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70話 一鬼
しおりを挟む「それ以上はやめておけ。」
「兄貴。」
三鬼はそう言った。
そうして、健たちの後ろから洗わたのは白髪の美青年だった。
「阿吽兄弟、お前らじゃこの御仁には勝てない。」
「一鬼じゃねぇか。てめぇら兄弟までもが人間に肩入れしようってか!!」
「そんなんじゃない。彼らは我々に害をなす人ではない。それに、お前らじゃ勝てないと身を案じてやったんだ。」
「ふざけたこと言うんじゃねぇぞ!!俺と兄者なら人間の二人なんて造作もない!」
一鬼は二人に近づいた。
「黙れ.....。二度も言わせるな。」
阿吽兄弟にそう言った。その瞬間の空気の重圧というのは健と相斗は感じたことの無いものだった。
「今回は俺に免じて頼む.....な?」
「今回だけだぞ.....。」
そう言って、阿吽兄弟はどこかへと去っていった。
すると、一鬼は二人に近づき
「どうも、変なとこを見せてしまったね。俺は三鬼の兄貴でこの集落で一番強い鬼を宿している一鬼だ。」
「よろしくどうも。」
「よろしくね。」
二人は握手をかわした。
「いやぁ、さっきはうちのが迷惑かけたね。」
「気にしないでくれ。こちらが邪魔している身だから、文句はない。」
「タケルは良い奴だな。」
「普段はもっと突っぱねてるんだけどね。」
「そうなのか。」
「おい、兄貴。なんの用だよ。」
「やだなぁ、三鬼。客人が来たから歓迎をするがてらに顔を見に来ただけさ。」
「嘘つくんじゃねぇぞ。てめぇの性格の悪さからしてそんな柄じゃねぇだろ。二人とも騙されんなよ。こいつは生きている目をしていない。」
「ご忠告どうも。」
「ちょっと、健!!」
この場が少しピリついた。
「まぁ、これも疲れたし普通に喋るよ。ハッキリと言って、俺らはお前ら人間が嫌いだ。もちろん、お前らも含めてな。」
二人は思った。
「(こいつ.....性格変わりすぎじゃね.....。)」
だが、口にはしなかった。
「最初は殺してやろうかとこっちに来たわけだが、どういう理由でか俺の鬼が疼かないんだよ。」
「どういうことだ?」
「お前らが格上ってことだ。俺の鬼は好戦的でな。自分より弱いやつにも強いやつにも敵意を剥き出しにして食らいつく。だが、真に強いやつには襲いかからない。死んだら元も子もないからな。」
くすりと笑いながらそう言った。
「俺は鬼人族だ。鬼という上位の存在を宿している今、その命令には逆らわない。殺すも生かすも酒呑童子様の赴くままにだ。」
「兄貴でも勝てないときたか。本当に二人は不思議だなぁ。」
「正直、こっちの脳筋には勝てないな。」
そう言って一鬼は健を指さした。
「だがなぁ。こっちのもやしには勝てるぞ。」
次は相斗の方へと向けた。
「それは無理だな。お前じゃ相斗には勝てねぇ。やらなくてもわかる事だ。」
「そうかい。じゃあ、やって確かめてみるか?」
「いやいや、やらないよ!そんなことするわけないじゃんか!すみませんね、うちの馬鹿ものが。そろそろ、帰りますので勘弁してください。」
そう言い残してソフィを連れた3人で鬼の集落を去った。
「勝てるかどうかは別としても、俺はアイトの方がやりたくないなぁ。」
「あぁ?」
「いやさ。兄貴は見てないから分からないだろうけど、アイトは常に戦闘に備えてるって感じ。特に俺がソフィに近づこうとすると、守るような動きを自然と無意識かのようにとるんだ。」
「だから、どうした。」
「ああいう観察眼が鋭いのを相手にするのはキツいってわかってるでしょ兄貴もさ。」
「あぁ、あいつか。確かにうざいな。それにしても、ソフィのやつはまだ怯えていたのか。」
「うん、かなり昔のことを気にしているみたいだね。あれは先代の横暴だってみんな知ってるんだけどね。」
「だが、この集落では一度抜けると戻ってはこれない掟だ。」
「まあ、怖がってはいたけど腐ってはなかったね。これからどうにかなるんじゃないかな。」
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