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第一巻 第二章 魔王軍殲滅戦線

第三十話 アイネとえっちなこと

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 ◆◆◆◆◆◆

 とりあえず、アイネを俺の隣に座らせた。
 目を瞑って、真っ赤になったままだ。
 恐らく、アイネは自分がドMであることを初めて人に曝け出したのだろう。

「普段、私のことを蔑んでくれる人はなかなかいない。特に、男の子となると」

「まぁ、アイネみたいなか弱そうな子を罵ったりする奴はいないだろうな」

「でも、私は罵られたい! こんな機会、滅多にないから!」

 アイネはすごく嬉しそうに俺の顔を覗き込む。
 と言われても、俺はSじゃないと思うしなぁ。
 えっちな命令をしろと言われても、何を言えばいいのか。

「リュート。いや、ご主人様!」

「あー、分かった分かった! えーっと、そしたら、自分の胸を揉んで」

「え、なんで?」

 いきなり見せるこのキョトン顔。
 いつものアイネに戻った。
 というか、どっちかと言うとこれはがっかりした時の顔だ。

「いや、俺ってこう言うのよく分からんし! たとえば、なんて言えばいいんだよ!」

「それを言ったら命令にならない。ご主人様が考えて」

 えー……。
 あんまりやりすぎても可哀想だし、なんかないか、なんか――。

「もういい。そしたら、ヒントをあげる」

 アイネはそう言うと、俺の目の前に歩いていく。
 すると、彼女は顔を赤ながら、巫女服の中に手を入れたのだ!

「ちょ、ええっ!?」

「リュートは意気地なし。ここまでヒントをあげないと分からない」

 アイネは突然、真っ白いパンツを脱いだのである!
 巫女服がまだガードしているから中身は見えないものの、確実に下はもう履いていない!

「さぁリュート。命令して」

 俺はもう何をしていいのかわからない!
 ドMは何をされたら喜ぶんだ!?
 殴る蹴るとかしたくないし、何をすれば――。

 そして、俺の頭の中に電流が走る。

「アイネ」

「はい、ご主人様!」

 俺はこれでもかと悪そうな顔をして、演技スイッチをオンにした!

「おいアイネ! お前さ、俺に命令しろとかバカじゃねぇの!? 気持ち悪いなぁ! この変態が!」

「はい! 私は変態です! ごめんなさい!」

「そんだけ変態ならよぉ? ここでおしっこ、できるよなぁ?」

 すると、アイネはこれでもかと嬉しそうな表情になったのである!

「はい、できます! ごめんなさいご主人様!」

 いや、そんなに嬉しそうにごめんなさいって言わないで欲しい!
 うわぁ良心が痛む!
 でも、こう言うのがアイネの望みなんだよな?
 ごめん、マジで本当にごめん!

「ほら、この床に直接おしっこしてみろよ!」

「はい、ご主人様!」

「おしっこ塗れになったら、自分で掃除しろよ、分かったな!?」

「はい! 綺麗にさせていただきます!」

「ほら、何ぼさっとしてんだ! さっさとおしっこ漏らせ!」

「はい、ご主人様!」

 アイネはそのまま下にしゃがむと、巫女服を上の方に託しあげる!

 ――なんだ、これは。
 なんなんだこの感情は!

「ご主人様、ご主人様ぁ!」

 アイネはもの凄い嬉しそうな表情で舌を出してはぁはぁと強い息遣いをする!
 目はキラキラと輝き、アイネの欲望の全てを解放しているかの様だった!
 まさに、アイネは絶頂の中に居た!
 恥ずかしさが極まり、女性としての尊厳を踏み躙られたことに対する背徳感を味わっているのだ!

「早くしろよ! 出せよ、早く出せよ!」

「はぁぁぁ、はぁぁぁっ! はぁぁぁぁぁ!」

 そして――!


