テンプレを無視する異世界生活

サンデウロ大陸編

1028話 シグハナ

 翔はリザードマンの里を出ていった。

 外は真っ暗である。時間で表すと23時くらいだろうか。

 ここらの森はだいたい20時にもなると、誰も近寄らないと言われている。


「(どこかかしこから見られているな。様子を伺っているのだろう。)」


 歩いていると、四方八方から視線を感じるのである。それは、もちろん好奇心や好意の類ではない。

 しかし、翔が魔物に襲われる確率というのは極端に低いのである。


 それは、この森自体のルールが「自分より強者を襲わない」だからである。


 ここで争い、体力を削れば他の魔物に襲われる。 

 そんなループが続いているこの森では圧倒的な戦力差がなければまず襲われることは無い。

 故に力を持っている翔がこの森で襲われる確率は皆無に等しい。

 むしろ、襲われないように立ち回られるのである。

 
「(やはり、なかなか生息していないな。)」


 翔はある植物を探していた。


 しばらく歩くと


「あった。」


 翔の目の先には一輪の花が咲いていた。

 見た目はとても綺麗な青色の花でとてもいい匂いがする。


 だが、翔は一向に近づこうとしなかった。


「ここら辺が"死なない"限界の場所だな。」


 そう、この花の匂いを嗅いだ生物は死んでしまうのである。


 シグハナという花で見た目や匂いで生物をおびきよせ、毒性の匂いで殺し、その死体から養分を吸い取り成長していく花である。


 翔はマスクのようなものを出し、装着した。


「スーハースーハー」


 口と鼻を覆ったマスクにつながっているのは細長い管である。


 その管は空まで続いているのである。


 翔はその場の空気ではなく、空の空気を吸うというなんともくだらなくロマンのあるものをつけ、シグハナへと近づいた。


 手にも防具をつけ、翔は花を回収した。