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05 平均的な生活はえてしてつまらない
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ああ、一週間は過ぎてしまえば短いと感じられるのに、どうしてこれからやってくる一日一日は長く感じるのだろうか。
月曜日の朝である。憎っくき月曜の朝である。たまの休みで回復した気力を根こそぎかっさらっていく月曜の朝である。爽やかな朝の空気をぶち壊し、鬱を振りまく月曜の朝である。
何が言いたいのかというと―――
「誰だよ、学校週六日にした奴。誰だよ、一日の授業数六時間にした奴・・・」
いつになく死んだような顔をした恢が呪詛を吐いている、ということだけだった。
世間は無情である。
恢とて普段から腐りきっているわけではない。怠惰ではあるが、そこまで堕落しているわけではない。ただ今回はタイミングが悪かった。
―――だからもう一度、いや何度だって言おう。世間は無情だと。
「緋色、起きて。遅刻するよ?」
布団にこもって延々と呪詛を吐き続ける恢を見て、瑠蒼が呆れたように言った。シンプルなデザインの白いシャツと黒のプリーツスカート、誰が見ても、どう見ても私服だ。しかも追加でかわいらしい意匠のクマが刺繍された赤いエプロン付。完全にオフの格好だ。
今まで忙しかった仕事が一区切りついたため、数日の間は休みらしい。
恢はその瑠蒼の服装を一瞥すると再び布団を頭からかぶった。
ぶっちゃけると、これが原因だったりする。
一緒に住んでいるはずなのに、時間が上手く合わなかったせいでここ最近会えなかった幼馴染がせっかく休みで家にいる。だというのに、なぜ学校に行かなければならないのか。
ストレス溜まってんだ、癒しをよこせ・・・というのが恢の言い分である。
因みに屁理屈を言っている自覚はある。
「緋色」
「・・・」
「緋色、学校いこ?」
「面倒」
「授業料もったいないよ」
「一日くらいサボったって変わんねーだろ」
「ダメ。お金払ってるの私よ?」
「電気水道ガス、あと食費はな。学費払ってんのは俺だ」
「そのお金稼いでるのは?」
「・・・そりゃ、瑠蒼のほうが収入多いけどさ・・・」
家主なのに幼馴染に養われているという事実。情けないことこの上ないが事実は事実だ。そのことを出されると恢は強く言えない。一応恢にも稼ぎ自体はあるのだが、全部学費で消えているので何のプラスにもなっていない。
二人だけの家族だというのに、この差はいったいどこで生まれたのだろうか。対等なのはもはや年齢だけである。
瑠蒼に痛いところを突かれ、若干言葉に詰まる恢。何を思ったか最後の悪あがきに出た。
変なところでわがままな奴である。
「なぁ、俺さ」
「なぁに?」
「・・・結構、・・・・んだ」
「?」
瑠蒼をからかうつもりで口を開いたのに、思ったよりも恥ずかしくて口ごもった挙句、小声になってしまった。とんだヘタレである。当然瑠蒼に聞こえているはずもなく、彼女は首をかしげた。
「どうかしたの?」
「・・・いや、なんでもない」
結局盛大に自爆しただけだった。情けない。あとついでに空気も微妙に白けている。
自分の余計な発言で気まずくなってしまった恢が、ついに観念してベッドから出ようとしたとき―――
pipipi・・・pipipi・・・・
着信音が鳴った。発生源は机の上に適当に放られていた、普段使われていない恢のスマホだった。突然鳴りだしたスマホを見て、期待に目を輝かせる恢と、話の腰を折られてむっとした表情を浮かべる瑠蒼。電話に出たのは、机の近くにいた瑠蒼だった。
「・・・」
『恢か?』
「いいえ、私よ。何の用かしら?」
『あれ?九字崎さん?』
「ええ」
『まあいいや、恢に代わってもらえるかな』
電話をかけてきた相手は若い男の声だった。おそらく同年代だろうと思われるその声は、しかし若さに反して嫌に大人びていた。
若干不機嫌なまま返答する瑠蒼。実のところ瑠蒼もこの男のことを知っていた。
半眼で頬を膨らませながら、スマホを渡してきた。
―――リスみたいだ・・・違う、そうじゃない。
「俺だ。替わったぞ」
『ああ、恢か。悪いね朝に突然電話かけて・・・何か良いことでもあったのかい?』
瑠蒼にジト目で睨まれながら、恢は脳内でセルフツッコミをかました。今更な話だが、瑠蒼は結構な美少女だ。西洋の血が入っているせいか、スタイルも良いし、家事もできる。口数が少ないことがやや玉に瑕だが。
だが、そのハイスペック美少女が傍にいたせいで恢には耐性がついてしまったようだ。
画面の向こうの男は瑠蒼とは逆に恢の声が上機嫌なことに気づき、やや困惑した様子で聞いてきた。
「いや別に何も。で、何の用だ?」
そんなことはどうでもいいとあっさりと流し、恢は用件を聞きなおす。相手も気を取り直したのか、咳ばらいをした。
