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第一巻 第一章 クラシックの世界からやって来た!
第二話 赤髪巨乳ロリ・テル
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◆◆◆◆◆◆
平穏な日々を過ごそうと思い、大学に入ったが束の間、黒髪美女のカノンとか言う女から一撃でぶっ壊されることになった俺。
すでに、大学中に『リュート』と言う名前は知れ渡り、どこもかしこも『リュートって男が外国人美女に告白された』って噂で持ちきりだ。
一部では、「リュートは人間では無い』と根も葉もない噂が流れているらしい。
ってか、殆どが妬みだ。
冴えない俺が、まさか入学一日目で告白されたんだぞ!?
そりゃまぁ、童貞諸君は俺をぶち転がしたい気持ちは分からんでも無い。
仮に俺の立場が別の奴だったら、そいつを縦に折り畳んで煮えたぎった鍋にぶち込むもの。
◆◆◆◆◆◆
そんな俺とカノンは、校内を散策していた。
入学式が終わり、個々同士でグループが作られていく最中、俺たちはお散歩みたいにカップルとして歩いているのだ。
視線という弾丸が顔面に当たりまくって痒い。
それにしても、広い講堂だ。
俺はあと4年間、この講堂にお世話になることになる。
「ねぇリュート! みんな私たちのことを祝福してくれてるよ?」
感傷的になってみようかとしたが、それは1人の囀り声で台無しになる。
「カノンさん……」
俺と(半ば強制的に)腕を組んでいるのが、俺の自慢の彼女(笑)であるカノンだ。
しれっと、豊満な胸が当たっている。
俺の人生で、最も女性と密着した瞬間を更新し続けている。
ふわっふわのオムライスが何度も腕に擦れて心地良い。
あぁ、ケッチャプとかつけて頬張りたいものだ。
あぁ、大学に入って、俺はこう言う『女の子とウェーイ!』をしたかったが、まさか早々叶うとはマジで思わなんだ。
そう思わなんだよ。
にしても、くっつき過ぎ!
4月であったかいんだから、あんまりグイグイ寄るなよ!
ほぼ社交ダンスなんよ!
「カノンさん。暑いんですけど」
「そりゃもうアツアツでしょ!」
「そう言うことじゃないんすよ。暑苦しいと言うとります」
「えー? 恋人なんだから引っ付かなきゃ!」
どこの常識なのかは知らないが、こう、その、引っ付かれすぎるとマジで他人の目が気になって仕方がないのだ。
ほら、あそこの童貞力30000越えなメガネ連中を見てみろ。
今にも『殺害ナリ~』とか言われてSNSとか言う刃物で刺されかねんから。
「これはこれは、私の大親友かっこ笑いのリュートじゃありませんか、はっはー」
俺を呼ぶ声。
振り返ると、俺の親友であるエータがそこにいた。
さっき、カノンさんから告られた際にちゃかしてきた張本人だ。
うん、後で絶対に殺す。
あと、『(笑)』を言葉で言うのやめろ。
恥ずかしく無いのかキモオタめが。
「あら、お友達?」
「そう。俺のクソ友達のエータ。つか、離れろって! 恥ずかしいから!」
「ふ~ん。アツアツなんだなリュートかっこ笑い。どう言う風の吹き回しで付き合ったんだ?」
言い方がもう、槍なんよ。
槍の先端くらい鋭いんよ。
あと、名前にかっこ笑いつけんのやめろ。
「リュートね、私に一目惚れしたんだって」
「はぁ!? 調子に乗んなよ、かっこ笑い!」
「俺の名前はかっこ笑いじゃねぇわ! しかも言ってねぇし!」
「このお方がそう仰るならそうなんだよかっこ笑いめが!」
「『めが』ってなんだよ!」
ツッコミどころの多い大親友くん(笑)だ。
この場をさっさと収めて、早く家に帰ってゲームがしたいところだ。
こんなのに付き合ってられん。
「私、このリュートと生涯を添い遂げる椿 奏音! カノンって呼んでね」
「ああまた変なことを!」
カノンは俺から離れると、エータとフランクに握手をする。
「か、か、カノンさん! 初めまして! 俺もエータって呼んでくだせぇ!」
エータはすでにカノンにデレデレ。
そのはず、俺とエータは高校まで全くと言っていいほど女っ気のないクソ童貞だ。
エータも人生で初めて女の子と手を握ったのだろう。
そりゃもう鼻の下が伸びきって、チーズハッドクみたいになってんの。
「えへへ、へへ」
「よろしくね!」
「いい子だなぁカノンさんは」
「カノンでいいよエータ君!」
「しょ、しょうでしゅか。でひゅひゅ」
「騙されるなエータ! コイツ、さっきから適当なことしか言ってねぇから!」
「カノン様にコイツ呼ばわりするなよ、かっこ笑い如きが!」
「『如き』やめろ!」
そう言って、エータはどさくさに紛れて、カノンの胸を凝視してやがる!
