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03.アルバイトの正体

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 ――――「着いたよ、起きて」

運転手に揺り起こされ、二人は目が覚めた。

目を開くと、とても重厚な造りのホテルらしきものが目に入る。かなり広そうなそのホテルは、外観はレンガ造りで、周りには手入れが行き届いた草花が咲き誇り美しい。とにかくものすごく高そう……という感想しか、二人には出てこなかった。

車が到着して荷物を降ろしていると、ホテルのドアが開き、執事のような格好をした男が近付いてくる。

「小池春太くんと、長谷川智宏くんですね?」

「は……、はい!」

二人は同時に返事をし、男はその様子の二人を見てにっこりと笑うと、荷物をひょいっと持ち上げて声をかけた。

「さぁ、お部屋にご案内しましょう」

春太と智宏は運転手に一礼すると、執事のような男の少し早い足取りに、遅れないようについてゆく。部屋は1階のようで、正面まで行って左に曲がるとドアがあった。

「二人の部屋はここですよ……、あと、先ほどの正面を右に入ればレストランの裏側に出ます」

男はそう言いながら重厚な1枚ドアを開くと、そこはツインベッドが置かれてあり、そのベッドもとても高そうな物だった。あまりに煌びやかな部屋に二人は驚き、智宏は本当に無料でいいのか念を押すように男に聞く。

「ここ本当にバイト中はお金いらないんですか……?」

「バイト中はいりませんよ、ただ、バイトが終わってから泊まったら、1泊15万円です」

「えっ!!」

男は二人一斉に上げた声にくつくつと笑い、二人はその値段に恐れおののいた。

「ふふ、冗談です。アルバイト後は5日間だけ無料にして差し上げるので、アルバイトが終わったらそのまま帰ってもいいですし、5日間は無料で泊まっていっても構いません」

「えっ、すごい!」

二人はこの待遇に嬉しさしか持ち合わせず、ふかふかのベッドに座って男の話を聞いた。

「春太くんはこの後すぐに接客に入って頂きます。智宏くんは明日から……」

「えっ、すぐ……?」

春太は困惑したが、ありのままを男に聞いてみた。

「僕……、高いお店も入ったことがないし、まだ何も教えて貰ってないのに……大丈夫でしょうか……」

「そういえば、まだご挨拶をしておりませんでしたね。私は、総支配人の蕪木かぶらぎと申します」

「そ……、総支配人……」

二人は一瞬目を合わせると、すぐに立ち上がり、蕪木に頭を下げた。

「小池春太……です! 宜しくお願いします!」

「長谷川智宏です! 宜しくお願い致します!」

「あはは、元気でいいね。 お客さんも、きっと君たちなら気に入ると思うよ。 じゃあ、早速バイトを始めて欲しいんだけど、この書類にサインしてくれる?」

二人は文面もあまり見ずに、急いで自分たちの名前を書いた。

「じゃあ、まずは春太くんから案内しようか……制服のサイズを確かめないといけないからね」

「あ、えと……はい!」

「智宏くんは、私の部下の富田があとで明日の打ち合わせに来るので、少し待っていてくださいね」

「わかりました!」

春太は手で智宏に(バイバイ)と手を振り、蕪木の後を追った。

蕪木は背が高く、燕尾服を身に纏い、長すぎず短すぎない髪は真っ黒で美しかった。男に対して美しいと思うのはちょっと違うのかなとも思いながら、春太は蕪木の不思議な魅力に目を奪われた。色白で睫が長く、薄いグレーの瞳は吸い込まれそうなほどに美しい。背筋もピンとしており、燕尾服がよく似合っている。

「着きましたよ、さぁ、ここに入って……」

蕪木に見とれていた春太は、急いで視線を外したが、すぐに気付かれてしまった。

「私の顔に何かついていますか?」

「えっ、いや……な……何も……」

蕪木はそれを聞くと、到着した部屋のドアを開けた。そこは衣装部屋らしく、たくさんの服がぶら下がっている部屋だ。暫く蕪木は衣装を何枚か手に取ったが、その中の1枚を春太に渡した。受け取った服は、女性用のチャイナ服のような形をしており、パンツ的なものは付いていない。