『まぁ大した用件じゃないんだけどね。少し』
「あぁ、受けよう」
『・・・・・・まだ何も言ってないんだけどね・・・』
男はいつになく食い気味な反応をした恢に、微かに苦笑していた。
月曜日の朝である。憎っくき月曜の朝である。たまの休みで回復した気力を根こそぎかっさらっていく月曜の朝である。爽やかな朝の空気をぶち壊し、鬱を振りまく月曜の朝である。
何が言いたいのかというと―――
「誰だよ、学校週六日にした奴。誰だよ、一日の授業数六時間にした奴・・・」
いつになく死んだような顔をした恢が呪詛を吐いている、ということだけだった。
世間は無情である。
恢とて普段から腐りきっているわけではない。怠惰ではあるが、そこまで堕落しているわけではない。ただ今回はタイミングが悪かった。
―――だからもう一度、いや何度だって言おう。世間は無情だと。
「緋色、起きて。遅刻するよ?」
布団にこもって延々と呪詛を吐き続ける恢を見て、瑠蒼が呆れたように言った。シンプルなデザインの白いシャツと黒のプリーツスカート、誰が見ても、どう見ても私服だ。しかも追加でかわいらしい意匠のクマが刺繍された赤いエプロン付。完全にオフの格好だ。
今まで忙しかった仕事が一区切りついたため、数日の間は休みらしい。
恢はその瑠蒼の服装を一瞥すると再び布団を頭からかぶった。
ぶっちゃけると、これが原因だったりする。
一緒に住んでいるはずなのに、時間が上手く合わなかったせいでここ最近会えなかった幼馴染がせっかく休みで家にいる。だというのに、なぜ学校に行かなければならないのか。
ストレス溜まってんだ、癒しをよこせ・・・というのが恢の言い分である。
因みに屁理屈を言っている自覚はある。
「緋色」
「・・・」
「緋色、学校いこ?」
「面倒」
「授業料もったいないよ」
「一日くらいサボったって変わんねーだろ」
「ダメ。お金払ってるの私よ?」
「電気水道ガス、あと食費はな。学費払ってんのは俺だ」
「そのお金稼いでるのは?」
「・・・そりゃ、瑠蒼のほうが収入多いけどさ・・・」
家主なのに幼馴染に養われているという事実。情けないことこの上ないが事実は事実だ。そのことを出されると恢は強く言えない。一応恢にも稼ぎ自体はあるのだが、全部学費で消えているので何のプラスにもなっていない。
二人だけの家族だというのに、この差はいったいどこで生まれたのだろうか。対等なのはもはや年齢だけである。
瑠蒼に痛いところを突かれ、若干言葉に詰まる恢。何を思ったか最後の悪あがきに出た。
変なところでわがままな奴である。
「なぁ、俺さ」
「なぁに?」
「・・・結構、・・・・んだ」
「?」
瑠蒼をからかうつもりで口を開いたのに、思ったよりも恥ずかしくて口ごもった挙句、小声になってしまった。とんだヘタレである。当然瑠蒼に聞こえているはずもなく、彼女は首をかしげた。
「どうかしたの?」
「・・・いや、なんでもない」
結局盛大に自爆しただけだった。情けない。あとついでに空気も微妙に白けている。
自分の余計な発言で気まずくなってしまった恢が、ついに観念してベッドから出ようとしたとき―――
pipipi・・・pipipi・・・・
着信音が鳴った。発生源は机の上に適当に放られていた、普段使われていない恢のスマホだった。突然鳴りだしたスマホを見て、期待に目を輝かせる恢と、話の腰を折られてむっとした表情を浮かべる瑠蒼。電話に出たのは、机の近くにいた瑠蒼だった。
「・・・」
『恢か?』
「いいえ、私よ。何の用かしら?」
『あれ?九字崎さん?』
「ええ」
『まあいいや、恢に代わってもらえるかな』
電話をかけてきた相手は若い男の声だった。おそらく同年代だろうと思われるその声は、しかし若さに反して嫌に大人びていた。
若干不機嫌なまま返答する瑠蒼。実のところ瑠蒼もこの男のことを知っていた。
半眼で頬を膨らませながら、スマホを渡してきた。
―――リスみたいだ・・・違う、そうじゃない。
「俺だ。替わったぞ」
『ああ、恢か。悪いね朝に突然電話かけて・・・何か良いことでもあったのかい?』
瑠蒼にジト目で睨まれながら、恢は脳内でセルフツッコミをかました。今更な話だが、瑠蒼は結構な美少女だ。西洋の血が入っているせいか、スタイルも良いし、家事もできる。口数が少ないことがやや玉に瑕だが。
だが、そのハイスペック美少女が傍にいたせいで恢には耐性がついてしまったようだ。
画面の向こうの男は瑠蒼とは逆に恢の声が上機嫌なことに気づき、やや困惑した様子で聞いてきた。
「いや別に何も。で、何の用だ?」
そんなことはどうでもいいとあっさりと流し、恢は用件を聞きなおす。相手も気を取り直したのか、咳ばらいをした。
『まぁ大した用件じゃないんだけどね。少し』
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