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第七章 ノベルvsイレイザー
54.拳法使いの実力
しおりを挟む「ぶがあっ!」
「だめだめ。アズリエルさん、お口はチャックっスよ?」
俺は吹き飛び、闘技場の壁に思いっきりめり込む!
なっ……なんだこの男!
吹っ飛んだ腕はどうしたんだよ!
足は、胴は?!
亜人の弱点である頭には弾を当てないようにしたが、それが理由でこんなにも早く再生できたのか?!
だって、10秒ギリギリで全再生だぞ、絶対にあり得ない!
「……随分と重い一撃だったっス。さすがにあの大きさの銃が召喚されてくるのは計算外も計算外、面食らって笑ったっスよ」
イレイザーは右拳を突き出し、いつもの余裕そうな笑顔を俺に見せやがったのだ!
――なぜ両腕が残っている?!
俺は間違いなくイレイザーの腹と両腕を8丁の銃で撃ち抜いた!
亜人族の細胞がの再生は早くとも15秒以上、完全回復は30秒以上はかかると文献で読んだ!
体さえ奪えればこっちのものだと――!
「なんとも切なげっスね。『亜人の拳法使いなら、倒せなくとも手足を使えなくすればいい』。そんなこと、誰でも思いつくっスよ。なのに、僕が対策しないと思ってるんスか?」
俺はイレイザーの気持ちの悪い笑顔を眺めながら口から大量の吐血をする!
おそらく、内臓を何個か、肋骨を何本かやられた!
たったの一撃で、強固に鍛えてきた腹筋を貫き、新竜人族の初期魔法・『瞬間強化』で腹を強化しても、なお貫通するイレイザーの鉄拳!
瞬間強化無しにあの『必中会心』って技をもらっていたならば、俺は今頃真っ二つだぞ!
「あんな浅はかな一撃が奥の手とか言わないっスよね? 最高火力で叩けば僕に勝てる? 強みを消せば僕に勝てる? 甘くて甘くて、チョコレートよりも甘ったるいっス」
「ちっ、言ってくれるじゃんかイレイザー!」
俺はどうにか立ち上がり、腹を抑えて銃を1丁手元に召喚する。
もう、あの大技は使えない。
一撃で終わらせるつもりだったから、俺の魔力は全体の20%ほどしか残してない。
万が一、こんなことになったら嫌だなって残しておいた微々たる保険だ。
イレイザーにダメージを負わせ、両方ギリギリの状態で泥試合が始まるかと思えば、まさかの向こうは一瞬でノーダメージだ。
……せめて、亜人族の全快限界の30秒は欲しかった!
それに、あのスピードでの回復魔法による細胞再生も合点はいかない!
亜人族の回復力と合わされば、たった数秒で全快できるものなのか?!
否!
文献で読んだデータでは、『全快限界の時間は回復魔法使用データ』だって書いてたぞ!
つまり、回復効果が含まれているとしても亜人族の全快スピードは30秒が限度だ!
「満身創痍っぽいスね。ノーダメージの魔法はどうしたんすか?」
「発動しねぇよ。お前みたいに強い奴は対象外だ」
「あらあら、そうなんスね。て言うか、褒めてくれて嬉しいっス!」
イレイザーは無邪気に笑う。
お前のその満面の笑みはホラー画像とまで言いたくなる!
一応、戦闘中だぞ、なんでそんなに楽しそうにできるんだ!
いやぁビビったビビった!
全く勝てる気がしなさすぎて怖い!
「他に何か手品とかないんスか? ないなら、次は右腕をもらうっス。大丈夫っスよー、僕が治すんで」
「怖いこと言うなよ! このサイコパス野郎!」
「ははは、冗談ッスよ!」
イレイザーの目は全く笑っておらず、口元だけが笑っている。
もう、この人怖い!
「さぁ、やり合いましょうよノベルくん。僕に勝ちたいなら、攻めるしかないっスよ?」
「あぁ、そうだな! お前が攻撃してこないんなら、こっちからぶちかましてやんよ!」
俺は銃を空へ掲げると、俺の背後ろに10丁の銃を召喚した!
もう、あの規格外にバカでけぇ銃は召喚できない!
とりあえず、今は燃費の良いカスッカスの銃弾を打ちまくるしかない!
万が一の第2の策はこんな状況では使いたくねぇ!
「発射!」
俺は一斉に銃の引き金を魔法で引くと、11発の弾丸がイレイザーに向けて飛んでいく!
