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小ネタ 兄貴の日記
しおりを挟む俺はしがない小さな街に生まれた一人の男だ。
街は特別栄えているわけでもなく、何か誇れるような特産品があるわけでもなく、これといってなにか特徴のあるわけでもないところに俺は生まれた。
ここは、スペクトルという国の中の一つの街で王都へいくのも近くもなければ、特段遠いというわけでもない。
そんな何も無い街で俺は警備隊として働いている。
警備隊の仕事といっても、街の見回りという名の顔見知りと話しながら街を歩き、森への魔物の調査という名の山菜採りをしているだけだ。
だが、そんなほのぼのとした日常と見慣れた景色、大切なお嫁さんと子どもがいるだけで俺は十二分に幸せだった。
それに、こんなを俺にしたってくれる二人の部下だっている。
俺はそんな毎日がこの先もずっと続いていくものだと思っていた。
しかしある日、非日常的なことが起こった。
いつもの通りに調査をして、帰ろうと馬車へと乗っていた時のことだ。
二人の見慣れない青年が道路の端っこで立ち止まっていた。道にでも迷っているのだろうと思い、声をかけてみた。
事情を聞いてみると彼らはどうやら所持品を盗まれて、身分証がないから次の街へ入れないと思っていたらしい。
このスペクトルでは王都へのアクセス以外は大半は身分の証明が必要ない。
珍しい制度を採用しているから旅人にはわからなくても無理がないだろう。
とりあえずは彼らを馬車に乗せて街へと戻った。
彼らは運がいい。今日はこの街一番の大イベントの力自慢大会があるのだから。
観光客が来るとしたら、今日くらいなものだ。今日だけは王都へ負けず劣らずの人の出入りがあると言われているほどだ。
まあ、そんなに入っているとは思わないがな.....
そんなことはさておき、なぜ人が来るかというとこの街出身のスペクトルの英雄の「キング」が帰ってくるからである。
キングはこの街で生まれ、滅多にない希少職の「竜騎士」という天職だった。
彼は出世街道まっしぐらでみるみるうちにスペクトルの権力者の一人となった。
この小さな街に住んでいる俺らからしたら、彼は街の誇りであり、後世に語り継がれるであろう人物だ。
そんな彼は年に一度の力自慢大会に毎年のように出場している。
若いものはキングを見て憧れ次の日から剣の練習などを始めるといわれるほど彼の影響というのは凄まじかった。
そんな街の誇りをこの旅人の二人に見せたかった。その時はそんな気持ちで話していた。
しかし、予想外なことに彼らはその力自慢大会に出るといったのだ。
確かに旅をしていると、魔物に会う危険性もあるため強くなければ出来ないことではある。
だからといって、少し強いだけではキングの足元にすら及ばないだろう。
だけど、若い子たちがやりたいと言っているのだから、背中を押してやるのが大人の役目だろうと、大人ぶりたくなった俺は彼らの出場費を出してあげた。
恩を着せたかったのでもなく、見栄を張りたかったのでもなく、今考えれば彼らの戦いというのを見たかったのだろう。
毎年顔見知りの常連出場者に毎日繰り返しの日々。
少しばかり俺も刺激を求めていたのだろう。
それの期待に応えるかのように二人は軽々と予選を突破した。
さすがは旅人だ。体力ではそこらのやつには負けずに圧倒的なものを見せてくれた。
このまま、本戦でも素晴らしい戦いを見せてくれるのではないだろうかと、少し胸が踊った。
旅人の名前はタケルとアイトというのだそうだ。
タケルはいかにも守りを知らなそうな脳筋な感じもするが、アイトという子は結構クレバーなんじゃないかと俺は思っている。
1回戦の相手はタケルはジョニー、アイトはキングだ。
どちらも不運だ。特にアイトに関しては言うまでもないだろう。相手がキングならばもう仕方ない。
だが、そう思った数十分後に俺は、いや、会場の全員がありえない光景を目にした。
あの、英雄と謳われたキングが地面に倒れ込んでいたのである。その場にいた俺を含む全員が思考回路が停止しただろう。
やりやがった。アイトがキングを倒したんだ。
考えてもみなかった。あの天才の竜騎士のキングが倒されるなんて.....
だが、その場にいた全員が人生でした事の無いドキドキをしていたのだろう。
だけど、話はそれだけでは無い。そのキングを倒したアイトを倒したやつがいた。、
そいつがタケルだ。
意味がわからなかった。キングよりも強いやつが二人もいて、その二人は俺が連れてきた旅人だ。
こんなことが人生であるだろうか?変わらぬ日々を送り、幸せに行き続けているやつには一生味わうことの無い経験を俺はした。
間違いなく、今日という日はこの街の歴史にみんなの心に刻まれただろう。
変わらぬ幸せ、大切な人がいる幸せ。これらはかけがいのないものであることは疑う余地もない。
しかし、憧れる幸せ、夢に真っ直ぐ向かう幸せ、俺がいつしかどこかに落としてしまったこれらもまた素晴らしいものであることに気づけた。
男なら一度は目指す最強への道。それを思い出させてもらった一日だった。
パタンッ
「今日は久しぶりに剣の稽古でもしてみようか。」
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