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第二巻 第三章 第一部 レクイエム

第四十話 一撃必殺

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「あうぅぅぅぅぅぅぅぅ!」

 私は再び遠吠えをすると、煙が現れる!
 その煙が、私たちの黒い鎧を修繕してくれるのだ。
 しかしながら、戦況はあまり芳しくない。
 先ほどのレクイエムの一撃で、右腕が折れ、肋骨も何本か逝っている。
 喋ろうとするたびに、内臓がシェイクされてるような激痛が生じる。

「テルさん! 俺の魔法で回復させるから、動かないで!」

「まだいいよ、エータ! ウィリアムがキツいって言ったらお願い!」

「そう言うロッシーニがキツそうだぞ! エータ! 魔法をかけて!」

「えぇ、どっち?」

「かけなくていいよエータ! まだやれる! エータの回復魔法は切り札なんだから!」

 私はウィリアムの方に手を横に振ると、彼女は心配そうに頷いた。
 そして、金切り声があげそうになるのを我慢して、私は啖呵を切る。

「……何が聖域だよ、バカじゃないの。レクイエムのそれは、ただの神様の真似事でしょ!」

「ほう、言うじゃねぇか。では返してやろう。そんな短い爪で何ができるってんだ、勇者の真似事風情が!」

 レクイエムは指揮棒を構えると、劇場の上に無造作に並べられた人形たちがガタガタと震える!

「ふはははははははっ! インスピレーションが湧いてきたぞ! 一方的な殺戮だ、これが神が恐れられる闇の根幹だ!」

Dies irae, dies illa, 怒りの日よ!、その日よ!solvet saeclum in favilla: 世界が灰燼に帰す日だ!

 指揮棒を振り下ろすと、人形たちの口から再び十字架が放たれる!
 この一撃が直撃すれば、恐らくウィリアムを留めておく魔力が無くなってしまう!
 しかし、もう体が俊敏に動かない!

「ロッシーニ!」

「ウィリアムっ、ごめんっ!」

 ――瞬間、エータの声と三匹のぬいぐるみの声が、私たちを包み込むように響き渡る!

Wem der große Wurf gelungen, eines Freundes Freund zu sein, ひとりの友の友となるという大きな成功を勝ち取った者wer ein holdes Weib errungen, mische seinen Jubel ein! 心優しき妻を得た者は、自身の歓喜の声を合わせよ!Ja, wer auch nur eine Seele sein nennt auf dem Erdenrund! そうだ、地球上にただ一人だけでも心を分かち合う魂があると言える者も歓喜せよ!Und wer's nie gekonnt, der stehle weinend sich aus diesem Bund. それがどうしてもできなかった者は、この輪から泣く泣く立ち去るがよい

 エータの歓喜の歌によって、強固な結界の範囲がさらに広がり、私たちを覆う!

 発射された100を超える十字架は、結界内に入ってくると勢いを失っていき、金色の光を放ちながらキラキラと消えていく。
 エータの『歓喜の歌』の能力は、『領域内に入ってくる、凡ゆる邪悪を退ける』と言うものだ!
 ――そして、私たちの傷が少しずつ癒えていく。

「ほう、攻撃の無力化、そして治癒魔法のおまけつきときたか。だんだん、聖戦の時を思い出してきたぜ、男!」

 地獄の門が開かれて数分、完全に満ちきった魔力を泳がすが如く遊ばせるレクイエム。
 これ以上、彼女にいい思いはさせない!

「ありがとう、エータ!」

「ごめんねエータ。ロッシーニを救ってくれたことを感謝するよ」

「どうってことないって! テル……ロッシーニさん、ウィリアムさん! 援護は任せて!」

「「うん!」」

 エータは息を吸い込むと、たくさんのぬいぐるみたちは口を開ける!

Ja, wer auch nur eine Seele sein nennt auf dem Erdenrund! そうだ、地球上にただ一人だけでも心を分かち合う魂があると言える者も歓喜せよ!Und wer's nie gekonnt, der stehle weinend sich aus diesem Bund. それがどうしてもできなかった者は、この輪から泣く泣く立ち去るがよい

 歓喜の声が私たちの耳に流れ込むと、魔力の限界値からさらに上昇を始める!
 エータの魔法は、回数を重ねるに連れて付与効果が上がっていくのである!

 ――しかし、彼が魔法で強化できるのには限界数がある。
 あと数回しかない、エータの魔法は数時間に一度しか使えないのだ。
 フレーズが終わると、チャージしないと再度使用ができない。
 つまり、歓喜の歌が終わるまでに、レクイエムとケリを付けなければならない!
 そうでなければ、私たちの負けは濃厚になって来る!