 アイネは立ち上がり、いつものキョトン顔に戻る。

「さっきおしっこ行ってきたから、出ない」

 その一言で、俺はベッドの上にひっくり返る。

「なんだそりゃ!」

「ごめん、全然出る気配ない」

 しかしながら、アイネの欲望は解放され、彼女からは強い魔力を感じ取ることができる。
 こう言う形でも、魔力が貯められるのだと初めて知った。

「ごめんリュート」

「いや、いいんだ。どうだった?」

「よかったよリュート。ありがとう」

『よかったよ』と言うパワーワードが飛び出した。
 恥ずかしさの頂点にあるのは、えも言われぬ絶頂というわけだ。
 アイネの中での性欲発散はこういう形なのだろう。
 アイネ……ドSの彼氏、見つけろよ。

 ――アイネは妖精王だ。
 神樹を守るために色々やってると聞いたが、その『守る』という決意の反動が、こう言う『虐められたい』という感情を生んだのだろう。
 彼女の魔法もそうだ。
 耐え続けて、最終的には相手にダメージを返すと言う魔法の特徴にも、アイネの感情が表現されているのだろう。

「あ、時間だ。それじゃあいくねリュート」

「おう。また後でな」

「うん。あ、それと、私が実はドMってことはみんなには内緒。お願い」

「――別に、ドMってことはみんなに言ってもいいんじゃないか?」

「え?」

「ドMだからって受け入れて貰えないことはないぞ? だから、自分のことを曝け出して仕舞えばいいんだ。罵られたい、虐められたいって素直に伝えてあげればいいんだ」

 アイネは俺の助言を聞くと、彼女は首をかしげるだけだった。
 そう、周りの奴らはみんな優しい。
 アイネが仮にドMだと分かったとしても、彼女のことを適当に扱う人はいないだろう。
 ただ、ずっと隠し続けるのは良くないと思うのだ。
 ならばせめて、自分の本性を解放して仕舞えばいい。
 それで少しは楽になるだろうと考えたのだ。

「どうしてみんなに言うの? 勿体無くない?」

「え? 勿体無い?」

「だって、『私はドMです』って言っちゃったら、いざ強烈な一言を貰っても嬉しさ半減しちゃう」

「……」

 あぁ、なるほど。
 アイネはドMのさらに向こう側の境地にいるのだとそれで分かった。
 アイネは真剣に罵られたいのだ。
 俺のような生半可な罵りではなく、本物の罵倒を望んでいるのだ。
 すまないアイネ、俺にはもう君をどうすることもできない。

「リュート。Mについて色々と履き違えてる。また今度、M学を教えてあげる」

「あぁもう分かった分かった! もう行け!」

「ふふ、そう言う感じのリュートが好き。またお仕置きしてね」

 そう言い残すと、アイネはドアの向こうに姿を消した。

 さて、アイネはこれで以上、か。
 残るはカノンとテル。
 どちらから来るか。

 どたどたどたどたどたどた!

 あ、もうどっちが来るかすぐに分かった。
 こんだけうるさい足音、もうあいつしかいない。

「リュートくーん! おまたせえっ!」

 ノックもせずに勢いよく入ってきたのは、赤髪のツインテールのテルだ!
 なんだろう、テルって何もかもが分かりやすくて楽でいいなぁ。
 カノンみたいに色々と隠す女の子とは大違いだ。

「リュート君! 今からよろしくね!」

「おう。で、どーするよ?」

「えーっと、ね。リュート君」

 テルもアイネと同じ様に、両人差し指をチョンチョンして、上目遣いでこちらを見る。
 頬を赤らめて言うか言うまいか迷っているご様子。
 頼むから、テルだけは『ドMです』告白はやめてくれ、イメージ崩れるから。

「えーっとね、こ、恋バナ……しようよ」

「こ、恋バナ?」

 意外な一言が出た。
 俺のことをめちゃくちゃ欲しがっていたテルからそんな言葉が出るなんて。

「うん! 今から15分! ね?」

 テルは俺の隣に座ってくると、鼻歌を歌いながら足を振り始める。

「あのね、リュート君。私、初めて好きな人ができたかも」
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