やめろ! 気持ち悪いんだよ童貞が!
こんなんが親友だと知れたら、俺は恥ずかしくてお前と一緒に歩きたくなくなるだろ!
――と、いきなり俺は服を引っ張られ、体が宙に浮く!
「あぶっ!」
驚いて変な声をあげてしまう!
「はっ、リュート!」
カノンは俺に手を伸ばすが、俺は彼女の手を取れなかった!
「なんだっ!?」
俺は振り向くと、赤髪のちっちゃい子の顔が側に見えた!
二つの髪の束が俺の顔にペチペチ当たる!
「やーいやーい! リュート君は私のもんだもん!」
「っテル! 待ちなさい! 私のリュートよ!」
『私の』、ってなんだ!
つか、なんだんだこの子!
めちゃくちゃ力強いってか、足がめちゃくちゃ早いぞ!
「ああっ! やられたぁ!」
カノンの大声が徐々に遠のき、俺は赤髪の子のされるがままだ。
「ちょ、赤髪さん! 一体どこに」
「リュート君! 安心してね! カノンみたいな性格の悪い淫乱女よりも、大人しくて可愛くてお姉さんな私の方が相応しいから!」
「要素多くね!? てか何なんすか!」
赤髪の子はなんの説明もせずに服を引っ張り回す!
ちぎれる、服がちぎれる!
最悪の場合、首もちぎれるんよ!
――瞬間、空気がいきなり澱んだように感じ、辺りが一気に暗くなる。
と、赤髪の子は立ち止まり、俺は地面に叩きつけられる。
「っいてぇ! なんなんだよお前!」
「ちっ、捕まったか。カノンのやつ~!」
赤髪の子は俺を離すと、両手の指をバキバキと鳴らす。
赤髪の子の身長は、多分150センチくらいで、ツインテールでいかにもロリって感じ。
真っ黒いワンピースを着ていて、ボインがすっごいボインだ。
ボインボインしてる、うん、ボインだ。
めっちゃボイン。
「甘かったわね。私から逃げられるとでも思った?」
「ふんだ! 捕まったとしても、アンタをぶっ飛ばせばいいだけのことだもん!」
説明が全く無いまま、なんか臨戦態勢の二人。
「待て待て待て! 説明しろよお前ら! 何がどうなってんだ!」
「リュートは下がってなさい。私がこの子を仕留めるから」
「だから説明しろって! 何が何やら」
段々、俺が『説明しろbot』と化して来てる。
あともう一回、『説明しろ!』で返答がなかったら、大人しく体操座りでこの二人を待つことにすると決めた。
「説明しろ!」
「うるさい! リュートは黙ってなさい!」
俺は、大人しく講堂の机のそばに体育座りをした。
なんか、その、仲間はずれにされた気分だ。
辺りを見渡すと、周りの人たちの動きが全て止まっていた。
何となく察したが、カノンや赤髪の子は人間じゃ無い。
魔法使いとかそう言う類のモノであると理解した。
「リュート! この子ね、私の敵のテルって子!」
あ、説明してくれるんすね。
「うん! 私、テル! テルちゃんでもいいよ!」
と、赤髪のテルは俺に向けてウインクをする。
か、可愛い……じゃなくて、説明説明!
「カノン。俺は何かに巻き込まれたんだな?」
「巻き込まれたとか失礼な。あのね。リュートはね、色んな王女に狙われてるのよ」
「ほう、王女。なんで?」
「リュートと子作りするため!」
「ほう、子作り……は!?」
いきなりぶっ込んできた子作り!?
話が見えなさすぎるだろ!
「リュート君! つまりね、カノンはリュート君と性行為したいって言ってるのよ! 無いよね~こんな淫乱女! 私のところに来たら、もっと優しくしてあげるから!」
「いやいやいや! 優しくって何を!?」
「そんなの、女の子に言わせちゃダメだよリュート君!」
「ふへぇっ!?」
「リュート! この女に耳をかしちゃダメ! 言ったでしょ、この子は私の敵だから!」
いやいや、その言い方的に、『リュートは私のモノよ』が滲み出てんのよ!
