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06 世界はどこか狂っている
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『少し手伝ってくれないか?』
電話の向こうで、一通り事情を伝えた後、最後に男の声は軽く言った。その言葉に恢は少しの逡巡の後、口を開いた。
「・・・そこまでしないとダメなのか?」
その声は先程とは打って変わって、冷めたものだった。未だにふてくされていた瑠蒼は、少し驚いて恢を見るが、背中を向けていたので表情は分からなかった。
『ああ』
返ってきたのは肯定。それを聞いた恢は5分で向かうと告げると通話を切った。
そのままクローゼットを開け、よそ行きのカラーシャツにスラックスを取り出した。手早く着替えるとその上から薄手のコートを羽織り、制帽を目深に被る。
まるでゲームに出てくる軍服のような服装―――あるいは某海軍将校のようだ。背負うものは正義ではないが―――を身にまとった恢は、まだ部屋にいた瑠蒼に向き直る。
「・・・緋色」
幼馴染みの雰囲気が突然変わったことに戸惑っている訳ではない。がやはり電話の内容は分からなかったようだ。
「九字崎」
緋色が瑠蒼の名前を呼ぶ。ただし、いつもとは違い名字で。そこに佇む人物は左城宮恢ではない、その名の通り鮮やかな緋色の瞳を持った亡霊だ。
「留守、頼んだ」
「・・・分かった」
瑠蒼は少し躊躇いながらも了承する。もう、学校がどうとか言っている場合ではない。
「緋色」
【異能】によって生み出された空間の歪み。それを潜ろうとした緋色に、瑠蒼は声をかける。
「・・・」
「・・・気をつけてね」
「・・・」
返事はなかった。緋色は振り返ることもせずに行ってしまった。瑠蒼の前で、裂けていた空間が元通りに戻った。
―――緋色。
不安が込み上げてくる。今回の仕事、その内容を聞いた時から急に変わった緋色。あの緋色を見るのは大分久しぶりだけど初めてじゃない。
昔の、名前を変える前の頃の緋色と同じ。目的のためなら、できることは何でもする。それこそ一人を救うために百万人を殺すようなことを平気でする。無理だと判断すれば、その救うべき一人も平然と切り捨てる。例えその一人が、家族でも。
―――それができるだけのチカラが、緋色にはある。
緋色の【異能】は、ただいろいろな鍵を開けるだけのチカラではないし、空間に穴を開けるだけの能力でもない。普段は転移や鞄代わりに使っているけれど、あのチカラはもっと恐ろしいものだ。
私も緋色も【異能】のランク自体は判っている。
【異能】のランクは単純な出力や応用性の有無、それと危険度で決められていて、アルファベットで区分けされる。もっと細かく分けることもできるけど、簡単に言えばEXが一番上で、S、A、B、C・・・と下がっていく。
でもS級やA級の【異能】なんてそうはいない。EX級にもなれば片手で数えられるくらいしかいないだろう。
それに、自惚れじゃないけど、私は強い。
私の【異能】が分類されているA級は、一人で国を相手取れるようなものが多い。世界的な指名手配犯の大多数が、A以上に分類されている【覚醒者】だと言われている。事実、彼らの起こした事件は大規模な破壊や、膨大な数の死傷者が目立つ。
でも、世の中上には上がいるものだ。
―――そんな人たちよりもさらに上、極一部の化物たち。緋色は、その一人なんだよね。
本当は、私が緋色の安否を心配する必要はない。私と緋色なら、私の方が弱いのだから。
それでも、不安は消えてくれない。
私はただ立ち尽くす他になかった。
電話の向こうで、一通り事情を伝えた後、最後に男の声は軽く言った。その言葉に恢は少しの逡巡の後、口を開いた。
「・・・そこまでしないとダメなのか?」
その声は先程とは打って変わって、冷めたものだった。未だにふてくされていた瑠蒼は、少し驚いて恢を見るが、背中を向けていたので表情は分からなかった。
『ああ』
返ってきたのは肯定。それを聞いた恢は5分で向かうと告げると通話を切った。
そのままクローゼットを開け、よそ行きのカラーシャツにスラックスを取り出した。手早く着替えるとその上から薄手のコートを羽織り、制帽を目深に被る。
まるでゲームに出てくる軍服のような服装―――あるいは某海軍将校のようだ。背負うものは正義ではないが―――を身にまとった恢は、まだ部屋にいた瑠蒼に向き直る。
「・・・緋色」
幼馴染みの雰囲気が突然変わったことに戸惑っている訳ではない。がやはり電話の内容は分からなかったようだ。
「九字崎」
緋色が瑠蒼の名前を呼ぶ。ただし、いつもとは違い名字で。そこに佇む人物は左城宮恢ではない、その名の通り鮮やかな緋色の瞳を持った亡霊だ。
「留守、頼んだ」
「・・・分かった」
瑠蒼は少し躊躇いながらも了承する。もう、学校がどうとか言っている場合ではない。
「緋色」
【異能】によって生み出された空間の歪み。それを潜ろうとした緋色に、瑠蒼は声をかける。
「・・・」
「・・・気をつけてね」
「・・・」
返事はなかった。緋色は振り返ることもせずに行ってしまった。瑠蒼の前で、裂けていた空間が元通りに戻った。
―――緋色。
不安が込み上げてくる。今回の仕事、その内容を聞いた時から急に変わった緋色。あの緋色を見るのは大分久しぶりだけど初めてじゃない。
昔の、名前を変える前の頃の緋色と同じ。目的のためなら、できることは何でもする。それこそ一人を救うために百万人を殺すようなことを平気でする。無理だと判断すれば、その救うべき一人も平然と切り捨てる。例えその一人が、家族でも。
―――それができるだけのチカラが、緋色にはある。
緋色の【異能】は、ただいろいろな鍵を開けるだけのチカラではないし、空間に穴を開けるだけの能力でもない。普段は転移や鞄代わりに使っているけれど、あのチカラはもっと恐ろしいものだ。
私も緋色も【異能】のランク自体は判っている。
【異能】のランクは単純な出力や応用性の有無、それと危険度で決められていて、アルファベットで区分けされる。もっと細かく分けることもできるけど、簡単に言えばEXが一番上で、S、A、B、C・・・と下がっていく。
でもS級やA級の【異能】なんてそうはいない。EX級にもなれば片手で数えられるくらいしかいないだろう。
それに、自惚れじゃないけど、私は強い。
私の【異能】が分類されているA級は、一人で国を相手取れるようなものが多い。世界的な指名手配犯の大多数が、A以上に分類されている【覚醒者】だと言われている。事実、彼らの起こした事件は大規模な破壊や、膨大な数の死傷者が目立つ。
でも、世の中上には上がいるものだ。
―――そんな人たちよりもさらに上、極一部の化物たち。緋色は、その一人なんだよね。
本当は、私が緋色の安否を心配する必要はない。私と緋色なら、私の方が弱いのだから。
それでも、不安は消えてくれない。
私はただ立ち尽くす他になかった。
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