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14.異世界から来た男

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「冒険者ギルド?」

「はい。冒険者ギルドがないかと奇妙な格好をした男が街で発狂しているところを捕まえたのだそうです。」

「そいつを連れてきてくれ。」

「承知しました。」



 警備隊が不審者を捕まえたとの報告を受け、バドスは蒼馬に伝えていた。



ドンッ


「王様!俺がこの世界を救います!」

「何を言ってるんだお前は。」

「俺は神様からチート能力を授けられたんだ!」

「もしかして、お前は日本から来たのか。」



 蒼馬は冒険者ギルドと騒いでいると聞いた時から、そのような予感がしていた。

 そして、夢見るただのバカだということにも気づいていた。



「もしかして、あんたも?」

「口に気をつけろ。俺はこれでも王なんだ。いつでも首を飛ばせるからな。」

「すんません。」

「それでお前は転生……じゃないな。日本人顔すぎるからな。」


 そう、この世界の住人は鼻が高く、目の色が青や赤といった日本人とはかけ離れている容姿なのである。


「なんか勇者召喚みたいな感じだったんですけど、追い出されて、それで、この国に飛ばされたんです!」


 事情を聞いてみると、とある国で蒼馬のように召喚をされ、勇者の適正がないからといわれ、能力者にテキトーな場所に飛ばされ、この国に来たのだという。


「召喚されたのはお前だけか?」

「いや、俺含めて5人いました。男が3人で女が2人です。」

「で、お前以外は勇者の適正があって、お前だけが追放されたってことか。」

「はい……。」

「わかった。一応、お前も被害者で嫌だが同郷ということもあるから、1ヶ月だけ面倒をみるリグマが。だから、1ヶ月で何か仕事を見つけろ。」


 蒼馬も一応関わってしまったからと手を貸すことにした。


「あと冒険者ギルドなんてないぞ。」

「え、冒険者ギルドが……ない……。」

「当たり前だろ。あっても何でも屋だな。国周辺を守るのは政府の役目だ。冒険者ギルドっていう不安定な制度は愚かだ。戦力になる者がいれば国に引き抜くのが当たり前だろ。」

「そんな……ここはファンタジー世界じゃ……。」

「夢を見るのはそこらにしとけ。この世界は現実だ。」



 この地球から来た男は 齋藤さいとう 一輝かずきという男で蒼馬の一個下の17歳である。



「それで一輝の異能はなんなんだ?」

「えーと、俺はですね、「霧化きりか」です。身体を自由に霧状にすることができます。」


 一輝はそう言って左腕を霧状にして見せた。


「なるほど、身体干渉系の異能か。その霧になった腕を腕に戻す時に何か条件はあるのか?」

「えーと、多分ですけどないです。でも、腕に戻しても霧が続くまでしか伸ばせないので、50m位先までしか……。」



 つまり、一輝の「霧化」の異能は具体的にいうと「身体を霧に変化させることが出来る」ということになる。

 だから、腕を伸ばす時は骨とその周りの筋肉や皮膚なども霧に変化させ、その最大量が50mほどということだ。

 よって理論上、筋トレなどをして筋肉を増やせば増えた分、霧になる量が増え、伸ばせる範囲が広がるということだ。



「やはり、身体干渉系の異能はそうだよな。「霧化」は使いどころがあるから、やる気があるなら、諜報部隊に入団させるがどうする?」

「少し考えさせてください。ちょっと冒険者ギルドがないってのがショックすぎて……」

「おぉ、そうか……。」


 冒険者ギルドへの情熱は流石の蒼馬も引いていた。


「じゃあ、リグマの領土で少し面倒を見てやってくれ。」

「かしこまりました。」


 そして、その三日後に一輝は諜報部隊へと入団することとなった。
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