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53話 柔と剛
しおりを挟むトンッ
「ここよ。」
クイーンが何かに触れたような感じがした瞬間に周りの景色が変わった。
そこは、無機質な真っ白い部屋でどこか異空間のような異様な空気を放っていた。
そして、二人の目の前にはクイーンがいた。
「これはどういうことだ。」
「まあ、落ち着いてよ。先に話を無断で聞いたことは謝るわ。私の能力でこの国での会話は全て耳に入ってくるのよ。私の意思とは関係なくね。だから、不可抗力であることを先に言わせてちょうだい。」
「それは、スキルなんですか?」
「えぇ。便利なスキルではあるけど、嫌でも入ってきちゃうっていうデメリットも大きいのよ。」
「それは、大変ですね。」
「そこに関しては文句はない。」
クイーンは なるほど という顔をして
「あ、この場所ね。この場所は私の魔法で造り上げた世界よ。」
「魔法ですか?クイーンさんは魔法を使えるんですか?」
「まあ、それなりにね。ここは、外部とは全く無干渉な異空間よ。これを作るのは結構苦労するんだけど、その分、外部への被害は全くないし、あなたたちが存分に戦っても問題は無いと思うけど。」
「健.....」
相斗は健の名前だけを呼んだ。
「断る理由もない。やるぞ。」
その意思を汲み取りそう答えた。
「じゃあ、私はここから立ち去らせてもらうわね。巻き込まれて死にたくないもの。」
「それでも大丈夫なんですか?」
「えぇ、大丈夫よ。ちゃんとここも機能するし、勝負が終わり次第ちゃんと戻ってくるわ。」
「わかりました。」
シュン
クイーンは一瞬にしてその部屋から消えた。
「相斗、全力で来いよ。お前も本気.....出したことないだろ?」
「わかったよ。」
グンッ
両者が地面を蹴り、真っ向勝負に出た。
互いに距離がだんだんと縮まっていき、10m、9mと近づいている。
シュッ
先手を打ったのは相斗だ。リーチが長い足を使い、健へ上段げりを打った。
「(前と同じ展開だ。だが、これはちょっとやばい。まともに受けれるか.....いや、受けろ。)」
バゴォン
健は相斗の上段げりを左腕で受けた。
攻防で起こった音は人間と人間が起こせる音とは思えないほどに鈍く重い音だった。
トンッ
健は左腕を押さえながら後ろへとジャンプで下がった。
「左の前腕がいったか.....」
健の左の前腕は衝撃で機能しなくなり、ブラーンとした状態だった。
「健、なんで避けなかったの?やる気ないの?」
相斗は少し怒り気味で健に聞いた。
「お前が腑抜けた蹴りをしてこないか確かめただけだ。ふざけた蹴りを打とうものならその場でボコボコにしていたさ。」
「そのためにわざわざ左腕を犠牲にして、僕のこと舐めてんの?左腕がなくても勝てるって思ってんの?」
「そんなことは思ってねぇよ。お前はわかってねぇな。腕が動かなかったら、その腕が使えなくなったとでも思ってんのか?」
ピュン
健は地面を蹴り、一瞬にして相斗の目の前まで来た。
「(やばい、怒りで少し健への意識を欠いた。)」
「しっかりガードしろよ。腹に打つぞ。」
健はそう言って、相斗は反射的に腕を下げガードをした。
すると、なんということだろうか。健は負傷したはずの左手で相斗を殴ろうとした。
「(やっぱり、僕のことを舐め.....)」
グニョン
「はやっ、てか、おもっ」
相斗は気がつけば健に殴られており、その突きは相斗のガードの上からでも十二分にダメージを与えた。
ガードをえぐるような衝撃と内部への直接的なダメージを相斗は全身で感じた。
「ふふっ、いつ見ても面白いよね。」
アルは笑いながら見ていた。
「20年も見てきた僕から言わせてみると二人の戦い方と性格って逆だよね。高圧的な健が力を必要としない「柔」の動きをしていて、穏やかで温和な相斗が「剛」の動きをしている。
健の動きは力にあまり左右されない身体全体を使って生み出される力を取り入れた動きを得意として、相斗は鋭い蹴りでそれこそ脳筋ともいえる強引さで押し切る。実に面白いよねあの二人。」
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