「大人しく席につけ、子犬! 不器用なウェアフルフでも、王家の作法は忘れてはねぇだろよ? それとも地を舐めながら旧世界の終わりを見たいのか?」

 彼女が指揮を取った瞬間、空は赤く晴れ上がり、燃え盛る十字架がレクイエムの背後に現れる!
 泣き言は言ってられない。
 守ってばかりいても、そのうち私たちはやられてしまう。
 やはり、私たちが出来るのは特攻だけだ!

「さて、どうやってレクイエムを欺こうか。準備はいい? ウィリアム」

「うん。ロッシーニこそ準備はできてるの?」

「うん! バッチリだよ!」

 私はウィリアムの手をぎゅっと握る。
 彼女は手を握り返すと、私はふと口が開く。

「あのねウィリアム。あの日のこと、ずっとモヤモヤしてたんだ」

「あの日のこと?」

「ウィリアムのおかげで私は王女になることができたのに、『ウィリアムのせいでこんな事になった』って言ってごめんね」

「……」

 ウィリアムの手が震える。
 彼女のことを、今までずっと苦しませ続けていた。

『地球上にただ一人だけでも心を分かち合う魂があると言える者も歓喜せよ』

 歓喜の歌は、そう言ったんだ。
 私はすごく恵まれていて、私は決して一人じゃない。
 だって、今はウィリアムのおかげで、沢山の友達が出来た。
 だから、私は歓喜するのだ。

「ロッシーニ……」

「……私、ウィリアムのおかげでこんなに強くなれたよ! いっぱい友達ができたし、みんな認めてくれるし、好きな人もできたんだ! 今の私は、とても幸せだよ! 全部、ウィリアムのおかげだよ、ありがとう!」

 ウィリアムは私を見つめると、溢れ出す涙を左手で掬う。

「――正直になれたんだね、ロッシーニは」

「え?」

 ウィリアムは私の頭にポンと手のひらを乗せると、

「ロッシーニには、もう私は必要ないかもね」

 ウィリアムの目から流れ出す涙。
 その表情、まるでお別れを告げるかの様な――。

「え、必要ない? どう言う意味?」

 ウィリアムは何も言わずに、レクイエムの方を向いた。
 必要ないって、まさか――!

「あうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」

 ウィリアムは、遠吠えすると、今までよりもさらに強力な黒い鎧を見に纏う!

「ウィリアム!」

「あぅぅぅぅぅぅ!」

 ウィリアムは両手を合わせ、空気を断ち切ると、巨大な弓が現れる!

 ウィリアムは弓に飛び込むと、弦がギチギチと音を鳴らした!

「待ってウィリアム! まだ話は終わってないよ!」

「話なら済んだよ! ロッシーニは、私と言う人格が必要無くなったんだ!」

「違う! 私にはウィリアムが必要だよ!」

「もう、私に頼っちゃダメなんだよロッシーニ!」

 ウィリアムは作り出した弓の矢になる。
 的は、レクイエム。
 それはつまり、自己犠牲を意味する。

「これ以上、ロッシーニは私のフリをする必要は無い。もうこれ以上、嘘をつかなくてもいいんだよ」

「嫌だ! ウィリアム、あなたは私の理想なの! だから、いかないで!」

 私は泣き崩れそうになり、両目に溢れ出す涙を拭き取ろうと何度も擦った。

「ロッシーニ。私はもう二度と、あなたの前に現れることがないかもしれない。でも、仮にまた会えるんだったらさ」

 ウィリアムはこちらに振り向いて、ニシッと笑った。

「ロッシーニの好きな人の話、嘘偽りなく話してよねっ!」

 ――ウィリアム!

 瞬間、彼女は上空へと発射された!
 土煙が立ち、私は数メートル吹っ飛ばされる!

「レクイエムっ! これが私からの最後の一撃だぁっ!」

「ウィリアム!!」

 彼女の真っ黒な鎧から、雷と炎が迸る!
 最強の一撃必殺技!
 彼女は自分ごと砕け散ることが分かった上で飛び立ったのだ!

「ぐうっ! なんだ!?」

 レクイエムは完全に油断しており、タクトを構えるのが遅れた!
 彼女の油断が、ウィリアムの一撃を必中させる要因になったのだ!

「あうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」

 ウィリアムの遠吠えによって、赤と紫の光が周辺を覆い尽くしていく!
 これが彼女の最強の一撃!

『ウィリアム・テル』!!!!!!
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