「こ……れ、なんか……肌がいっぱい出ちゃいそう……です、ね……」

春太は顔を真っ赤に染め、本当にこれを着るのかと思うと、心臓が口からこぼれ落ちそうな程緊張した。

蕪木は何も言わず、無表情のまま春太を見ている。

「あ……あの……、今ここで着替えるのでしょうか……」

春太は恥ずかしくなりながらも、蕪木にやっとの思いで声をかけた。

「ちゃんとピッタリ合うかどうか、見極めるのも私の仕事なので……」

「は……はい……」

春太は猛烈に顔の熱さを感じたが、支配人である蕪木の言うことも尤もであると判断して、下着1枚の姿になった。

渡されたその衣装は、着てみると更に顔の熱さを増やすようなデザインである。両胸はダイヤ型に穴が空いており、乳首が外に見えるようになっていた。前と後ろを隠すチャイナ服の裾はとても短く、横から下着が見えてしまう。

「下着は脱いでください」

蕪木は淡々とした口調で、衣装の背中にあるホックを留めながら、いともあっさりと大胆な言葉を放った。

「えっ……」

春太は狼狽したが、美しい蕪木に見られているとなんとも言えない気分になり、従った。下着を脱ぎ、蕪木がホックを留め終わると、上半身にピッチリとまるで誂えたかのように衣装が食い込む。露出した乳首だけが風に晒されており、どうしても意識してしまう。



横に入っているスリットは、ウエストの位置まで深く切り込まれ、風が少しでも吹いたら下半身が見えてしまいそうな程である。下着を脱いで何か渡されるのかと思っていたら、その後に渡される物はないようであった。

春太は真っ赤になりながら蕪木に聞いた。

「あの……、どうして胸が出るようにしてあるんですか……?」

「あぁ、それはお客様に、色や形、肌触りを確かめてもらう為だよ」

「は……肌触り? あと……、その……パンツを履きたいです……」

蕪木は春太の言葉を受け取ると、少しニヤリと笑いつつ、春太を背後から抱き留めた。そして、春太の乳首をおもむろに指先で摘まむ。春太は驚いたが、クリクリと指先で両の乳首を捏ねられると、思わず声が出てしまった。

「……やっ、あ……」

初めて人の手で両の乳首を捏ねられた春太は、その感覚に驚きを隠せなかった。初めて会った人に性的なことをされているのは分かってはいるのだが、乳首を摘まんで捏ねられたり引っ張られると、ジン……という快感が全身を這う。

「春太くん……、いや、春太は、男性経験があるのかな……?」

蕪木はあまりの感度の良さに聞いてみたが、春太はぶんぶんと顔を振る。経験などさらさらも無く、春太は童貞だった。主な性欲の発散といえば、いつも想像してしまう智宏とエッチなキスをして扱きあうという妄想しかなく、それをオカズにしてのオナニーぐらいしかない。ただ経験が無く、それ以上が想像ができないということでもあった。

そんな春太は今、後ろから男性に抱き留められ、乳首を弄られている。何度も何度も、引っ張ったり捏ねられたりしているうちに、陰茎はしっかりと勃起してしまった。チャイナの裾が勃起した陰茎に押し上げられ、捲れてしまっている。恥ずかしくて、これでお客さんの前に出るなんて、無茶な話だ。

「あぁ、勃起したね……、いい子だ……」

内股になり、ガクガクと震える足は言うことを聞かず、今にもへたり込みそうになる。蕪木が股の間に足を差し入れて立たせてくれているので、なんとか立位を保てているものの、このままでは立っていられなくなるのは時間の問題だった。

「春太はだいぶエッチな子なんだね……、思った通りで嬉しいよ」

蕪木はそう言うと小さな回転する丸椅子に春太を座らせた。そしてそのまま春太の前に屈み込み、勃起してしまった春太の陰茎から出る蜜を指に纏わせ、陰茎を軽く握って鈴口をクチクチと撫でつつ仕事の説明をし始めた。

「ここはね、少年が好きなお客さんが大金を積んで遊ぶ場所なんだ。春太は各席を回って、お客さんから薔薇を受け取るんだよ。薔薇は色によって金額が定められていて、赤は100万円、白は300万円、青は500万円という意味なんだ。もちろん春太にバックもあるよ、100万なら10万円、300万なら30万円、500万なら50万円……」

春太は、蕪木の声が耳には入っているが、何しろ初めて人に握られ、鈴口を弄られて何も考えることが出来ずにいた。頭の中では拒否しなくてはいけないと分かってはいても、快感で体中がゾクゾクとして拒否できず、鈴口がエッチな音を立てて触られている状態から逃れられずにいる。

「あ……、んあ……っ、ぁあ……」

「お客さんの中には、まずは味見ということで乳首を弄ったり、陰茎の硬さなどを確かめる人もいるからね。だからこんな衣装になってるんだ。あぁ……それとね、一番大きなお金を出した人はテーブルに春太を呼ぶことができて、とってもエッチなことをしてもらえるよ……。最初は、みんなの前だから恥ずかしいかもしれないけど、お客さんがたくさんチップをくれるから、頑張ってね」

