上 下
57 / 78
第七章 ノベルvsイレイザー

54.拳法使いの実力

しおりを挟む

「ぶがあっ!」

「だめだめ。アズリエルさん、お口はチャックっスよ?」

 俺は吹き飛び、闘技場の壁に思いっきりめり込む!
 なっ……なんだこの男!
 吹っ飛んだ腕はどうしたんだよ!
 足は、胴は?!
 亜人の弱点である頭には弾を当てないようにしたが、それが理由でこんなにも早く再生できたのか?!
 だって、10秒ギリギリで全再生だぞ、絶対にあり得ない!

「……随分と重い一撃だったっス。さすがにあの大きさの銃が召喚されてくるのは計算外も計算外、面食らって笑ったっスよ」

 イレイザーは右拳を突き出し、いつもの余裕そうな笑顔を俺に見せやがったのだ!
 ――なぜ両腕が残っている?!
 俺は間違いなくイレイザーの腹と両腕を8丁の銃で撃ち抜いた!
 亜人族の細胞がの再生は早くとも15秒以上、完全回復は30秒以上はかかると文献で読んだ!
 体さえ奪えればこっちのものだと――!

「なんとも切なげっスね。『亜人の拳法使いなら、倒せなくとも手足を使えなくすればいい』。そんなこと、誰でも思いつくっスよ。なのに、僕が対策しないと思ってるんスか?」

 俺はイレイザーの気持ちの悪い笑顔を眺めながら口から大量の吐血をする!
 おそらく、内臓を何個か、肋骨を何本かやられた!
 たったの一撃で、強固に鍛えてきた腹筋を貫き、新竜人族ドラゴニアンの初期魔法・『瞬間強化ストロング』で腹を強化しても、なお貫通するイレイザーの鉄拳!
 瞬間強化ストロング無しにあの『必中会心クリティカル』って技をもらっていたならば、俺は今頃真っ二つだぞ!

「あんな浅はかな一撃が奥の手とか言わないっスよね? 最高火力で叩けば僕に勝てる? 強みを消せば僕に勝てる? 甘くて甘くて、チョコレートよりも甘ったるいっス」

「ちっ、言ってくれるじゃんかイレイザー!」

 俺はどうにか立ち上がり、腹を抑えて銃を1丁手元に召喚する。
 もう、あの大技は使えない。
 一撃で終わらせるつもりだったから、俺の魔力は全体の20%ほどしか残してない。
 万が一、こんなことになったら嫌だなって残しておいた微々たる保険だ。
 イレイザーにダメージを負わせ、両方ギリギリの状態で泥試合が始まるかと思えば、まさかの向こうは一瞬でノーダメージだ。
 ……せめて、亜人族の全快限界の30秒は欲しかった!
 それに、あのスピードでの回復魔法による細胞再生も合点はいかない!
 亜人族の回復力と合わされば、たった数秒で全快できるものなのか?!
 否!
 文献で読んだデータでは、『全快限界の時間は回復魔法使用データ』だって書いてたぞ!
 つまり、回復効果が含まれているとしても亜人族の全快スピードは30秒が限度だ!

「満身創痍っぽいスね。ノーダメージの魔法はどうしたんすか?」

「発動しねぇよ。お前みたいに強い奴は対象外だ」

「あらあら、そうなんスね。て言うか、褒めてくれて嬉しいっス!」

 イレイザーは無邪気に笑う。
 お前のその満面の笑みはホラー画像とまで言いたくなる!
 一応、戦闘中だぞ、なんでそんなに楽しそうにできるんだ!

 いやぁビビったビビった!
 全く勝てる気がしなさすぎて怖い!

「他に何か手品とかないんスか? ないなら、次は右腕をもらうっス。大丈夫っスよー、僕が治すんで」

「怖いこと言うなよ! このサイコパス野郎!」

「ははは、冗談ッスよ!」

 イレイザーの目は全く笑っておらず、口元だけが笑っている。
 もう、この人怖い!

