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第一巻 第二章 魔王軍殲滅戦線

第二十一話 心弦解放

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 ◆◆◆◆◆◆

 魔王軍殲滅戦線。

 俺たちはこの作戦の名の下に訓練を続けていた。
 俺とエータは、無休でもう15時間ほど同じ曲を聴き続けている。
 今は午前6時。
 一睡もせずに聴き続けることは、そんなに楽なことじゃない。
 エータも虚ろ虚ろになりながらも、お互いに励まし合いながら、どーにか寝落ちだけはせずに居た。
 全ては、魔法が使えるようになるために、カノンたちの世界を守るためにだ。

「おはようございます。リュート君、エータ君」

 そう言って、奥の部屋から入ってきたのは、俺たちに曲を聴き続けるように指示したフーガ先生だ。
 フーガ先生の私服は、おそらく白衣なのだろう。

「一旦、インターバルです。リュート君、エータ君、こちらへきてください」

 俺とエータは、フラフラしながらフーガ先生の元へと足を運ぶ。

「どうでしょうか? 訓練の成果は」

「実感はないですけど、曲はこの脳みそに叩き込んでますよ!」

「リュートと同じく、今なら完璧に歌えそうです!」

「おお、それは頼もしい。それでは、魔法を使う準備といきましょう。ではリュート君、これを見てください」

 と、フーガ先生は俺だけにだけスマホの画面を見せた。
 瞬間、俺は度肝を抜かれる!

「えっ!?!? ちょ、なんすかこれ!」

 スマホの画面には、なんとカノンの脱衣姿が映っていたのだ!
 可愛いお尻がプリッと見え、直接的にえちえちな部分は見えていないものの――!

「私がアイネに依頼したのです。リュート君の魔力を解放するために必要だと。ええ大丈夫です。私は見てませんので」

「これ、カノンにバレたら殺されますよ!」

「え、何かの写真か?」

「エータは見るな! 殺害されるぞ!」

「え、マジで何!? 殺害!?」

「ではリュート君。この写真を眺めていてください。君は魔力を発電するとして。エータ君にはこの木の実を食べていただきます」

 俺はスマホを渡されると、カノンの写真をまじまじと眺める!
 こんなことしていいのか先生!
 ――すごい、カノンの生尻はこんなにも美しいのか。
 俺は心の奥から何かがモコモコと盛り上がる感覚に陥る。
 俺は『性欲の勇者』の力を持っている。
 この力は、『女の子にエロいことをすると、その子が強化される』と言うもの。
 その力の発動は、俺も例外ではないと言うことだろう。
 むくむくっ。
 いかん、待て俺のエクスカリバー!
 これは魔法を使うため、これは魔法を使うための修行なのだ!

「めちゃくちゃ良い匂いがする! この木の実、甘いっすか?」

「甘いですよ。この木の実はミノロコと言います。魔力回復ができる最高の木の実。高級品ですので、味わって食べてくださいね」

「マジっすか! ちょうど腹が減ってて! いただきま~す!」

 と、エータはその実を丸齧り!
 すると、彼はよだれをダバダバ出しながら幸せな表情を見せるのだ!

「うわぁ~うめえ! あ、思い出しました! これ、魔王軍の奴らが食べてた実ですよ!」

「魔力回復の一環で食べていたのでしょう。では、魔力が充填されたところで、次にそれぞれの魔法を見ていきましょう」

「フーガ先生! 俺もお腹空きました!」

「後でにしましょう。まずは、それぞれの魔力回復でどこまで魔法を使えるか確認しておきたいのです」

 なるほど、そう言うことなら仕方ない。
 俺の力がどれほどのものなのか、俺自身も知っておく必要があるしな。

 ◆◆◆◆◆◆

 俺たちは、部屋の奥へ奥へと向かっていく。
 フーガ先生の病院はすごく広く、居住スペースの奥には、いろいろな部屋が存在する。

「ここは、私が鍛錬を続けているトレーニングルームとなります。この部屋の中は、特殊な合金で作られています。魔法をどれだけ使っても壊れる事はありません。また、魔法を発動しても外部に情報も漏れません。特訓には打ってつけですよ」

 俺たちはその部屋に入ると、中は広く真っ白な空間になっていて驚いた。

「すげー、なんか頭がおかしくなりそうなくらい真っ白だ!」

「それじゃ、魔法の使い方を教えてくだせぇよ先生!」

「まぁ、そう焦らず。まずはリュート君の『楽器召喚』を見たいと思います」

 フーガ先生は、胸の前に手を置いて、ゆっくりと目を閉じる。

「心盤解放! アルカナティア!!」

 そう叫んだ瞬間、フーガ先生の背後に巨大なパイプオルガンが生え、俺たちの前に聳え立った!