春太はまだよく分かっていないが、ここは娼館なのだ。取り扱うのは少年の男娼のみで、春太はこれから毎日顧客を満足させなくてはならない。

「まずは、こういうことに慣れておかないとね……」

蕪木はそう言うと、鈴口を嬲る指先に少し力を入れ、春太の乳首を熱い舌で交互に舐め上げ力強く吸う。部屋の中に、ちゅぱ、ちゅぱっという水音が響き、春太はだんだん声が我慢できなくなっていった。

「ん……っ、やだ……っ、あ……っん……」

春太はそう口では少し嫌がっても、初めて味わう快感に既に身を委ねていた。乳首は、吸われれば吸われるほど敏感になり、蕪木の舌で舐められると自分でも乳首が硬くなっているのが分かる程だった。

「さて、そろそろ時間だな……お客さんが待ってるから、行こう」

蕪木は身体を離すと、春太の細い腕を引っ張り、歩くよう促した。とはいえ、完全に勃起している状態では歩きづらく、まるで生まれたばかりの子鹿のように震える足は、一歩も動けない状態だった。蕪木は、その様子でも腕を引っ張って振り返りもせずに春太を連れてゆく。

「か……、蕪木さ……、待って……」

春太は何度も立ち止まりかけたが、その度にグンとした力強い蕪木の手に引かれ、暗い廊下を歩いた。どうやら通り過ぎる風景から見れば、ここは舞台袖のような雰囲気だった。カーテンが引かれてあり、その向こうからは談笑する男たちの声が聞こえ、柔らかい光がこちらに漏れている。

「ちょっと待っててね」

蕪木は舞台袖に春太を残すと、ボタンを押し、カーテンを開けた。春太は急いでカーテンを自分の方に少し手繰り寄せ、身を隠す。蕪木はステージ上に立つと、左手を胸に当て、右手を大きく下に広げて丁寧に一礼し、言葉を発した。

「今宵も大勢の方にお集まり頂き、感謝致します……、本日はとっておきの初物はつもの、春太をご用意しました!」

それを聞いて、客の男たちはざわめき、拍手した。

「初物か……!」
「これはまた初日から熱い戦いになりそうですな~」
「あぁ、もっと金を用意してから来れば良かった……」

数々のスーツ姿の男たちの声がする。

蕪木は目線を春太に動かして、袖まで戻ると、春太を引っ張り、ステージ上に出した。

「おぉ、これはいいですな!」
「これで初物とは、負けられませんね……」
「綺麗な顔に、これまたいやらしい胸の蕾が堪らんなぁ……」

男たちは色めき立ち、好き勝手な言葉を並べている。しかし、春太は先ほどの興奮も一瞬で消え去ってしまい、足が恐怖で震えて逃げ出したくても動けない状態になった。もちろん勃起していた陰茎は萎え、恐怖でいっぱいだ。

「それでは……、本日は私が特別に、春太を連れてテーブルを廻ります。私に対しての入札はできませんが、春太は全くの素人です。私が最初に特別指導を致しますので、どうか皆さまご安心ください」

蕪木はそう言うと、春太を引き連れながらステージ横の階段から下に降りてゆく。

「おぉ! 今日参加できた我々はとてもラッキーですな」
「蕪木がテーブルを廻るなど、興奮が収まりませんね……」
「特別指導だと……!? それはまた久々だな……!」

レストランのような場所は、テーブル数は僅か5つしかない。各テーブルには男2人が座っており、赤白青の薔薇が花瓶に収められ、テーブルに置かれている。薔薇の数はそれぞれの持ち金を表し、花瓶に収められている薔薇の数は、テーブルごとに違う。

蕪木はテーブルに向かう途中で、ふっと優しい顔になり、そっと春太の頭を撫でて耳打ちした。

「お客さんのテーブルは、各10分の考える時間が与えられるんだ。怖いことはないし痛くもしない。みんな優しいし、ここにいるのは紳士ばかりだよ。テーブルに行ったら、お客さんが少しエッチなことをするから、何も考えずにそのまま気持ちよくなっていいからね……」

春太はもう、どうしたらいいのか分からなかった。恐怖心はあるものの、蕪木に優しい顔を向けられると拒否できなくなる。

逃げ出したい気持ちと、蕪木にされた先ほどの性行為とが交錯し、みんなにエッチなことをされて気持ちよくなるという行為に興味さえ出てきてしまっていた。だが、やはり色んな男性に肌を触れられることへの恐怖心が残っている。

「さぁ、1番テーブルから行こうか……」

蕪木は春太の手を引き、歩いてゆく。


~つづく~

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