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第二巻 第三章 第二部 ボレロ

第五十三話 電磁加速砲

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 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

『アイネはん! すまんが、あんたには死んでもらうで!』

 エディリオンは、地面を砕き散らして走って来る!
 私は、妖精族の王様。
 背中に魔力を込めると、いつもは出していない妖精の羽がぐんぐん伸びていく。
 ただ、お姉ちゃんのような立派な羽ではない。
 王とは名ばかりで、私の羽は弱々しくて小さいのだ。

「あなたたちが殺し合いをしてる最中、私は演奏を続けられる。あともう少しで私の魔法のチャージが終わるわ。ロボットが妖精王を殺すのが先か、私が妖精王を殺すのが先か、楽しみね!」

 ――ボレロがそう叫んだ瞬間、彼女の演奏がさらに強くなる!
 彼女の周りの地面が耐えきれずに崩れ始める!
 轟音で私の体がビリビリとちぎれるような音がする!
 実際、ボレロ自体の魔法はまだ発動すらしていない。
 チャージをしているだけで、あたりを破壊するだけの演奏が奏でられている。
 既に、私もエディリオンもボレロの演奏を止める術はない。
 確実にボレロの最強魔法が発動する状態までになってしまった。
 それなら、その魔法を私が弾き返すしかないのだ!
 勝算なんてない!
 もう、こうするしかないのだ!

 プランC'。
 その作戦には二つの要が存在する。
 一つ目は、『ボレロの最強魔法を発動させてあげること』である!
 ボレロの魔法のチャージ中は、絶対防御が存在してエディリオンでは近づけなかった。
 そして、私は守ることと弾くことしかできないから、直接攻撃ができない。
 しかし、彼女の最強魔法が発動した瞬間は間違いなく絶対防御が解けるはず!
 その瞬間を狙って、エディが後ろから叩く!
 ――しかし、エディは先ほどボレロと『お互いに攻撃できない』と言う契約をした。
 故に、エディからの直接攻撃が出来なくなってしまった。

 仮にエディが契約を破ってボレロに攻撃を仕掛け、倒せたとしても、エディは契約によって死んでしまうことになる。
 つまり、三人とも死んでしまうことになる。

 ただ、エディはそれを分かった上で契約をしているのだ。
 彼女は賢い、何の打算もなく無謀な行動はしないはずだ。

『アイネはんを殺しさえすれば、私が助かるんや! 私はまだ生きていたいんや! ほんま、ほんますまん!』

 エディリオンは、周りに飛んでいる槍型のファンネルを掴んで、私に向かって来る!

『うらぁぁぁぁ!』

 エディリオンは槍を振り上げ、思いっきり私に降ろしてきた!

「ううっ!」

 私は妖精の羽を使って飛び跳ねる!
 私はその槍をギリギリで避けると、彼女の槍がその場にめり込んだ!

『逃すか!』

 エディリオンは別の槍型のファンネルを掴むと、逃げようとする私に向けて再び槍を振り下げる!
 それもギリギリで躱し、槍が地面にめり込む!

『避けんなや! 何しとんねん!』

「そんな動きで私に槍は当たらない!」

 私はエディリオンから距離を取り、ボレロの方に飛んでいく!
 私の羽は弱いため、そこまで長い距離、速く飛ぶことはできない。
 飛ぶ時に魔力を消費する為、これ以上羽を使って飛ぶこともできない!

「やめてエディ! あなたは賢いでしょ! こんなことしても、エディは救われないよ!」

『やかましいわ! どんな手を使っても、私は勝つ! 生き残るんやぁ!』

 エディリオン残った二本の槍を両手で持ってこちらに走って来る!

「何をやってるの! 確実に仕留めなさいよ!」

 ボレロはイライラしているのか、指揮棒をデタラメに振っている!

「もういいわ、私が仕留めるから!」

 ボレロは私の方に指揮棒を向ける!
 エディリオンとボレロ、二人に挟まれる!

『うらあぁぁぁぁぁぁっ!』

「死になさいっ!」

 ――ボレロのウォーターカッターが私に向けて飛んでくる!
 私は妖精の羽を強く羽ばたかせ、下へと落下して躱そうとする!
 すると、エディリオンが正面から槍を振り下ろして来た!

『ちょ、ボレロはん!』

 瞬間、エディリオンに向けてウォーターカッターが飛んでいく!
 仮にエディリオンにボレロの攻撃が当たった場合、二人が結んだ『お互いに攻撃をしない』契約が破られて、ボレロが死亡する!

「あぁもう、何やってんのよ!」

 ボレロは指揮棒を振り上げると、ウォーターカッターはエディリオンの直前で弾けて止まったのだ!
 ――エディは、おそらく罠を張ったのだ!
 私に攻撃をするフリをして、ボレロに自分を攻撃させる罠を!
 しかし、ボレロのウォーターカッターは指揮棒によって攻撃を中断できる。
 故に、ボレロ討伐の作戦は失敗した――、とも受け取れた。

 私は天空から落下していくと、エディリオンは二本の槍を振り上げる!

