4 / 7
03 学校は無意味なもの 後編
しおりを挟む
放課後、ホームルームも終わり、教室内にいた生徒たちもまばらになった頃。
恢は何をするでもなく、ただ机に突っ伏してうたた寝していた。家に帰ってもすることがないからである。自分でいうと悲しくなるためあまり言いたくはないが、友人は数えるほどしかいない。
恢はボッチだった。
正確には、話しかけてくる奴はそれなりにいるのだが、そいつらとはあまり話したくない。
だって面倒だもの。
脳裏に一番面倒な奴を思い浮かべて溜息を吐く。最近溜息ばかりだな、と思ったその時だった。
「左城宮君、左城宮君・・・」
いつの間にかフラグが建っていたらしい。目線を上げると、つい今したが思い浮かべていた顔がそこにあった。
今一番捕まりたくない奴に捕まった、とげんなりしつつ、恢は口を開いた。
「何だよ、天谷」
天谷良時、御霊と同じ生徒会所属で、学生でありながら既に軍部所属が決まっている優等生だった。
だが、天谷は結構面倒な信条を持っており、御霊とは違った意味でしつこい奴である。
こいつの話はいつも同じ。どうせ今日もそうに決まっている。
「何だよ、じゃないよ。聞いたよ、また会長の勧誘を蹴ったんだって?」
「だからどうしたって?別にお前には関係ないだろ」
やや責めるような口調で話しかけてくる天谷に、恢が不機嫌です、という顔をして言った。
すると天谷は驚いたように目を丸くし、恢に詰め寄ってくる。
「関係ない?そんなわけない!左城宮君は【覚醒者】としての自覚が足りないよ!転移系統の【異能】がどれだけ必要とされているかわからないのかい!?君が十字社に入るだけで・・・」
また始まった。
恢が天谷を毛嫌いする最大の理由。それがこれだった。この男、御霊と違って軍部に心酔している。ことあるごとに周囲の【覚醒者】を軍部ないしは十字社に引き込もうとしてくるのだ。ある時は【異能】を発現したばかりの子供にも声をかけていたらしい。
もはや迷惑行為の域を通り越して、災害である。
当然だが、ここまで酷くはなくとも軍部や十字社に心酔し、褒め称える人は一定数いる。
【覚醒者】の存在が公表されて以来、世界中で発生している【異能】によるテロや凶悪犯罪を解決し、災害時には救助活動を行ってきたという実績があるからだ。
そしてこれも当然だが、天谷はその中でもコアな部類。他の人たちがあくまでファンの域を出ないのに対し、天谷の考えは軍部至上主義のそれだ。
軍部の活動を絶対正義と盲信する狂信者。それが恢の天谷に対する評価である。
「君だって能力は人を救うために使いたいだろう?だったら」
「俺だってテロリストは嫌いさ」
長々と語り続ける天谷を遮り、恢は目を向けた。その昏い眼に、再び口を開きかけた天谷が動きを止める。
「ただ、お前とは違う考え方を持つ奴もいるって知ったほうがいい」
天谷を見据える瞳には、何も映っていない。黒だけがそこに存在していた。
天谷は知っている。その瞳が後天的なものであることを。どうしてそうなったのか、過去に何があったのかは知らないが、その焼け焦げて煤けた瞳が生来のものでないことだけは知っていた。
「・・・俺は、あんな奴らと同じようにはなりたくない。お前らと違って俺には十字社も軍部もテロリストも同じなんだよ」
「っ!?待ってくれ―――」
いい加減聞き飽きた話に苛立ちを覚え、ピシャリと言い放つ。そしてそのまま天谷を無視して『扉』を開き、恢は去って行った。
恢は何をするでもなく、ただ机に突っ伏してうたた寝していた。家に帰ってもすることがないからである。自分でいうと悲しくなるためあまり言いたくはないが、友人は数えるほどしかいない。
恢はボッチだった。
正確には、話しかけてくる奴はそれなりにいるのだが、そいつらとはあまり話したくない。
だって面倒だもの。
脳裏に一番面倒な奴を思い浮かべて溜息を吐く。最近溜息ばかりだな、と思ったその時だった。
「左城宮君、左城宮君・・・」
いつの間にかフラグが建っていたらしい。目線を上げると、つい今したが思い浮かべていた顔がそこにあった。
今一番捕まりたくない奴に捕まった、とげんなりしつつ、恢は口を開いた。
「何だよ、天谷」
天谷良時、御霊と同じ生徒会所属で、学生でありながら既に軍部所属が決まっている優等生だった。
だが、天谷は結構面倒な信条を持っており、御霊とは違った意味でしつこい奴である。