「そんな単調な技が効くと思うっスか? 今さっきの攻撃と比べれば、容易く避けられるっス」
イレイザーは言う通り、合計11発の弾をひょいひょいと躱して見せた!
やっべぇ……やっべぇなコイツは!
想像の遥か上をいってやがる!
「くっ……うらぁぁぁぁ!」
俺はイレイザーの目の前に3丁召喚して速射するが、頭の動き3回で全て躱す!
彼の頭上に5丁召喚しても、イレイザーは俺から目を離さずに全て躱して見せる!
「単調っスねぇ。召喚して撃つだけ。ステイプラーはもっと面白い戦闘スタイルを見せてくれたんすけど……オリジナルには勝てないっスね」
「ぐぅ……」
――そして、イレイザーは地面を蹴り上げて飛翔、俺の頭に向けて掌底を繰り出そうとしている!
一番最初のあの動きはなんだったんだ!
速度が桁違いに上がってやがる!
何も見えない、初動を見るのが限界だ!
「チェックメイトっスね」
「まだだっ!」
イレイザーは大きく口を開け、技名を叫ぶ!
『必中会心』!!
俺は銃を2丁、靴の裏に召喚して速射!
反動で俺はひっくり返り、前転によってイレイザーの掌底を回避!
さらに、撃たれた2発の弾は、イレイザーの足の指を貫通!
――しかし、瞬きをした後にはすでにイレイザーの足は回復しており、俺は彼の裏拳を肩に受けていた!
『必中会心《クリティカル》』!!
「がぁぁぁっ!」
またも俺は壁に叩きつけられ、観客席にいたアズリエルが俺の元へと駆け寄ってくる!
「……ぐばぁっ!」
アズリエルが俺のところに来てくれてる。
勇気と元気がもらえて仕方がない。
……クソ、もう右腕は使えねぇ。
「アズリエルさんの言う通りっス。初めから勝ちの目はない。振られた賽子の目は何度振ろうと1ばかり。いや、0の目っス。賽子ですらない。そもそもそういう次元の違う話をしているのにそろそろ気付いた方がいいっス」
イレイザーは拳をコキコキと鳴らす。
まだまだ余力がありそうな彼は、ゆっくりとこちらに歩いてきている。
まるで、投げたおもちゃを拾いに行く子供みたいだ。
イレイザーのやつ、戦闘中だというのに、無防備もいいところだ!
それほど、俺は舐められまくってんだな。
……ん、アズリエルの言う通り?
「ハイライター。カウントをお願いするっス」
「あ、あぁ! 1、2、3、4……」
「待て待て、まだ俺はやれるって!」
俺は立ち上がると、イレイザーは目にも留まらない速さで俺の懐に飛び込んでくる!
「っちくしょぉ!」
俺は手元に二丁、銃を召喚してイレイザーに打ち込む!
しかし彼は、目に見えた攻撃を全て避ける。
だが、予想外の攻撃は当たるが、その怪我は一瞬で回復。
亜人族ではありえない回復力の早さの原因は、ほぼ100%の確率で妖精族の魔法によるものだ!
あまりにも高速の回復で、俺がどれだけダメージを与えても回復され続ける。
これじゃあ、俺はいつになっても勝てやしない。
もう、こりゃもう降参するしかないかも。
「とか思わせたいんだか知らんが、お前の作戦は甘いんだよ。もう少し演技力を磨け?」
「……なんスか? 負け犬の遠吠えにしては少し雑音が過ぎるっス」
俺は立ち上がり、アズリエルの方を向く。
おお、必死に応援してくれてるぜありがてぇ。
彼女は口の前に手でメガホンを作って、必死に何かを訴えかけようとしている。
もしかして、俺にアドバイスでもくれてんのか?
残念ながら、もうアズリエルの声は俺には届かない。
全くと言って良いほど、アズリエルの声が聞こえないのである。
不思議だよな?
「なぁイレイザー。お前の強さの秘密が分かったぜ? まぁ、分かったところで魔法の対策はできないんだけど」
俺は1丁の銃を手元に召喚し、イレイザーの方に振る。
「……なんの真似スか?」
「いいぜ、来いよイレイザー。早くしないと、この銃の引き金を引くぜ?」
「ほう、随分と面白い冗談スね。撃ってもいいっスよ? 僕にはそんな攻撃なんて」
残念、当たるんですわ。
「ぶがっ!」
イレイザーの肩に、俺の弾が命中!
その弾を撃ったのは、彼の頭上5メートルの位置にある銃だ!
やはり、俺の思った通りに動いたなイレイザー!
「イレイザー、攻略法を見つけたぞ!」
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