「さぁ、やり合いましょうよノベルくん。僕に勝ちたいなら、攻めるしかないっスよ?」

「あぁ、そうだな! お前が攻撃してこないんなら、こっちからぶちかましてやんよ!」

 俺は銃を空へ掲げると、俺の背後ろに10丁の銃を召喚した!
 もう、あの規格外にバカでけぇ銃は召喚できない!
 とりあえず、今は燃費の良いカスッカスの銃弾を打ちまくるしかない!

 万が一の第2の策はこんな状況では使いたくねぇ!

「発射!」

俺は一斉に銃の引き金を魔法で引くと、11発の弾丸がイレイザーに向けて飛んでいく!

「そんな単調な技が効くと思うっスか? 今さっきの攻撃と比べれば、容易く避けられるっス」

 イレイザーは言う通り、合計11発の弾をひょいひょいとかわして見せた!
 やっべぇ……やっべぇなコイツは!
 想像の遥か上をいってやがる!

「くっ……うらぁぁぁぁ!」

 俺はイレイザーの目の前に3丁召喚して速射するが、頭の動き3回で全て躱す!
 彼の頭上に5丁召喚しても、イレイザーは俺から目を離さずに全て躱して見せる!

「単調っスねぇ。召喚して撃つだけ。ステイプラーはもっと面白い戦闘スタイルを見せてくれたんすけど……オリジナルには勝てないっスね」

「ぐぅ……」

 ――そして、イレイザーは地面を蹴り上げて飛翔、俺の頭に向けて掌底を繰り出そうとしている!
 一番最初のあの動きはなんだったんだ!
 速度が桁違いに上がってやがる!
 何も見えない、初動を見るのが限界だ!

「チェックメイトっスね」

「まだだっ!」

 イレイザーは大きく口を開け、技名を叫ぶ!

必中会心クリティカル』!!

 俺は銃を2丁、靴の裏に召喚して速射!
 反動で俺はひっくり返り、前転によってイレイザーの掌底を回避!
 さらに、撃たれた2発の弾は、イレイザーの足の指を貫通!

 ――しかし、瞬きをした後にはすでにイレイザーの足は回復しており、俺は彼の裏拳を肩に受けていた!

『必中会心《クリティカル》』!!

「がぁぁぁっ!」

 またも俺は壁に叩きつけられ、観客席にいたアズリエルが俺の元へと駆け寄ってくる!

「……ぐばぁっ!」

 アズリエルが俺のところに来てくれてる。
 勇気と元気がもらえて仕方がない。

 ……クソ、もう右腕は使えねぇ。

「アズリエルさんの言う通りっス。初めから勝ちの目はない。振られた賽子さいころの目は何度振ろうと1ばかり。いや、0の目っス。賽子ですらない。そもそもそういう次元の違う話をしているのにそろそろ気付いた方がいいっス」

 イレイザーは拳をコキコキと鳴らす。
 まだまだ余力がありそうな彼は、ゆっくりとこちらに歩いてきている。
 まるで、投げたおもちゃを拾いに行く子供みたいだ。
 イレイザーのやつ、戦闘中だというのに、無防備もいいところだ!
 それほど、俺は舐められまくってんだな。

 ……ん、アズリエルの言う通り?

「ハイライター。カウントをお願いするっス」

「あ、あぁ! 1、2、3、4……」

「待て待て、まだ俺はやれるって!」

 俺は立ち上がると、イレイザーは目にも留まらない速さで俺の懐に飛び込んでくる!

