俺がキーなわけがない!?

クルクル

文字の大きさ
上 下
6 / 7

05 平均的な生活はえてしてつまらない

しおりを挟む
 ああ、一週間は過ぎてしまえば短いと感じられるのに、どうしてこれからやってくる一日一日は長く感じるのだろうか。
 月曜日の朝である。憎っくき月曜の朝である。たまの休みで回復した気力を根こそぎかっさらっていく月曜の朝である。爽やかな朝の空気をぶち壊し、鬱を振りまく月曜の朝である。
 何が言いたいのかというと―――

「誰だよ、学校週六日にした奴。誰だよ、一日の授業数六時間にした奴・・・」

 いつになく死んだような顔をした恢が呪詛を吐いている、ということだけだった。
 世間は無情である。
 恢とて普段から腐りきっているわけではない。怠惰ではあるが、そこまで堕落しているわけではない。ただ今回はタイミングが悪かった。

 ―――だからもう一度、いや何度だって言おう。世間は無情だと。

「緋色、起きて。遅刻するよ?」

 布団にこもって延々と呪詛を吐き続ける恢を見て、瑠蒼が呆れたように言った。シンプルなデザインの白いシャツと黒のプリーツスカート、誰が見ても、どう見ても私服だ。しかも追加でかわいらしい意匠のクマが刺繍された赤いエプロン付。完全にオフの格好だ。
 今まで忙しかったが一区切りついたため、数日の間は休みらしい。
 恢はその瑠蒼の服装を一瞥すると再び布団を頭からかぶった。
 ぶっちゃけると、これが原因だったりする。
 一緒に住んでいるはずなのに、時間が上手く合わなかったせいでここ最近会えなかった幼馴染がせっかく休みで家にいる。だというのに、なぜ学校に行かなければならないのか。
 ストレス溜まってんだ、癒しをよこせ・・・というのが恢の言い分である。
 因みに屁理屈を言っている自覚はある。

「緋色」
「・・・」
「緋色、学校いこ?」
「面倒」
「授業料もったいないよ」
「一日くらいサボったって変わんねーだろ」
「ダメ。お金払ってるの私よ?」
「電気水道ガス、あと食費はな。学費払ってんのは俺だ」
「そのお金稼いでるのは?」
「・・・そりゃ、瑠蒼のほうが収入多いけどさ・・・」

 家主なのに幼馴染に養われているという事実。情けないことこの上ないが事実は事実だ。そのことを出されると恢は強く言えない。一応恢にも稼ぎ自体はあるのだが、全部学費で消えているので何のプラスにもなっていない。
だというのに、この差はいったいどこで生まれたのだろうか。対等なのはもはや年齢だけである。
 瑠蒼に痛いところを突かれ、若干言葉に詰まる恢。何を思ったか最後の悪あがきに出た。
 変なところでわがままな奴である。

「なぁ、俺さ」
「なぁに?」
「・・・結構、・・・・んだ」
「?」

 瑠蒼をからかうつもりで口を開いたのに、思ったよりも恥ずかしくて口ごもった挙句、小声になってしまった。とんだヘタレである。当然瑠蒼に聞こえているはずもなく、彼女は首をかしげた。

「どうかしたの?」
「・・・いや、なんでもない」

 結局盛大に自爆しただけだった。情けない。あとついでに空気も微妙に白けている。
 自分の余計な発言で気まずくなってしまった恢が、ついに観念してベッドから出ようとしたとき―――

pipipi・・・pipipi・・・・

 着信音が鳴った。発生源は机の上に適当に放られていた、使恢のスマホだった。突然鳴りだしたスマホを見て、期待に目を輝かせる恢と、話の腰を折られてむっとした表情を浮かべる瑠蒼。電話に出たのは、机の近くにいた瑠蒼だった。

「・・・」
『恢か?』
「いいえ、私よ。何の用かしら?」
『あれ?九字崎さん?』
「ええ」
『まあいいや、恢に代わってもらえるかな』

 電話をかけてきた相手は若い男の声だった。おそらく同年代だろうと思われるその声は、しかし若さに反して嫌に大人びていた。
 若干不機嫌なまま返答する瑠蒼。実のところ瑠蒼もこの男のことを知っていた。
 半眼で頬を膨らませながら、スマホを渡してきた。

 ―――リスみたいだ・・・違う、そうじゃない。

「俺だ。替わったぞ」
『ああ、恢か。悪いね朝に突然電話かけて・・・何か良いことでもあったのかい?』

 瑠蒼にジト目で睨まれながら、恢は脳内でセルフツッコミをかました。今更な話だが、瑠蒼は結構な美少女だ。西洋の血が入っているせいか、スタイルも良いし、家事もできる。口数が少ないことがやや玉に瑕だが。
 だが、そのハイスペック美少女が傍にいたせいで恢には耐性がついてしまったようだ。
 画面の向こうの男は瑠蒼とは逆に恢の声が上機嫌なことに気づき、やや困惑した様子で聞いてきた。

「いや別に何も。で、何の用だ?」

 そんなことはどうでもいいとあっさりと流し、恢は用件を聞きなおす。相手も気を取り直したのか、咳ばらいをした。

『まぁ大した用件じゃないんだけどね。少し』
「あぁ、受けよう」
『・・・・・・まだ何も言ってないんだけどね・・・』

 男はいつになく食い気味な反応をした恢に、微かに苦笑していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

ブルースカイ

ハコニワ
SF
※この作品はフィクションです。 「ねぇ、もし、この瞬間わたしが消えたら、どうする?」 全ては、この言葉から始まった――。 言葉通り消えた幼馴染、現れた謎の生命体。生命体を躊躇なく刺す未来人。 事の発端はどこへやら。未来人に勧誘され、地球を救うために秘密結社に入った僕。 次第に、事態は宇宙戦争へと発展したのだ。 全てが一つになったとき、種族を超えた絆が生まれる。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

異能テスト 〜誰が為に異能は在る〜

吉宗
SF
クールで知的美人だが、無口で無愛想な国家公務員・牧野桐子は通称『異能係』の主任。 そんな彼女には、誰にも言えない秘密があり── 国家が『異能者』を管理しようとする世界で、それに抗う『異能者』たちの群像劇です。

処理中です...