『アイネはん! 避けんなや!』

「エディ! もうやめて!」

 私はギリギリ落下する前に妖精の羽を羽ばたかせて、落下する体を浮かして別の方向に避ける!
 瞬間、エディリオンの槍が二本、地面に突き刺さった!

『何で当たらんのや! 動き回る敵を殺すんむずいわぁ!』

 エディリオンは空を飛ぶ私を目で追っている。
 ――エディ、もしかして、わざと攻撃を外してる……?

「ちょっとあなた! わざと私から攻撃を受けようとしなかった!?」

『えぇ!? 何を言うてますのボレロはん! ボレロはんの攻撃受けたら、ボレロはんが死んでしまいますやん! 契約で!』

「そうよ! あなた、バカなの!? 私のこと、邪魔するつもりじゃないでしょうね!?」

『そんなことありまへんて! 証拠に、ボレロはんの魔法がチャージできてますやん! そのまま、アイネはんをぶち殺してくださいな!』

 ――エディはボレロの話を上手く逸らしている。
 当初は『エディが私を殺すこと』が目的だったのに、今は『ボレロが私を殺す』にすり替えている!
 まさか、エディの目的は――!

「……それもそうね。私の魔法はもうすぐチャージできるわ!」

『おいおい! そんなことしたら、私も巻き添えやがな! どうしたらいいんや!」

「あなたは後ろに下がってなさい!」

『後ろに下がれば攻撃が当たらんのやな! 了解了解!』

 ――コールドリーディングだ!
 コールドリーディングとは、相手の意思とは無関係に相手の情報を聞き出す話術のことだ!
 エディは暗に『ボレロの攻撃は一点集中型の放射系魔法』であることを伝えてくれている!
 どこまで賢いんだ、エディは!

『ほな、ボレロはん! 最後に、私が最強魔法でアイネを仕留めたるわ! 仕留めきれんかったら、アイネはんに向けて、ボレロはんの最強魔法をぶちかまして終いにしてやろや!』

「分かったわ! それじゃ、あなたの最強魔法、見せてちょうだい!」

『承知っ!』

 エディリオンは脚力によって空へと跳ね上がると、右腕を天に向けて突き出す!

『私の最終兵器! これが私の思う最強武器や!』

 天に向けた右腕に向けて一本の太い雷が落ちると、その雷は両足から抜けていく!
 そして、エディリオンが刺した5本の槍に向けて雷撃が流れていく!
 瞬間、地面は大爆発を起こし、超絶巨大な黒い塊が浮き上がって来たのだ!

『これが人類が作り出した、電気を活用した最強武器、電磁加速砲(レールガン)や!』

 ――その巨大な銃は、雷によって白く輝き始め、青い光が中から現れる!

 私に向けて突き刺したと思われたその5本の槍は、巨大なレールガンを作成するための避雷針になっていたのだ!
 そこまで計算して、戦闘を行っていただなんて……!

「やっぱり、エディは賢いね」

『やかましわ!』

 エディリオンは10メートルを超えるレールガンを両手で持ちあげると、私に銃口を向ける!

『私の魔法の真髄、とくと味わうことやな!』

 エディリオンに向けて、太い雷が落ちると、レールガンに向けて電力が注入されていく!
 ――そして、レールガンは青光りし、電力が魔力へと変換されていく!
 これが、エディが言っていた空想論の現実!

 エディリオンから放たれるファンファーレの音色が変わり、そして勇敢さを物語るような曲調に変化する!
 エディの覚悟と信念が伺える曲、『威風堂々』の有名な主題だ!

「来る……! エディの最強の一撃が!」

 私は妖精の羽を消し、地面に降り立つと、防御魔法を展開する!
 先程、ボレロのウォーターカッターを弾けなかった大技、『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』をもう一度発動する!
 おそらく、私の魔力だけでは一日一回が限界だ。
 ――ただ、私はリュートの力で強化されている!
 私はきっと、あともう一回は出せるはず!
 エディリオンから放たれたレールガンの魔力を100%の力で反射して見せる!

「心揮解放! セイクリッド!!」

 私の指揮棒であるセイクリッドにむけてさらに強い魔力を注入し、青い防御壁を展開する!
 そして、指揮棒を振り上げ、歯を食いしばり防御壁を捻じ曲げる!
 防御壁は花びらが開くようにぐるぐると回ると、パラボラアンテナの形に変化する!
 これでエディリオンのレールガンを弾き返す!

『またその技かいな! ボレロはんの一撃も弾き返せんくせに、私の魔法が弾き返せると思うとるんか!』

「それはやってみないと分からない!」

『よう言ったわ! ほんだら、私の魔法を受けてみや! 死んで地獄で後悔することやな!』

 エディリオンのレールガンは青い光を放ちながら、溜まった魔力によってガタガタと震えている!

『ほな、行くで!』

「うんっ!」

 エディリオンは両手を突き上げると、レールガンに向けて思いっきり拳を振り下ろした!
 瞬間、レールガンは解放されたように白い光を発し、私に向けて白い線を発射したのだ!

『威風堂々』!!!!!!

 私はその白い線を待ち構え、指揮棒を強く握り、腹の底から声を張り上げた!

『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』!!
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