肉汁くらい溢れ出てるから!
「行くわよカノン! あう~!」
テルが犬みたいに吠えると、彼女の体がみるみる赤い光に包まれていく!
「なんだこりゃ! 魔法かっ!」
我ながら、すごい順応性だと思う。
一目見て魔法って理解できるとか。
ああ、なんだろ。
昔、俺が厨二病だったからなのか、何の驚きもないんだが。
『まぁ、魔法もあってもおかしく無いよね』くらい思ってるから、全然驚かない。
「リュート下がってて! この魔法に巻き込まれたら細切れよ! チャーシューみたいに!」
「ちゃ、チャーシュー!? 豚じゃねぇわ!」
俺はビビり驚き、柱の後ろに隠れる。
「心笛解放! ウィリアム・テル!!」
テルが叫ぶと、地面がバキバキと崩れ、辺りが赤い炎の様なモノで包まれていく!
「ひゃぁぁっ!」
俺は腰が抜けて、その場に崩れ落ちる。
これが、魔法っ!
「わぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」
テルは遠吠えの様な轟音を上げると、壁が徐々に崩れ始める!
「カノンっ! どうにかしろよ! 死んじまうよ俺!」
「待ちなさい! 今やってるから!」
カノンは両手胸の前に掲げ、何やらしている様だ!
「さぁ来いカノン! 今の私なら、この学校一個を消し飛ばせるわよ!」
「おいだってよカノン! 入学費とか結構払ってんだから、学校が消し飛んだら困るだろうが!」
「うるっさいバカ! やってるって言ってんでしょ!」
カノンの両手に光が集まり、胸の周りが輝き始める!
「心弦解放! ティレジアル!!」
カノンの胸から、ニュルニュルとヴァイオリンが生えてくる!
あれだ、なんか召喚みたいなやつだ!
「待たせたわね、テル! こっちは準備万端よ! どこからでもかかって来なさい!」
「バカ! かからせてどーする! 学校がぶっ壊れるって言ってんだろ! 止めろよ!」
「あーもうやかましい! リュートは黙って伏せてて!」
カノンはヴァイオリンの弦に弓を置くと、目を瞑って弦を掻き鳴らす!
その音は――、パッフェルベルのカノンだ!
あのゆっくりで滑らかなクラシック音のカノンを高速で弾いている!
「何やってんだよ! 魔法使えって!」
「使ってるわハゲ! もう喋るな!」
はい、すいません。
「ぐるるるる! リュート君にそんな言葉を吐くだなんて、やっぱりカノンじゃ不釣り合いだね! 私が貰っていくんだから!」
今見てみると、テルの姿は全くの別物だった!
まるで黒い鎧を身に纏っているかの様だ!
血の色の光が彼女を包み込んでいる!
そして――!
「行くよカノン! アンタの魔法と私の魔法、どっちが強いか勝負だ!」
「望むところよ! 受けて立つわ!」
受けて立たんくていいわ! って喉から出そうになったが、これ以上チャチャを入れると弓をケツの穴にぶち込まれそうだったからやめた。
「わぅぅぅぅぅぅぅっ!」
テルの遠吠えと共に、ファンファーレの様な音が流れる!
これは、ウィリアム・テルって曲だ!
運動会とかでよく聞くクラシック!
「これが、私の行進曲だっ!」
テルの可愛らしかった姿とは裏腹に、彼女は獣の様な禍々しい姿になっている。
尻尾が生え、耳が生え、まるで狼の様な姿――!
「行くわよカノン!」
「来いテル!」
テルは地面を蹴り上げると、学校の床が全部めくり上がる!
衝撃に耐えきれずに砕けたのだ!
テルは物凄いスピードでカノンへと向かっていく!
「おいカノンっ!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
――カノンの大声と共に、彼女の後ろの方に巨大な一つの大砲の様なものが現れる!
全長約5メートル、経口500ミリはある超特大な――大砲だ!
クラシック音楽であるパッフェルベルのカノンとは、最初はゆったりとした曲だが、中盤では一切り盛り上がる様な作品。
見たところ、カノンが使ってる魔法にはチャージが必要な様だった!
そのチャージが終わった瞬間、彼女の後ろに現れたあの大砲からやばい一撃が放たれるのだろう!
カノンは目を開き、弓で向かってくるテルを指す!
大砲は白い輝きを帯び、轟音と共に眩い光が迸る!
これが、カノンが使う魔法ってことだ!
「わぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」
「目標確認! 構えぇぇぇぇぇぇっ!!」
『ウィリアム・テル』!!!!!!
『カノン』!!!!!!
つづく。
平穏な日々を過ごそうと思い、大学に入ったが束の間、黒髪美女のカノンとか言う女から一撃でぶっ壊されることになった俺。
すでに、大学中に『リュート』と言う名前は知れ渡り、どこもかしこも『リュートって男が外国人美女に告白された』って噂で持ちきりだ。
一部では、「リュートは人間では無い』と根も葉もない噂が流れているらしい。
ってか、殆どが妬みだ。
冴えない俺が、まさか入学一日目で告白されたんだぞ!?
そりゃまぁ、童貞諸君は俺をぶち転がしたい気持ちは分からんでも無い。
仮に俺の立場が別の奴だったら、そいつを縦に折り畳んで煮えたぎった鍋にぶち込むもの。
◆◆◆◆◆◆
そんな俺とカノンは、校内を散策していた。
入学式が終わり、個々同士でグループが作られていく最中、俺たちはお散歩みたいにカップルとして歩いているのだ。
視線という弾丸が顔面に当たりまくって痒い。
それにしても、広い講堂だ。
俺はあと4年間、この講堂にお世話になることになる。
「ねぇリュート! みんな私たちのことを祝福してくれてるよ?」
感傷的になってみようかとしたが、それは1人の囀り声で台無しになる。
「カノンさん……」
俺と(半ば強制的に)腕を組んでいるのが、俺の自慢の彼女(笑)であるカノンだ。
しれっと、豊満な胸が当たっている。
俺の人生で、最も女性と密着した瞬間を更新し続けている。
ふわっふわのオムライスが何度も腕に擦れて心地良い。
あぁ、ケッチャプとかつけて頬張りたいものだ。
あぁ、大学に入って、俺はこう言う『女の子とウェーイ!』をしたかったが、まさか早々叶うとはマジで思わなんだ。
そう思わなんだよ。
にしても、くっつき過ぎ!
4月であったかいんだから、あんまりグイグイ寄るなよ!
ほぼ社交ダンスなんよ!
「カノンさん。暑いんですけど」
「そりゃもうアツアツでしょ!」
「そう言うことじゃないんすよ。暑苦しいと言うとります」
「えー? 恋人なんだから引っ付かなきゃ!」
どこの常識なのかは知らないが、こう、その、引っ付かれすぎるとマジで他人の目が気になって仕方がないのだ。
ほら、あそこの童貞力30000越えなメガネ連中を見てみろ。
今にも『殺害ナリ~』とか言われてSNSとか言う刃物で刺されかねんから。
「これはこれは、私の大親友かっこ笑いのリュートじゃありませんか、はっはー」
俺を呼ぶ声。
振り返ると、俺の親友であるエータがそこにいた。
さっき、カノンさんから告られた際にちゃかしてきた張本人だ。
うん、後で絶対に殺す。
あと、『(笑)』を言葉で言うのやめろ。
恥ずかしく無いのかキモオタめが。
「あら、お友達?」
「そう。俺のクソ友達のエータ。つか、離れろって! 恥ずかしいから!」
「ふ~ん。アツアツなんだなリュートかっこ笑い。どう言う風の吹き回しで付き合ったんだ?」
言い方がもう、槍なんよ。
槍の先端くらい鋭いんよ。
あと、名前にかっこ笑いつけんのやめろ。
「リュートね、私に一目惚れしたんだって」
「はぁ!? 調子に乗んなよ、かっこ笑い!」
「俺の名前はかっこ笑いじゃねぇわ! しかも言ってねぇし!」
「このお方がそう仰るならそうなんだよかっこ笑いめが!」
「『めが』ってなんだよ!」
ツッコミどころの多い大親友くん(笑)だ。
この場をさっさと収めて、早く家に帰ってゲームがしたいところだ。
こんなのに付き合ってられん。
「私、このリュートと生涯を添い遂げる椿 奏音! カノンって呼んでね」
「ああまた変なことを!」
カノンは俺から離れると、エータとフランクに握手をする。
「か、か、カノンさん! 初めまして! 俺もエータって呼んでくだせぇ!」
エータはすでにカノンにデレデレ。
そのはず、俺とエータは高校まで全くと言っていいほど女っ気のないクソ童貞だ。
エータも人生で初めて女の子と手を握ったのだろう。
そりゃもう鼻の下が伸びきって、チーズハッドクみたいになってんの。
「えへへ、へへ」
「よろしくね!」
「いい子だなぁカノンさんは」
「カノンでいいよエータ君!」
「しょ、しょうでしゅか。でひゅひゅ」
「騙されるなエータ! コイツ、さっきから適当なことしか言ってねぇから!」
「カノン様にコイツ呼ばわりするなよ、かっこ笑い如きが!」
「『如き』やめろ!」
そう言って、エータはどさくさに紛れて、カノンの胸を凝視してやがる!
やめろ! 気持ち悪いんだよ童貞が!
こんなんが親友だと知れたら、俺は恥ずかしくてお前と一緒に歩きたくなくなるだろ!
――と、いきなり俺は服を引っ張られ、体が宙に浮く!
「あぶっ!」
驚いて変な声をあげてしまう!
「はっ、リュート!」
カノンは俺に手を伸ばすが、俺は彼女の手を取れなかった!
「なんだっ!?」
俺は振り向くと、赤髪のちっちゃい子の顔が側に見えた!
二つの髪の束が俺の顔にペチペチ当たる!
「やーいやーい! リュート君は私のもんだもん!」
「っテル! 待ちなさい! 私のリュートよ!」
『私の』、ってなんだ!
つか、なんだんだこの子!
めちゃくちゃ力強いってか、足がめちゃくちゃ早いぞ!
「ああっ! やられたぁ!」
カノンの大声が徐々に遠のき、俺は赤髪の子のされるがままだ。
「ちょ、赤髪さん! 一体どこに」
「リュート君! 安心してね! カノンみたいな性格の悪い淫乱女よりも、大人しくて可愛くてお姉さんな私の方が相応しいから!」
「要素多くね!? てか何なんすか!」
赤髪の子はなんの説明もせずに服を引っ張り回す!
ちぎれる、服がちぎれる!
最悪の場合、首もちぎれるんよ!
――瞬間、空気がいきなり澱んだように感じ、辺りが一気に暗くなる。
と、赤髪の子は立ち止まり、俺は地面に叩きつけられる。
「っいてぇ! なんなんだよお前!」
「ちっ、捕まったか。カノンのやつ~!」
赤髪の子は俺を離すと、両手の指をバキバキと鳴らす。
赤髪の子の身長は、多分150センチくらいで、ツインテールでいかにもロリって感じ。
真っ黒いワンピースを着ていて、ボインがすっごいボインだ。
ボインボインしてる、うん、ボインだ。
めっちゃボイン。
「甘かったわね。私から逃げられるとでも思った?」
「ふんだ! 捕まったとしても、アンタをぶっ飛ばせばいいだけのことだもん!」
説明が全く無いまま、なんか臨戦態勢の二人。
「待て待て待て! 説明しろよお前ら! 何がどうなってんだ!」
「リュートは下がってなさい。私がこの子を仕留めるから」
「だから説明しろって! 何が何やら」
段々、俺が『説明しろbot』と化して来てる。
あともう一回、『説明しろ!』で返答がなかったら、大人しく体操座りでこの二人を待つことにすると決めた。
「説明しろ!」
「うるさい! リュートは黙ってなさい!」
俺は、大人しく講堂の机のそばに体育座りをした。
なんか、その、仲間はずれにされた気分だ。
辺りを見渡すと、周りの人たちの動きが全て止まっていた。
何となく察したが、カノンや赤髪の子は人間じゃ無い。
魔法使いとかそう言う類のモノであると理解した。
「リュート! この子ね、私の敵のテルって子!」
あ、説明してくれるんすね。
「うん! 私、テル! テルちゃんでもいいよ!」
と、赤髪のテルは俺に向けてウインクをする。
か、可愛い……じゃなくて、説明説明!
「カノン。俺は何かに巻き込まれたんだな?」
「巻き込まれたとか失礼な。あのね。リュートはね、色んな王女に狙われてるのよ」
「ほう、王女。なんで?」
「リュートと子作りするため!」
「ほう、子作り……は!?」
いきなりぶっ込んできた子作り!?
話が見えなさすぎるだろ!
「リュート君! つまりね、カノンはリュート君と性行為したいって言ってるのよ! 無いよね~こんな淫乱女! 私のところに来たら、もっと優しくしてあげるから!」
「いやいやいや! 優しくって何を!?」
「そんなの、女の子に言わせちゃダメだよリュート君!」
「ふへぇっ!?」
「リュート! この女に耳をかしちゃダメ! 言ったでしょ、この子は私の敵だから!」
いやいや、その言い方的に、『リュートは私のモノよ』が滲み出てんのよ!
肉汁くらい溢れ出てるから!
「行くわよカノン! あう~!」
テルが犬みたいに吠えると、彼女の体がみるみる赤い光に包まれていく!
「なんだこりゃ! 魔法かっ!」
我ながら、すごい順応性だと思う。
一目見て魔法って理解できるとか。
ああ、なんだろ。
昔、俺が厨二病だったからなのか、何の驚きもないんだが。
『まぁ、魔法もあってもおかしく無いよね』くらい思ってるから、全然驚かない。
「リュート下がってて! この魔法に巻き込まれたら細切れよ! チャーシューみたいに!」
「ちゃ、チャーシュー!? 豚じゃねぇわ!」
俺はビビり驚き、柱の後ろに隠れる。
「心笛解放! ウィリアム・テル!!」
テルが叫ぶと、地面がバキバキと崩れ、辺りが赤い炎の様なモノで包まれていく!
「ひゃぁぁっ!」
俺は腰が抜けて、その場に崩れ落ちる。
これが、魔法っ!
「わぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」
テルは遠吠えの様な轟音を上げると、壁が徐々に崩れ始める!
「カノンっ! どうにかしろよ! 死んじまうよ俺!」
「待ちなさい! 今やってるから!」
カノンは両手胸の前に掲げ、何やらしている様だ!
「さぁ来いカノン! 今の私なら、この学校一個を消し飛ばせるわよ!」
「おいだってよカノン! 入学費とか結構払ってんだから、学校が消し飛んだら困るだろうが!」
「うるっさいバカ! やってるって言ってんでしょ!」
カノンの両手に光が集まり、胸の周りが輝き始める!
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あれだ、なんか召喚みたいなやつだ!
「待たせたわね、テル! こっちは準備万端よ! どこからでもかかって来なさい!」
「バカ! かからせてどーする! 学校がぶっ壊れるって言ってんだろ! 止めろよ!」
「あーもうやかましい! リュートは黙って伏せてて!」
カノンはヴァイオリンの弦に弓を置くと、目を瞑って弦を掻き鳴らす!
その音は――、パッフェルベルのカノンだ!
あのゆっくりで滑らかなクラシック音のカノンを高速で弾いている!
「何やってんだよ! 魔法使えって!」
「使ってるわハゲ! もう喋るな!」
はい、すいません。
「ぐるるるる! リュート君にそんな言葉を吐くだなんて、やっぱりカノンじゃ不釣り合いだね! 私が貰っていくんだから!」
今見てみると、テルの姿は全くの別物だった!
まるで黒い鎧を身に纏っているかの様だ!
血の色の光が彼女を包み込んでいる!
そして――!
「行くよカノン! アンタの魔法と私の魔法、どっちが強いか勝負だ!」
「望むところよ! 受けて立つわ!」
受けて立たんくていいわ! って喉から出そうになったが、これ以上チャチャを入れると弓をケツの穴にぶち込まれそうだったからやめた。
「わぅぅぅぅぅぅぅっ!」
テルの遠吠えと共に、ファンファーレの様な音が流れる!
これは、ウィリアム・テルって曲だ!
運動会とかでよく聞くクラシック!
「これが、私の行進曲だっ!」
テルの可愛らしかった姿とは裏腹に、彼女は獣の様な禍々しい姿になっている。
尻尾が生え、耳が生え、まるで狼の様な姿――!
「行くわよカノン!」
「来いテル!」
テルは地面を蹴り上げると、学校の床が全部めくり上がる!
衝撃に耐えきれずに砕けたのだ!
テルは物凄いスピードでカノンへと向かっていく!
「おいカノンっ!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
――カノンの大声と共に、彼女の後ろの方に巨大な一つの大砲の様なものが現れる!
全長約5メートル、経口500ミリはある超特大な――大砲だ!
クラシック音楽であるパッフェルベルのカノンとは、最初はゆったりとした曲だが、中盤では一切り盛り上がる様な作品。
見たところ、カノンが使ってる魔法にはチャージが必要な様だった!
そのチャージが終わった瞬間、彼女の後ろに現れたあの大砲からやばい一撃が放たれるのだろう!
カノンは目を開き、弓で向かってくるテルを指す!
大砲は白い輝きを帯び、轟音と共に眩い光が迸る!
これが、カノンが使う魔法ってことだ!
「わぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」
「目標確認! 構えぇぇぇぇぇぇっ!!」
『ウィリアム・テル』!!!!!!
『カノン』!!!!!!
つづく。
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昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
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【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
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