「うわぉ、すげえ! これが『楽器召喚』すか!」

「俺も、これだけでかい楽器が出てきたのは初めて見た」

 圧巻だ、俺はただその壁のような楽器を眺めることしかできない。

「これは、私の召喚できる楽器、パイプオルガンです。名前は、心に聞きます。名を呼ぶ事により、より精巧に楽器を出すことができます。名を呼ばない詠唱省略も出来ますが、今はそれは教えません。まずは、私のように楽器を召喚していただきます。リュート君はヴァイオリンがお望みなので、『心弦解放』と続き、名を呼んでください」

 楽器召喚か。
 そして、名を付けろと。
 楽器はヴァイオリンで、名前――。

 俺は胸に手を置いて、自分の楽器に対して対話を試みてみる。
 不思議な気分だ。
 なぜかは分からないが、心の中に何か形になりそうなものがある気がするのだ。
 これが、俺の心の中に潜む楽器――。


 プレリュード!


「心弦解放! プレリュード!」

 瞬間、俺の両手にヴァイオリンと弓が現れてたのである!

「うおお、これが俺のヴァイオリン!」

「すげえリュート! やるじゃんか!」

「なるほど、プレリュード――『前奏曲』ですか。カッコいいお名前です!」

 フーガ先生は、俺を讃えるために拍手をしてくれた。
 少し恥ずかしくなり、俺は手のひらを口元に当てる。

 俺のヴァイオリンは、光沢のあるガラスのようだ。
 まるで、何にも染まらない透き通った空のような。

「リュート君はやはり素質がある。このような透明なヴァイオリンは初めて見ました」

「これ、もしかして凄いんすか!?」

「『これ』と言ってはダメですよ。ちゃんと名前で呼んであげてください」

「そうですね。プレリュードは凄いんですか?」

「ええ、勿論。伝説にもあった通り、『性欲の勇者』は透明なヴァイオリンを使っていたと聞きます。それが故に、性欲の勇者は素振りだけでヴァイオリンを弾いていないと錯覚したものが大勢いたとか」

「すげえなリュート! いいな、いいな! 俺も早く召喚したい!」

 エータは目をキラキラ輝かせて俺のプレリュードを眺める。

「へ、エータは楽器じゃないだろ」

「あ、そういえば! 俺の場合ってどうなるんすか!」

「エータ君の場合は、『心唱解放』になります。膨大な魔力を消費する代わりに、エータ君の周りに合唱団を召喚します」

「合唱団?!」

「はい。神像のような人形を無数に召喚する、いわば最高峰の魔法になります」

「それ、俺にできるっすかね?」

「それは分かりません。エータ君の頑張り次第です」

 エータは自信なさそうに俺の顔をのぞいてくる。
『え、初心者なんだから、もうちょい簡単なのにしてくれよ!』ってだらしない顔だ。

「ちなみにですが、召喚難易度が低い順に『心弦』、『心笛』、『心盤』、『心揮』、『心唱』となっています。召喚する規模が大きいほど、難易度が高く、召喚する楽器が大きいほど魔力を大きく消費すると思ってください」

「おいリュート~どうしよぉ~」

「知らんよ。どちらにしても、お前には歌しかないんだから」

「そんなぁ~」

「まぁ、やってみましょう。それでは、自分の心に名を聞いてください。そして、『心唱解放』と詠唱して名を呼んでみてください」

 エータは嫌そうな顔をしながら目を瞑って胸に手を当てる。
 そして、彼はダサい決めポーズを取りながら、

「心唱解放! グランドオーケストラ!」

 グランドオーケストラ! なんて傲慢な名前なんだ!

 ――しかし、エータの背後には特に何も出て来ない。

「フーガ先生! どうしよう! 全く心の中に名前が出てこないんですけど!」

「あらぁ。それは、まだ心の中の自分に向きあえてない証拠です。何度も何度も楽曲を聞いて、インスピレーションを鍛えましょう。まだ9時間ありますから」

「まだやるんすか! もう聞き飽きましたよ!」

「そう言っても、名は答えてはくれません。1時間だけ仮眠をとって、再びインスピレーションの修行再開です」

「……うう、魔法って使うの大変なんだな」

「そうだな」

 逆に、曲を聴くだけで魔法が使えるんだから、これ以上文句を言うな。
 フーガ先生がまだ仏の顔のうちにどーにかしろよ。
 グッドラック。

「寝てきまぁす」

 エータはフラフラしながら、トレーニングルームから出ていく。

「どうしますかリュート君? このままヴァイオリンを弾いてみますか?」

「はい。時間がないんでしょう?」

「逞しいですね。それでは、これからカノンさんとアリアさんを連れてきます。今のうちに、魔力を貯めておいてください」

 と、フーガ先生は再びカノンのえっちな写真を俺に見せてきた。
 この人、目的のためなら本当に手段を選ばないんだな。
 さすが、元魔王軍幹部。
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