「っちくしょぉ!」

 俺は手元に二丁、銃を召喚してイレイザーに打ち込む!
 しかし彼は、目に見えた攻撃を全て避ける。
 だが、予想外の攻撃は当たるが、その怪我は一瞬で回復。
 亜人族ではありえない回復力の早さの原因は、ほぼ100%の確率で妖精族の魔法によるものだ!
 あまりにも高速の回復で、俺がどれだけダメージを与えても回復され続ける。
 これじゃあ、俺はいつになっても勝てやしない。
 もう、こりゃもう降参するしかないかも。

「とか思わせたいんだか知らんが、お前の作戦は甘いんだよ。もう少し演技力を磨け?」

「……なんスか? 負け犬の遠吠えにしては少し雑音が過ぎるっス」

 俺は立ち上がり、アズリエルの方を向く。
 おお、必死に応援してくれてるぜありがてぇ。
 彼女は口の前に手でメガホンを作って、必死に何かを訴えかけようとしている。
 もしかして、俺にアドバイスでもくれてんのか?
 残念ながら、もうアズリエルの声は俺には届かない。
 全くと言って良いほど、アズリエルの声が聞こえないのである。
 不思議だよな?

「なぁイレイザー。お前の強さの秘密が分かったぜ? まぁ、分かったところで魔法の対策はできないんだけど」

 俺は1丁の銃を手元に召喚し、イレイザーの方に振る。

「……なんの真似スか?」

「いいぜ、来いよイレイザー。早くしないと、この銃の引き金を引くぜ?」

「ほう、随分と面白い冗談スね。撃ってもいいっスよ? 僕にはそんな攻撃なんて」

 残念、当たるんですわ。

「ぶがっ!」

 イレイザーの肩に、俺の弾が命中!
 その弾を撃ったのは、彼の頭上5メートルの位置にある銃だ!
 やはり、俺の思った通りに動いたなイレイザー!

「イレイザー、攻略法を見つけたぞ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

少年は魔王の第三子です。 ~少年は兄弟の為に頑張ります~

零月
ファンタジー
白龍という少年が魔王の息子として異世界へと転生して人間の学園へ通います。その後魔王となる兄に頼まれて勇者と共に戦ったりする話です。ハーレムはありません。小説家になろう様で投稿していたものを書き直して投稿していきます。おかしい所など指摘して貰えると幸いです。不定期更新ですが宜しくお願いします。

異世界国盗り物語 ~野望に燃えるエーリカは第六天魔皇になりて天下に武を布く~

ももちく
ファンタジー
天帝と教皇をトップに据えるテクロ大陸本土には4つの王国とその王国を護る4人の偉大なる魔法使いが存在した 創造主:Y.O.N.Nはこの世界のシステムの再構築を行おうとした その過程において、テクロ大陸本土の西国にて冥皇が生まれる 冥皇の登場により、各国のパワーバランスが大きく崩れ、テクロ大陸は長い戦国時代へと入る テクロ大陸が戦国時代に突入してから190年の月日が流れる 7つの聖痕のひとつである【暴食】を宿す剣王が若き戦士との戦いを経て、新しき世代に聖痕を譲り渡す 若き戦士は剣王の名を引き継ぎ、未だに終わりをしらない戦国乱世真っ只中のテクロ大陸へと殴り込みをかける そこからさらに10年の月日が流れた ホバート王国という島国のさらに辺境にあるオダーニの村から、ひとりの少女が世界に殴り込みをかけにいく 少女は|血濡れの女王《ブラッディ・エーリカ》の団を結成し、自分たちが世の中へ打って出る日を待ち続けていたのだ その少女の名前はエーリカ=スミス とある刀鍛冶の一人娘である エーリカは分不相応と言われても仕方が無いほどのでっかい野望を抱いていた エーリカの野望は『1国の主』となることであった 誰もが笑って暮らせる平和で豊かな国、そんな国を自分の手で興したいと望んでいた エーリカは救国の士となるのか? それとも国すら盗む大盗賊と呼ばれるようになるのか? はたまた大帝国の祖となるのか? エーリカは野望を成し遂げるその日まで、決して歩みを止めようとはしなかった……

【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!

