしない。
そんなにツンデレが嫌だったのかな。
「お二人で経営をしてるんですね」
真琴と煇が軽く自己紹介を済ませ、真琴がそんな事を言うと、メイシアさんは苦笑を浮かべる。
「そうね。普通はギルドの経営者は一人なんだけど、私ももう歳でね...一人じゃ回らないからゲンツと協力してるのよ。まあ、あんまり役に立たないけど」
「え」
「冗談よ」
口をポカンと開けながら固まるゲンツさんにメイシアさんがいたずらっぽく笑いかける。
それを見たゲンツさんはホッと息をついていたが、「そういう事は冗談でも言うな!」とすぐに不服を示していた。
ゲンツさんは完全にメイシアさんの手の上で踊らされてるようだ。
「それより...真琴さんたちは依頼選びをしているの?」
「おお、でも一杯ありすぎてどれがいいのかわかんねぇんだよな」
「確かにそうよね....ねえ、ゲンツ。あなたが選んであげなさいよ」
「何で俺が....ったく仕方ねぇな」
メイシアさんの頼みにゲンツさんは渋々ながらも了承し、「どけ」と俺たちを押しのけて掲示板の前に立つ。
「まず、見た感じお前たちには筋肉がついてねぇ...そして戦闘訓練も受けてねぇみたいだから討伐依頼は論外だ」
「見ただけでわかるんですか?」
「まあな、ギルドの経営者として色んな人たちを見てきたからこれくらい当然だ」
驚きの声をあげる真琴にゲンツさんは何と言うこともないかのように説明を加える。
見ただけでそんな事が分かるとか...俺よりもチート能力じゃないか。
何か負けた気がして辛い。
そもそもこんなスキルと比べたらどのスキルも大体チートスキルになるんだけど。
「だから、必然的に受けられるのは採集系か雑用系。雑用は足腰の筋肉が必要になってくるから今日はやめておくとして...採集系の中でも魔物に襲われる心配が全くない依頼を選ぶとするなら...」
そして、ゲンツさんが一枚の羊皮紙を手に取る。
「これがいいんじゃねぇか?」
ぶっきらぼうに渡される紙を真琴が受け取る。
煇の腕の中から覗き込んでみるとそこには『ヒールハーブ採集』の文字が記されていた。
ランクは勿論、Eランク。
説明によるとヒールハーブは回復薬の材料となるらしい。回復薬とは軽い傷や疲労を治癒する効能があり、重い怪我などを治療する高位回復薬と比較すると劣るらしいが、その代わりに安価なため駆け出し~中級の冒険者には重宝されているのだそうだ。
「ヒールハーブが採れる場所はこの近くだし、そこには魔物が全く出ねぇ。お前らみたいななよなよした奴らが受けるならこれだ」
「私も同感よ、真琴さんたちさえ良ければ受理の処理を済ませちゃうけど?」
断る理由もないのでその依頼を受けることにした。
受注を済ませる前にギルドへの登録を求められる。
登録と言っても書類に名前をサインするだけの簡単な作業である。
何でも依頼を受けるのは大半が冒険者たちであり、冒険者はその名の通り冒険をするため、一つの場所に長期間留まるという事がない。
その為、面倒くさい作業にしてもギルド職員も大変だし、登録した冒険者もすぐにいなくなるから無駄という事で数年前からこのような形になったらしい。
真琴と煇がそれを済ませ、依頼の受注をしてもらい、俺たちはヒールハーブの群生地へと足を運んだ。
************************
「おお!」
「凄い、綺麗....」
煇と真琴が感嘆の声を漏らす。
それほどまでに見事な景観だった。
視界に様々な色の乱舞が映る。
赤や白、そして紫などあらゆる花が咲き誇っている。
チューリップ、ラベンダー、パンジーなど見知っている花々の他にも全く見たことのない美しい花が見えた。
蝶々が華麗に舞い、花と戯れる様子はまさに楽園。
魔物という存在を知らずに育ってきた花の楽園こそがヒールハーブの群生地でもあったのだ。
「花は綺麗だが....ヒールハーブってのはどこにあるんだ?」
「確か緑色をした草だと聞いています。あっ、あれじゃないですか」
ヒールハーブは花たちをまるで囲むように生えている。花の中にあったらどうしようかと思ったが、その心配は杞憂だったようだ。
だってこんなに素晴らしい花畑を踏み荒すとか普通は恐れ多くて出来ないでしょ。
規定の数のヒールハーブを採集し、ギルドに戻る。
受付にはメイシアさんでもゲンツさんでもないギルド職員のおばさんがいて労いの言葉と共に報酬を出してくれた。
差し出されたのは1000エルと風の靴というアイテム。
通貨の単位はギルドの帰りに商店の売り物を見た限りでは元の世界に近いという事が分かった。
野菜の値段とかも八百屋やスーパーマーケットで見る数字とほとんど変わらない。
つまり1000エルは1000円ぐらいの価値ということになる。
一時間かかるか、かからないくらいだったし、魔物にも出くわさず結構楽だったのでなかなか高収入なのではないだろうか。
風の靴は歩行や走行の速度に補正がかかるものだったが、デザインが物凄くダサかった。
煇は気にせずに装備していたが、真琴は「こんなダサいの履けません!」とゴミ箱にスローイン。
結局、流石に勿体無いとゴミ箱から救出して買取も行っている萬屋のような店に売りにいったら1200エルで売れた。
「この世界の人たちのファッションセンスはどうなってるんですか.....」
意外と高い売値に嬉しさと共に疑問がよぎるという複雑な感情にあまり晴れない表情の真琴だった。
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