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第五章 拳銃学・ステイプラー

36.眠る修行

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 ◆

 ステイプラーの能力詳細だ。

 彼女の能力は『風景念射スクリーンショット』とでも名付けておこう。
 微睡んだ状態になると、街に設置してあるフリントロック式銃の目線で風景を眺めることができる。
 話を聞くと、この街には約500丁以上の銃が壁や岩陰に隠されているらしい。
 その場所から見える風景を、遠隔で観察できていると言うことだ。

 前々から気づいてはいたが、街の陰になるところには銃が吊されてあった。
 それはステイプラーの射撃がいつでも行えるように設置されていたものだったと合点がいった。



 夢から覚め、俺はステイプラーに抱きつかれた状態で硬直していた。

「ノベル」

「な、なんだよ」

 暗い部屋のベッドの中。
 下半身スースー娘のステイプラーは、何故か俺に抱きついて離してくれない。
 俺の下半身に吊り下がってるフリントロック式銃が危険な状態ですので、どうか引き金にお手を触れないようにお願いしたいのですが。

「ノベル」

「なんだよ!」

「もっと私の話を聞いて」

「いいけど……何か話したいことはあるのか?」

「特にない」

 そ、そうっすか。

 ◆

 俺とステイプラーはそれからずっと会話をすることはなかった。
 数分経ってベッドから出ようとするが、すぐに彼女はそのことに気付いて俺をベッドの奥へと引きずり込み、俺を抱き枕の要領でギュッとするのだ。
 マジで、マジで勘弁してくれませんかね?!
 そんなことされちゃったら、そろそろ惚れちゃいますからね?!

『ノベルは今日から私の抱き枕』

 まさかとは思うけど、ステイプラーが言っていたこれって、冗談じゃなくて本気なのか?!

「あの、ステイプラー! そろそろ帰りたいんだけど! もうそろそろ日が暮れる時間だし!」

「ダメ。ノベルは私の抱き枕」

 そそ、そっすかー!

 黒いカーテンから漏れていた日の光ももう既に薄く、傭兵が夜部隊に入れ替わる時間帯だとわかる。
 つまり、もうベッドに入って9時間以上経つんですけど!
 すでに二度寝、三度寝したわ!

「でも、いいでしょう。ぬくぬくで、力になる」

「ぬくぬくって言ったってなぁ……」

「私は君の先生。だから、今日はたくさん寝る」

 もはや言葉もチグハグですよ姉さん!
 寝ぼけてないでさっさと起きようぜ!
 このままじゃ夕食を食いそびれちま――。


 待てよ?
 そういえば今日になって、俺は朝飯も昼飯も食べていない!
 水も飲んでないし、ただずっと寝てただけだぞ?!
 なのに、喉は潤ってるし、お腹も空かない!
 どう言うことだ?!

「妖精族は、眠ると魔力が回復する。あと、そばにいる人も回復する、飢えは無くなる。あと、私はノベルの体に魔力を授けてる。だから、一緒に寝る」

「な、なるほど。つまり、これは鍛えられてるってことだよな!?」

「うんうん。そうだよ~」

 まさかまさかの、これは計算された修業だったとは!
 心なしか、ステイプラーと一緒に寝ることで、体の中になんらかの力が湧いているような気がする!
 それに、『風景念射スクリーンショット』で見た風景が、ステイプラーの助力無しでも自力で見れるような気がするぞ!

「私は妖精族。妖精族は、力を分け与えることができる……くー」

 ただ俺を抱きしめていただけじゃない!
 ステイプラーは俺に力を分け与えるために『抱き枕』として一緒に寝ているだけなんだな!
 お腹も減らない、水も飲まなくていい!
 トイレも行かなくていいし、ただひたすら眠り続けるだけでいい!
 つまり、これはステイプラーが俺に与えてくれた最初の修行に間違いない!
 寝るぞ、寝るぞ俺!
 寝て寝て寝まくって、ステイプラーの銃術を吸収するんだ!
 うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!
 気合入れて爆睡してやるぞ!
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