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76話 助けたもの、助けられたもの

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「それで、僕はなんども戦ったんだよ。」

「へぇ、それは大変だったんですね。」


 相斗は修行であったことをみんなに話した。


 たくさんの人と話したこと、助けたこと、鬼腕が時には言うことを聞かなかったこと。


「それにしても、あまりにも早い帰りじゃないか?」

「まあ、そうだね。最初は全然言うこと聞いてくれなくて、ただ、僕の腕に取り付いているって感覚だったんだけど、一緒に過ごしていくうちにこいつがどんな動きが好きで、どんな技をしたいかが分かってきたんだ。」

「へぇ、鬼にもちゃんとそういう意思があるんすね。」

「そうなんだ。それからはこいつの出来る限り希望にあった動きをするようにしたよ。」

「でも、それって危なくないですか?前に言ってましたけど、乗っ取られることがないんですか?」

「まあ、その可能性は十分にあるんだけど、そこは僕も言いなりになるだけじゃなくて、こっちの動きに合わせるようにも要求はしたよ。そうして、どんどんと使えるようになってきたんだ。」



「アイト様!!いらっしゃいますか??」


 そこへ走ってきたのはセレスだった。



「いるけど、どうしたの?」

「それがですね、アイト様にお会いしたいという方が多数いらっしゃいまして、その方々が今客室にいらっしゃるんですよ。」


 その時にその場にいた全員が気づいた。


「もしかしてそれって"困り人"の..........」

「やっぱり.....みんなもそう思う?」


コク


 全員が頷いた。


「じゃあ、ちょっとだけ行ってくるね。」

「あ、はい。」


「人気者は大変だね。」

「ちっ、今回は苦行を与えられたと思ったんだが.....」

「いやいや、タケルもみんなからの信頼が増えたと思うよぉ。」

「そうか.....。」


 健はまんざらでもなかった。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



ガチャ


「失礼します。」


「おぉ、アイトさん!」

「アイト様!」


 そこには20人ほどの着飾っている人達がいた。


「私たちは皆、貴方様に助けられた人達よ。」

「そして、私たちはみんな貴族です。」

「皆様が一様にアイト様への感謝を伝えたくして集まった次第です。」

 たくさんの貴族が相斗に頭を下げた。

「いやいや、そんな大したことはしてませんよ!!」

「何をおっしゃいますやら!!少なくとも、私は命を救われましたわ。アイト様がいなければ、今頃は..........」

「いやいや、僕はあなたの壊れた靴を直しただけで別に大したことはしてませんよ!」

「あら、自らの行いを偉ぶることなく謙遜をするなんてどこまでも素晴らしい人格者なのかしら。」

「(いや、本当に靴直しただけなんだよ)」


「ただ、靴を直しただけと思っているでしょうが、この方のいた森は危険指定区域にもなっている場所で、いつ何時魔物や盗賊に襲われるやも分からぬ危険な場所でした。」

「そうですわ。私が過ぎ去った後にオークの出現が確認されたと後で聞かされました。もし、あそこでアイト様に助けて貰えなかったら、私は......」


 その女性は少し泣きそうになっていました。


「わかりました!そのご厚意受け取らせてもらいます。ですが、僕自身が修行していたのもまた事実です。あまり、人助けをしようと出ていった訳では無いのです。」

「そんなことはもはや関係がないのです。あなたに助けられ、あなたと話した私たちは既にあなたの魅力に取り込まれてしまっているのです。」

 一人の髭を蓄えた老人が言う。


「そうですわ!!皆さん、アイト様に何かをしなければ気が済まないのです!させてくれるまで私たちは帰りませんからね!」

「そうだそうだ。」

「そうよ。」


 この場にいた皆が頑なに帰ろうとはしなかった。


「お気持ちは有難いのですが、金銭の類は全く持っていりません。僕はこう見えてもなかなかお金を持っているからです!」


 相斗は罪悪感のためどうしてもお金を受け取りたくなかったため、無理矢理お金を持っていることを明かした。



「なんと..........」



「それは素晴らしい!金銭に困っているわけでもないのに、嫌味ったらしい貴族かもしれないというのに、そんなことを考えずに私たちをお救いくださったのですね。」


 相斗のその発言はまるで逆効果だった。


 株は何故か上昇して、もはや止めることは出来なかった。


「ですが、それでしたら困りましたわね。何をあげればいいのでしょうか。」

「いえ、ですから僕はお気持ちだけで.....」

「なりませぬぞ!これくらいさせて貰えないのは貴族としての誇りが!」


 貴族はなかなかに頑固な生き物だった。


 普段から健という頑固者を相手にしている相斗も健を20人一気には相手に出来ない。



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