花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】 《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》  天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。  キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。  一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。  キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。  辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。  辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。  国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。  リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。 ※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作    

元魔王おじさん

うどんり
ファンタジー
激務から解放されようやく魔王を引退したコーラル。 人間の住む地にて隠居生活を送ろうとお引越しを敢行した。 本人は静かに生活を送りたいようだが……さてどうなることやら。 戦いあり。ごはんあり。 細かいことは気にせずに、元魔王のおじさんが自由奔放に日常を送ります。

魔法より呪術のほうが最強のようです。

花野りら
ファンタジー
 完結まで毎日更新!  伝説の純白ドラゴンに呪いをかけられた魔法女子大生キララ。彼女の呪いを祓うためには、ベビードラゴンを育てることだった! 大戦乱世は遠い昔のこと、新時代の異世界は、人間も魔族もみんな仲良く暮らしていた。だが、やっかいな問題があった。それは『呪い』である。この物語は、呪われて魔法が使えない女子大生キララが、いろいろなお仕事体験をしながら、呪術師ヌコマールとともに世直しをする──バトルファンタジーである。  登場人物  キララ(20)   魔法学校フロースの女子大生。成績優秀なエリート  ヌコマール(16) 呪術師。風変わりな美少年で、前世の記憶をもつ  ハヤテ(29)   聖騎士の団長。心は優しいが、悪者に対して容赦がない  クラリス(27)  勇者。モテるし実力もあるが、女好きの俺様男  キャンディ(20) キララの同級生。王族の姫、超ポジティブで勇者が好き  バニー(20)   キララの同級生。人間と女神のハーフ、驚異的な魔力をもつ    タマ(15)    呪術館のメイド。猫耳族でかわいい。料理が得意。  オノ(18)    呪術館の執事。サキュバスで魔法道具の研究者。  ソイーネ(1)   赤ちゃんドラゴン  マコ(20)     戦士。剣を愛する陽キャ  リク(20)     魔法使い。っすキャラ  ミイヒ(20)    僧侶。影の実力者的な存在  ニナ(20)     村長の娘。絶世の美女    ミネル(27)   教授。キララを高く評価している  ペンライト(52) 王都ペンライトの王様。キャンディの父。

ポンコツなおっさんに今更ながら異世界に召喚されてしまった。

accstc
ファンタジー
 周りに響く女子の話声をなるべく聞かない様に俺は通路の端を歩きながら昨日読んだ小説の最後を思い出していた。  まさかあそこで新しいチート技が発動するとはなぁ、やっぱ異世界へ転生転移した人間がチート級の活躍する話は面白いよ。  男なら一回は体験してみたいって思うだろうし!    まぁだけど最近はその異世界転生/転移ブームも下火になってきたかもな。 昨日の作品も面白かった割にはそこまで人気は無さそうだったし。  異世界転生系の小説はもうやり尽くした感あると思ってたし、この流れも仕方ないかな?  ……それとも、もうみんな異世界に行きたいってそれ程思わなくなっちゃたのかな??    もしそうなら少し悲しい気持ちになるな。 「いや、まだまだこれからだろ! きっとまた人気になるさ!!」  目的の場所についた俺は誰にも聞こえない様に小さく呟き、目の前の扉をあける。  異世界は面白い。  この日まで俺は本気でそう思っていた。 ※本作は異世界転移小説ですが聖女、占い、悪役令嬢、ざまぁ、チート、ハーレム、異世界転生がお好きな方には一部不快な表現があると思います。 基本的にはキャラの思想ですのでご理解下さい。 勿論私は全部好きです……。それでも宜しければ是非ご愛読よろしくお願いします!

転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。

みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい! だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

異能力と妖と

彩茸
ファンタジー
妖、そして異能力と呼ばれるものが存在する世界。多くの妖は悪事を働き、異能力を持つ一部の人間・・・異能力者は妖を退治する。 そんな異能力者の集う学園に、一人の少年が入学した。少年の名は・・・山霧 静也。 ※スマホの方は文字サイズ小の縦書き、PCの方は文字サイズ中の横書きでの閲覧をお勧め致します

処理中です...