こいつの話はいつも同じ。どうせ今日もそうに決まっている。
「何だよ、じゃないよ。聞いたよ、また会長の勧誘を蹴ったんだって?」
「だからどうしたって?別にお前には関係ないだろ」
やや責めるような口調で話しかけてくる天谷に、恢が不機嫌です、という顔をして言った。
すると天谷は驚いたように目を丸くし、恢に詰め寄ってくる。
「関係ない?そんなわけない!左城宮君は【覚醒者】としての自覚が足りないよ!転移系統の【異能】がどれだけ必要とされているかわからないのかい!?君が十字社に入るだけで・・・」
また始まった。
恢が天谷を毛嫌いする最大の理由。それがこれだった。この男、御霊と違って軍部に心酔している。ことあるごとに周囲の【覚醒者】を軍部ないしは十字社に引き込もうとしてくるのだ。ある時は【異能】を発現したばかりの子供にも声をかけていたらしい。
もはや迷惑行為の域を通り越して、災害である。
当然だが、ここまで酷くはなくとも軍部や十字社に心酔し、褒め称える人は一定数いる。
【覚醒者】の存在が公表されて以来、世界中で発生している【異能】によるテロや凶悪犯罪を解決し、災害時には救助活動を行ってきたという実績があるからだ。
そしてこれも当然だが、天谷はその中でもコアな部類。他の人たちがあくまでファンの域を出ないのに対し、天谷の考えは軍部至上主義のそれだ。
軍部の活動を絶対正義と盲信する狂信者。それが恢の天谷に対する評価である。
「君だって能力は人を救うために使いたいだろう?だったら」
「俺だってテロリストは嫌いさ」
長々と語り続ける天谷を遮り、恢は目を向けた。その昏い眼に、再び口を開きかけた天谷が動きを止める。
「ただ、お前とは違う考え方を持つ奴もいるって知ったほうがいい」
天谷を見据える瞳には、何も映っていない。黒だけがそこに存在していた。
天谷は知っている。その瞳が後天的なものであることを。どうしてそうなったのか、過去に何があったのかは知らないが、その焼け焦げて煤けた瞳が生来のものでないことだけは知っていた。
「・・・俺は、あんな奴らと同じようにはなりたくない。お前らと違って俺には十字社も軍部もテロリストも同じなんだよ」
「っ!?待ってくれ―――」
いい加減聞き飽きた話に苛立ちを覚え、ピシャリと言い放つ。そしてそのまま天谷を無視して『扉』を開き、恢は去って行った。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
電子世界のフォルトゥーナ
有永 ナギサ
SF
人工知能を搭載した量子コンピュータセフィロトが自身の電子ネットワークと、その中にあるすべてのデータを物質化して創りだした電子による世界。通称、エデン。2075年の現在この場所はある事件をきっかけに、企業や国が管理されているデータを奪い合う戦場に成り果てていた。
そんな中かつて狩猟兵団に属していた十六歳の少年久遠レイジは、エデンの治安維持を任されている組織エデン協会アイギスで、パートナーと共に仕事に明け暮れる日々を過ごしていた。しかし新しく加入してきた少女をきっかけに、世界の命運を決める戦いへと巻き込まれていく。
かつての仲間たちの襲来、世界の裏側で暗躍する様々な組織の思惑、エデンの神になれるという鍵の存在。そして世界はレイジにある選択をせまる。彼が選ぶ答えは秩序か混沌か、それとも……。これは女神に愛された少年の物語。
<注意>①この物語は学園モノですが、実際に学園に通う学園編は中盤からになります。②世界観を強化するため、設定や世界観説明に少し修正が入る場合があります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
ブルースカイ
ハコニワ
SF
※この作品はフィクションです。
「ねぇ、もし、この瞬間わたしが消えたら、どうする?」
全ては、この言葉から始まった――。
言葉通り消えた幼馴染、現れた謎の生命体。生命体を躊躇なく刺す未来人。
事の発端はどこへやら。未来人に勧誘され、地球を救うために秘密結社に入った僕。
次第に、事態は宇宙戦争へと発展したのだ。
全てが一つになったとき、種族を超えた絆が生まれる。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる